先日、奇妙なことに気づきました。私が好きなものを並べてみると、イギリスに関わるもの、それもヴィクトリア女王が統治していた時代に生まれたものが多いのです。これは単なる偶然とは思えません。
イギリスを知る10のキーワード
『ヴィクトリア朝が教えてくれる英国の魅力』(イギリスを知る会・著/ダイヤモンド・ビッグ・刊)は、私が気づかないままに「お気に入り」にしてきたものが、どんな意味を持っているのか教えてくれます。
『ヴィクトリア朝が教えてくれる英国の魅力』は、10のキーワードを選び、それぞれの分野に詳しい専門家が解説してくれます。取り上げられているのは以下の10項目。
1.ヴィクトリア女王
2.ウィリアム・モリス
3.シャーロック・ホームズ
4.ビートン夫人
5.コックニー
6.建築
7.アフタヌーンティー
8.食
9.シェリー酒
10.ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアム(『ヴィクトリア朝が教えてくれる英国の魅力』より抜粋)
順番にこだわることはありません。興味がある項目から読み始めてみましょう。たくさんのヒントを得ることができます。
1.ヴィクトアリア女王と白いウエディングドレス
まずは、ヴィクトリア女王から。ヴィクトリア女王は1837年、まだ18歳の若さで即位。その後、63年7か月もの長きにわたり君臨し、大英帝国の繁栄を築きあげました。
その華やかさから、女王になるべくして生まれてきた方という印象を持ちますが、実は様々な偶然が重なって女王になったといいます。女王は幸福な妻でもありました。戴冠式の後、アルバート公と結婚をします。夫婦は仲むつまじく4男5女という子宝も得て、数々の困難に打ち勝っていきます。だからこそ、イギリスは「大英帝国」の名に恥じない素晴らしい時代を迎えることができたのでしょう。
女王は、結婚式で着る花嫁衣装として純白のドレスを選びました。以来、上流階級から中産階級にいたるまで白いウエディングドレスが流行したといいます。ウエディングドレスははるか昔から白いものと思っていましたが、知らないうちにヴィクトリア女王の影響を受けていたのですね。
2.ウィリアム・モリス、その光と影
日本でも、人気のあるウィリアム・モリス。イギリスを代表する詩人であり、「近代デザインの先駆者」として有名です。植物や動物をモチーフにしたテキスタイルに魅了されている人も多いでしょう。
彼が暮らしたり学んだ場所は、観光名所となっています。とくにモリスが新居として建てた「レッド・ハウス」や、モリス一族が永遠に眠る「ケェルムスコット・ハウス」は重要です。
一番驚いたのは、モリスの妻・ジェインのことです。ジェインは画家ロセッティのモデルであり、愛人でもありました。モリスはその関係を知ってもなお、彼女を愛し続けたといいます。モリスは絶望の中で美しいものを創り出していたということなのでしょうか。
3.シャーロック・ホームズは我らのヒーロー!
世界で最も有名な探偵・シャーロック・ホームズ。小説の主人公だというのに、歴史的な偉人であるかのようです。実在の人物と誤解している人もいるかもしれません。
映画化やテレビ化ももはや数え切れないほどで、いったいいくら稼ぎ出したのか見当もつきません。ところが、ホームズが生み出された理由は、著者・コナン・ドイルが金欠だったためだといいます。
コナン・ドイルの本業は医師です。彼は医院を開業したものの経営がうまくいかず、小説を書いて家計費を稼ごうとしました。コナン・ドイルがお金に困っていなかったら、私達はシャーロック・ホームズを知らない人生を過ごすことになったのかもしれません。
4.カリスマ主婦のはしりビートン夫人
ビートン夫人。個人的には、このキーワードに一番惹きつけられました。まさに私が今、一番興味があって調べている最中の人物だからです。
彼女はヴィクトリア朝のロンドンで燦然と輝く「カリスマ主婦」であり、優秀な編集者でもありました。彼女が夫と協力して発行した『ビートンの家政本』は、今もなおイギリスの家庭で読み続けられています。
レシピだけではなく、家庭の中で起こる様々なことに対処するマニュアル本としての側面も持つ雑誌を編集した彼女に、興味はつきません。150年もの間、売れ続ける本の作者に興味を覚えない人はいないのではないでしょうか。
5.コックニーと「マイ・フェア・レディ」
ロンドンの下町イースト・エンドに暮らすワーキングクラスの人たちは、かつで「コックニー」と呼ばれていました。元々はロンドンにある聖メアリー・ル・ボウの教会の鐘が聞こえる範囲で生まれ育った人たちをさしたといいます。
彼らは独特の文化を持つことでも知られ、舞台や映画で人気のあるキャラクターです。もっとも有名なのは「マイ・フェア・レディ」。主人公のイライザはヒギンズ教授にコックニーの訛りをなおしてもらい、優雅な貴婦人として生まれ変わります。もっとも、果たして訛りをなおしたほうがよかったのか、どうか。今となっては意見が分かれるところでしょう。
6.イギリス建築を観て歩きたい
イギリスは歴史を感じさせる重厚な建物が建ち並んでいることで知られています。観ているだけで歴史物語のセットに紛れ込んだような気持ちになります。とくにヴィクトリアン・スタイルが多く残されているといいます。独特で華やかな外観を知るとますますイギリスの町が輝いて見えるでしょう。
こうした歴史的建造物に、人々は今もごく普通に住んだり、ホテルやレストランとして使っているのですから驚きではありませんか!
7.アフタヌーン・ティーの源は?
日本でも人気絶頂のアフタヌーン・ティー。これはヴィクトリア朝時代の中頃にイギリスのベッドフォード公爵夫人が考え出したものです。綺麗なカップに、魅惑的なケーキやスコーンが今日されるこの習慣は、実は夕飯までお腹がすいてしまって待てない女性達の間で広まったものだといいます。優雅な習慣の裏に、こうしたお茶目な裏話があることが、楽しくてなりません。
8.イギリスの食事はまずくない!
イギリスの食事はまずいとよく言われますが、私はそうは思いません。さらに、「ピーター・ラビットのおはなし」の中に出てくる野菜や、ヴィクトリア朝時代に品種改良されたルバーブという蕗に似た植物など、おいしいものがたくさんあります。
それらのウンチクを読むのは本当に楽しい経験です。他にもおさまりきれないほどたくさんの美味しいものが記されていて、やはりイギリスの食事はまずいわけではないとわかります。
9.シェリー酒
シェリー酒について、私はまったく知識がありませんでした。「食前に飲む、ちょっと気取ったイギリスのお酒」くらいに思っていたのです。ところが……。
シェリーは、スペイン南部のヘレス・デ・ラ・フロンテーラという町、及びその周辺でだけ造られる「白ワインの一種」なのだそうです。
ヴィクトリア朝時代前期は「シェリーの進化が始まった時代」であり、中期は「シェリーが一般化した時代」、そして後期は「もはやシェリーを選ばないことのほうが不思議な時代」になるといいます。
実は私は大のビール好きで、イギリスにいくと昼からビールが飲みたくなります。けれども、シェリーも楽しみたいと思うようになりました。
10.ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアム
ロンドンに旅行に行くと、訪ねたい美術館や博物館が多すぎて目がまわりそうになります。大英博物館、ナショナル・ポートレート・ギャラリー、テート・ブリテンなど、何日あっても足りません。10個目のキーワードとなっている、ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアムも忘れてはいけません。世界を代表する美術工芸博物館ですから。
とくに、アンティーク好きにはたまらない「ミュージアム・ピース」と呼ばれるお宝が収蔵されているといいます。広大な博物館ですが、「おすすめ展示コーナー」が示され、詳しい説明もついているので、確かめてみてください。
扉を開こう
『ヴィクトリア朝が教えてくれる英国の魅力』は、これからロンドン旅行を計画している人にとって優れたガイドブックです。イギリスに行かなくてもヴィクトリア朝に興味がある人には楽しい読み物です。
そして、イギリスについて勉強したいと思っている人には良い入門書となります。ヴィクトリア朝への扉、あなたも叩いてみてはいかがでしょう?
【書籍紹介】
ヴィクトリア朝が教えてくれる英国の魅力
著者:イギリスを知る会
発行:ダイヤモンド・ビッグ社
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