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2020/7/15 21:45

レノボ・ジャパン社長の日本語愛に満ちた1冊ーー『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』

文章を書くことが仕事なので、伝わりやすい形容や比喩、あるいは例えツッコミ的な表現のバリエーションは数多く持っておきたい。意識的に探してはいないけれど、目につくものは記録しているなかで、死語に近い言い回しがいまだに使われているのに気づくことがある。

 

 

アウト・オブ・デイトな表現

この間、少し上の年代の方とお話ししていた時「そりゃあ、六日のあやめだね!」とおっしゃった。その瞬間は中途半端な微笑みを返すだけで済ませ、相手がトイレに行った隙にスマホで調べて意味を確認した。“時機に遅れて役に立たないものごとのたとえ”らしい。

 

「クモの子を散らす」は、かつてはビジュアルな表現の代表格だったのだろう。でも、1962年生まれの筆者でさえ、実際にクモの子が散るところは見たことがない。比喩表現というのは、聞く人の大多数がすぐに思い浮かべることができる集合的無意識に近いイメージに基づくはずだ。そしてそれは、時代と共に変化して当然だろう。

 

 

日本語愛に満ちた本

日本で生まれて日本で育ち、ずっと日本語を使ってきた人間でさえ意味や使うシチュエーションについて不確かな表現があるのだから、外国生まれの人にとってはかなり難しいに違いない。

 

日本語を学ぶ人なら誰もが一度は感じたことがあるはずの疑問に答えてくれるのが『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』(デビッド・ベネット・著/株式会社KADOKAWA・刊)だ。この本の最大の特徴を訊ねられたら、筆者は即座に「日本語愛」と答える。

 

著者のベネットさんはカナダのトロントで育ち、高校1年生で交換留学生として初来日。一度カナダに帰り、大学3年生の時に再来日して早稲田大学日本語教育センターで学んだ。カナダに帰って大学院を卒業した後、もう一度日本へ。この時は文部科学省の国費外国人留学生制度を利用し、学習院女子大学大学院で平安時代の古典文学を学んだ。ベネットさん自身も“日本語の虜”になっていったと語っている。

 

 

「日本語お上手ですね」なんていうレベルじゃない

現在レノボ・ジャパンの代表取締役を務めるベネットさんは、面白いと感じた表現や微妙な言葉遣い、そして文法に関する知識を学生のころから書き溜めてきた。

 

当時は将来日本語研究者になることを密かに夢見ていたのですが、守らなければならない家族ができていたので、もう一つの得意分野であったITの世界に身を置くようになります。

しかしそれ以降もこのメモだけはコツコツと更新を続け、気がつくと膨大な量になっていました。

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

日本語ネイティブではない人が流れのよい言葉遣いで文章を綴るのを目の当たりにすると、ちょっと焦りを感じる。「日本語、お上手ですね」なんていうレベルの話じゃない。

 

 

不思議で理不尽だからこその愛情

心から愛しているからこそ、疑問が生まれると徹底的に解明したくなる。その姿勢は、章立てにも垣間見える。

 

PART 1 これって何!? 直訳できない変な日本語

PART 2 ウサギは一羽、パンツは一丁? 日本語の数え方

PART 3 なんでそうなる!? 矛盾した日本語

PART 4 何が違うの? 似ている日本語

PART 5 謎がいっぱい! 漢字の秘密

PART 6 頼む、教えてくれ! 考えると眠れなくなる日本語

PART 7 外資系社長もびっくり! 仕事の日本語

 

漢字の勉強の難しさはある程度わかるような気がするが、次のような例はどうだろう。筆者が冒頭で紹介した表現を思い出していただきたい。

 

ヤニ下がる(脂下がる)。最近の人はあまり使わない言葉ですね。しかし日本語を習っている外国人には、その言葉を今の日本人が実際に使っているかどうかを知るすべはありませんので、時にはこうした珍しい日本語について、日本人以上の知識を身につけてしまうことがあります。

『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

日本人にとってはあまりにも当たり前―慣用的すぎる―であるがゆえに、どうやって説明したらよいのか悩むものもある。

 

日本人の皆さんは、「グリーンシグナル」と「青信号」が同じものであることはごく自然に受け止められると思います。しかし、例えばですよ、茶色の犬を見て「ピンク色の犬」と言われたらかなり混乱しますよね。これが私たち外国人の感覚なんです。

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

確かに、緑(グリーン)は青(ブルー)じゃない。色つながりでもうひとつ。「紅白歌合戦」なのに、対決構造は“紅組”ではなく“赤組”対白組であることの不思議さについて記された文章には、考えさせられた。

 

 

参加意識が高まる一冊

長年書き溜めたネタから厳選された全52項目は、「やっぱりね」「ああ、そういう風に受け取る?」「確かに理不尽だな」なんて、いちいちリアクションを取りながら読んでしまう。参加意識が高まる一冊だ。シチュエーション説明のイラストと本文の組み合わせという体裁も読みやすい。

 

各章の終わりにある6つのコラムは発音や英語と日本語の構造的特徴について、日本語英語の聞こえ方についてなど、実践的な内容だ。ネルソン・マンデラ氏が残した印象的な言葉も紹介されている。

 

「相手が理解できる言葉で話せば、あなたの言いたいことは伝わるだろう。相手の母国語で話せば、あなたの言いたいことは相手の心にまで届くだろう」

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

この言葉を心に刻んでいるからこそ、そこまで日本語を愛してくれるのですね。

 

 

【書籍紹介】

外資系社長が出合った不思議すぎる日本語

著者:デビット・ベネット
発行:KADOKAWA

日本の古典文学とコンピュータ工学を専攻したカナダ人社長が15年にわたり書き留めてきた「外国人が気になる日本語」

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