『働かない技術』と聞いて、どんな働き方を想像するでしょうか?
気を緩める方法とか、休み方とか、働かずしていかにお金を儲けるかとか、なんとなく楽する方法を考えちゃいますよね。私自身も『働かない技術』(新井健一・著/日本経済新聞出版社・刊)を読む前には、よーし明日から働かずにお金を儲ける方法を探るぞ! なんて思っていたのですが、読んでみて驚き。
日本人は「働かない」ことが苦手な人種だということが見えてきたのです。AIが普及し、外国人労働者が増え、ますます「生産性」を問われるこれからの時代を生き抜くために、今、日本人に求められているのはいかに「働かないか」。日本の働き方の歴史を紐解きながら、日本人にあった働かない技術をお伝えしていきます!
「狩猟型人材」と「農耕型人材」とは?
「日本人は働き者だ」というのは、海外の人からみてもよく言われていることです。その背景には何があるかというと、日本人にとっての労働は「神事」と結びついていて、丁寧に働くことや苦労することが美徳という考えが根付いてしまっているんだとか。対して欧米人は、特にキリスト教徒にとって労働は「罰」と捉えられていることが多いため、いかに効率よく働くか? という文化が根付いているそうです。
経営コンサルタントとして数多くの講演をされている著者の新井さん曰く、日本人は放っておくと「農耕型」の働き方になってしまうんだとか。農耕型と対にある「狩猟型」の働き方は、本人の体力や知性に左右されるので年齢等は関係ないのですが、「農耕型」は経験値に左右されるので年齢が高い人ほど評価される傾向にあるそうです。
もちろん「狩猟型」であっても、集団で狩りを行うが、その集団を率いるリーダーやメンバー個々の力量により、獲物を十分確保できるかできないかには大きな差が出る。
一方「農耕型」も集団で農耕を行うが、集団が闘いを挑むのは季節や天候であるため、個人の力量が全体の収穫にもたらす影響力は、相対的に小さくならざるを得ない。
また「狩猟型」の労働は、狩りをしている時間に限定されるのに対して、「農耕型」の労働は、田畑の全般管理であるため時間は限定しづらい。
(『働かない技術』より引用)
こういう働き方が日本では根付いてしまっているから、自分だけが「よし! 明日から狩猟型に!」と思っても、長時間残業している人が「えらいぞ!」と言われていたり、経験値だけ高くて新しいことに取り組まない上層部のためにお出迎えしたり、「困ったな」から進展しない会議をいつまでも続けていて感情を共有することを大切にされている組織だったら、いつまでたっても変わらないですからね。
丁寧に仕事をすることももちろん大切ですが、その仕事の真の目的は何か理解しながら、いかに働かずに働くかを考えていく必要がありますね。う〜ん、難しい!(笑)
日本企業の大きな問題はスペシャリストが育ちにくい環境と言うけれど…
本書では、とある企業の課長さん2名が「働き方改革」の間でどのように管理していくかをSCENE1〜12までのストーリーとして掲載されています。その中で、人事部の課長として働く矢島さんが、大学の同級生で外資系のコンサルティングファームで働く荒井さんと再会し、どうして日本の会社では「働き方改革」が進まないのかを語るシーンがあったのでちょっと長いですがご紹介します。
「働き方改革が進まない制度的理由、矢島わかってる?」
「すまない、正直勉強不足だ」
「勉強不足なのはしょうがないのさ。矢島、課長になる前までは営業にいたんだろ?」
「そうだけど」
「それがメンバーシップ型の働き方の弊害だ。スペシャリストが育たない。いや、ちがうな。ジョブ型の働き方で言えば、スペシャリストはそのポストを得た時からスペシャリストでなければいけないんだよ」
「働き方の違いは勉強した。でもなんで日本企業はわざわざそんな働き方をしてきたんだ?」
「それは人員の補完が簡単だからだよ。会社側が人事権を握っていて、かつ人材育成の負担を職場に負わせれば、空いたポストにすぐに人材を配置できる。ジョブ型だと職種やポストに人材が固定しているから、外から人材を引っ張ってこなければならない。だからさ」
(『働かない技術』より引用)
欧米のようにジョブ型の働き方をするのであれば、営業部にいた矢島さんは、そのまま営業課長になるのでしょうが、日本企業の制度の場合、会社が人事権を握っているため営業部から人事部への異動があたりまえにされています。これがメンバーシップ型の弊害だというのです。
最近の中途採用の場合は、ジョブ型がほとんどになってきましたが、新卒採用の場合はなかなかそうはいきません。教育して営業のプロに育てても会社判断で別の事業部に飛ばされてしまう…。確かにこれでは働き方改革は進みませんよね。慣れたころにまた新しいことを覚えて、そのためうまく仕事が回らず残業が続く。でも規則だからと強制帰宅させられてしまって残りは家で作業。会社全体でも効率が下がっていることに気がつかぬまま「仕方ない」で仕事を回しているとは、辛すぎます!!
じゃあ改革だ! と思っても業務改善には課題がたくさん…どこから始めたらいいの?
よし、できることから「業務改善」だ! と思ったそこのあなた、業務改善のフレームワークに『ECRS』というのがあるそうです。
Eliminate(排除):既存業務の何かを取り除くことはできないか?
Combine(統合と分離):類似業務を一つにまとめるか、異なる業務を分けられないか?
Rearrange(入れ替えと代替):業務の順序・やり方を変更することはできないか?
Simplify(簡素化):業務を単純にすることはできないか?
(『働かない技術』より引用)
言われてみれば当たり前のことかもしれませんが、日本人は農耕型の働き方をしてしまいがちということを忘れずに、定期的に『ECRS』で業務フローを見直せるように慣れば、日本人ならではの働き方を見出すことができると思います。
全て欧米型にして、働くな! ということではなく、日本人には、日本企業の癖としてこういうことがあるんだということを知った上で、働き方を変えていくことができれば、これから起きるであろうテクノロジーや環境の変化にも順応に対応ができるようになるのではないでしょうか? ヒントを探しているあなたに『働かない技術』よ、届けー!!
【書籍紹介】
働かない技術
著者:新井健一
発行:日本経済新聞出版
生産性の低い会議に、自社社長の“ご接待”、「売上のため」に部下と残業…こんなことをしている人材はもう生き残れない?ビジネス環境が安定・安泰から遠ざかるVUCAの時代、いまこそ「働かない」ためのスキルを必死で磨かなくてはならない。残業が蔓延し生産性を上げられない職場のボトルネックを人事管理の歴史からひもとき、ビジネスパーソンが身につけるべき真の「働く技術」を考える。
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