本・書籍
自己啓発
2019/9/23 21:45

本嫌いな人にこそ読んでほしい! ピース又吉流・読書のススメ『夜を乗り越える』

私は比較的本を読む方だと思う。児童書からはじまり、ティーンズノベル、小説、新書、漫画にエッセイなど、夢中になるジャンルはその時々で違うが、常に何かしらの本を手にしてきた。

 

だがしかし。読んでいる瞬間は感銘を受けたり、共感したり、時には苛立ったり反発したりと満喫するのだが、しばらくするとすっかりストーリーを忘れてしまう。タイトルを聞いても、すでに読んだか未読かすら怪しいときがある。

 

こうなると、自分にとっての読書の意義を見失いそうだ。よりたくさんの言葉や表現に触れることで、いわゆる「文章力」や「語彙力」といった国語力に関する効果は実感できるけれど、もっと本質的な読書の意義がはたしてあるのだろうか。

 

そもそも、なぜ人は本を読むのか。

 

そんな壮大なテーマに丸々一冊かけて向き合ったのが、『夜を乗り越える』(又吉直樹・著/小学館・刊)だ。

 

なぜ人は本を読むのだろう?

又吉直樹氏といえば、芸人でありながら第153回芥川賞を受賞したことで一躍話題になった人だ。以降、芸人としての活動と並行して、小説、随筆はもちろん、自由律俳句、創作四字熟語など、さまざまな分野の著書を世に送り続けている。

 

今回ご紹介する『夜を乗り越える』は、エッセイであり随筆であり、はたまたいずれにも該当しない。ただひとつ、「なぜ本を読むのか?」というテーマに基づいて、又吉氏の想いが描かれている。かなりの熱量で。

 

本書のはしがきには、こう述べられている。

 

もうすでに本が好きだという方には無用の内容かもしれませんが、本を読む理由がわからない方、興味はあるけど読む気がしないという方々の背中を頼まれてもいないのに全力で押したいと思いますので、おつき合い頂ければ幸いです。

(『夜を乗り越える』より引用)

 

本が好きだけど、本を読む理由を見失った私は又吉氏の想定読者ではないかもしれないが、「いまの自分にピッタリ」だと感じて、手にとった次第だ。

 

実際に読んでみると、あらゆる観点から本の魅力が述べられていて非常に興味深い。

 

とりわけ又吉氏が「本っておもしろい」と感じるのが、「普段からなんとなく感じている細かい感覚や自分の中で曖昧模糊(あいまいもこ)としていた感情を、文章で的確に表現された時」なのだそう。つまり自分の感覚の確認、共感だ。

 

だからといって、「あるある、わかる!と共感できるから、本はおもしろい」とは言っていない。本を読んで共感することが、読書のおもしろさの半分。もう半分は、「新しい感覚の発見」だと又吉氏は述べる。

 

自分の中にこれまでなかった考えや視点。「そうそう!」と共感はできないかもしれない、むしろ「ありえへん」と反発を覚えるかもしれないけれど、「だから理解できない」と拒絶するのではなく、「そういう見方があったか!」と新たな視点を受け入れることで、思考の幅が広がる。

 

ここを意識して本を読むことで、読書はさらにおもしろいものになると又吉氏は教えてくれる。

 

 

本はまた戻ればいい。「再読」のススメ

正直、私はよほどのお気に入り以外、再読はしない。次々と新しい書を読みたくなってしまうから。しかしながら、本の良さのひとつは、「一度買ったら、何度も読める」つまり再読できる点が大きいと又吉氏は述べる。

 

一回読んでなんとなく理解できたと思っても、もう一度読むとまったく別の話だと感じたり、昔読んで理解不能だと思った本が、あれから数年経って再び開くと、「こんな意味だったのか!」と感銘を受けたり。

 

又吉氏自身も、初めて夏目漱石の「それから」を読んだ時は、字がすごく小さいと感じたし、難しくて途中で諦めたらしい。だが、その後たくさんの近代文学を読み、もういちど「それから」に戻ってきたら、「めちゃくちゃおもしろかった」と感じたという。全然文字が小さいと感じない、近代文学独特な言い回しや表現に慣れ、どんどん自分の中に言葉が入ってきて、情景が浮かんできたというのだ。

 

「本をおもしろく読めないのは自分の責任ではないのでしょうか」

 

この一文だけ切り取ると誤解を招きそうだが、まさに読書の良さをあらわした体験だろう。

 

 

人生に迷い、悩み、憤りを感じる人にこそ「近代文学」がハマる

もうひとつ、印象に残った言葉を最後にご紹介したい。

 

近代文学は、本は、賢い人達のためだけにあるものではありません。明日からバンドをやろうという人や芸人をやろうという人が読んでもいいものです。むしろ、彼らとの方がめちゃくちゃ相性がいいものです。

(『夜を乗り越える』より引用)

 

彼自身、勉強が苦手で、わざと「負のキャラクター」を演じながらも常に疑問や憤りを感じていた少年時代だった。そんなある日、文学と出会い、強烈な「共感」を得る。その後、たくさんの作品や言葉と交わり、助けられ、今日の又吉直樹がいる。

 

『夜を乗り越える』というタイトル、最初はあまり深く考えずに読みはじめたけれど、ある箇所からぐっと本質を捉えた題名だと気づき、鳥肌が立った。

 

大学時代に代表作と言われる近代文学の書はある程度読み漁ったけれど、なんとなく「読んだ」ことに満足していた自分は浅かった。40歳のいま改めて再読したら、もっと違った何かを感じ取れるだろうか。まずは、実家に置き去りにしてきた『人間失格』から読み直してみようと思う。

 

【書籍紹介】

夜を乗り越える

著者:又吉直樹
発行:小学館

芸人で、芥川賞作家の又吉直樹が、少年期からこれまで読んできた数々の小説を通して、「なぜ本を読むのか」「文学の何がおもしろいのか」「人間とは何か」を考える。また、大ベストセラーとなった芥川賞受賞作『火花』の創作秘話を初公開するとともに、自らの著作についてそれぞれの想いを明かしていく。「負のキャラクター」を演じ続けていた少年が、文学に出会い、助けられ、いかに様々な夜を乗り越え生きてきたかを顧みる、著者初の新書。

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