ここ半年で、仕事の打ち合わせもPCやスマホでこなすことが圧倒的に多くなった。SNSにも必然的に触れる機会も多くなった中、気づいたことがある。以前にも増して、国際ロマンス詐欺の入り口となりえるFacebookの友達申請が多い。朝起きて見ると、20件も来ていることがある。
キャラ設定も英語も雑
かつて、この手の友達申請は、プロフィールで細かいキャラ設定が行われていた。でも、最近はものすごく雑。渋滞している申請を一応ひとつひとつ開いて確認するのだが、あまりにも雑なのですぐに削除する。
6月ぐらいまでは、申請があるとアトランダムにレスを返し、メッセンジャーでしばらくやりとりしてさんざんツッコミを入れ、バカにしきった文章で煽り、最終的にFBIの「国際ロマンス詐欺に関する注意喚起」のページのURLを送ってからブロックしていた。でも最近は、騙しの文章のバリエーションのなさに呆れる。それに、どこの国の人間か知らないが、あまりに稚拙な英語にも呆れる。こっちがさんざんディスったら、キレて“Go to hear!”と書いてきたことがある。おそらく“Go to hell”と言いたかったのだろう。「聞きに行け」って、何を?
今回紹介する一冊は、筆者のように国際ロマンス詐欺に興味を抱く人間なら誰にとっても見逃せないはずだ。当事者と詐欺師との1か月にわたるリアルなやりとりが詳細に紹介されているのだから。
友達リクエストを“つい”受け入れてしまうと……
『ダーリンは戦場詐欺師』(オオイソノサザエ・著/KUNパブリッシング・刊)のように当事者本人が自ら語るパターンは、ありそうでなかった企画だ。それだけで一読に値する。オオイソノさんの体験は、こんなふうに始まった。
出会いというものはある日突然やってきます。嬉しい出会いもあれば災難も…。ある日突然私のFacebookページに来た「友達リクエスト」。共通の友人もいない、知らない人である上に顔写真が無い。しかもメッセージもなく黙ってリクエストしてきたものについてはお断りしていた…はずなのに、しばらくの間無視していても取り下げられることのないリクエスト、気になってつい受け入れてしまった。
『ダーリンは戦場詐欺師』より引用
共通の友人もなく、知らない人であり、しかも顔写真がないとなれば、「これは詐欺の入り口ですよ」と言っているようなものだ。しかし、魔が差すということもある。オオイソノさんが「The Sweetest Hell」(最も甘い地獄)と形容する1か月は、申請を受け入れたその瞬間から始まった。
詐欺師のプロフィール
最初に送られてきたのは、つたない日本語のメッセージだった。
「こんにちは。ありがとうございました。私の要求を受け入れ、あなたのために。私は幸せです。私の名前はカールです。お会いできて光栄です。」
『ダーリンは戦場詐欺師』より引用
日本語でメッセージを書かなくてよい旨を英語で返信し、しばらくやりとりした後、カールは「シングルファーザーで10歳になる一人息子がいる」と知らせてきた。シングルファーザーで一人息子がいるというプロフィールは詐欺師が好んで使うことで知られている。
怪しいと感じたオオイソノさんはカールのFacebookページをチェックしてみた。そして投稿への「いいね」の数が極端に少なく、コメントしている人に至ってはゼロである事実を確認する。
甘い言葉のメッセージを連投
詐欺師は、Facebookで友達申請してくるくせに「Facebookはあまり使わない」などと言って、他の種類のSNSやフリーメールを使いたがる。オオイソノさんもLINEのIDを訊ねられたので「英語の勉強になればいいか」程度のノリで教えると、カールはすぐに友だち追加した。ここから、連絡はほとんどがLINE経由になる。「ハニー」とか「スイートハート」とか、「ベイビー」という単語も連発するようになった。
やがて決定的な事件が起きる。ある日傭兵部隊と行動を共にしていたカールは、待ち伏せ攻撃を受けて脚に銃弾を受け、切断しなければならないほどのけがを負ってしまったというのだ。そしてなぜかカンボジアに移送されたという彼は、ここで初めて「お金を送ってほしい」と頼んできた。オオイソノさんも詐欺であることを確信し、カールをブロックして関係を断った。しかし、である。オオイソノさんの中で、自分でも想像さえしていなかったことが起こる。なんと、カールロスに陥ってしまったのだ。
事態の進展が日数で記されているので、『24』シリーズを見ているような緊張感に包まれる。オオイソノさんは情にほだされ、会ったこともない自称戦場カメラマン――いや、ほぼ詐欺師に決定だ――に心ときめかせ、お金を送ってしまうのか。それとも……。ここは、あとがきに記された文章を紹介して終わることにしよう。
「振り込め詐欺」の被害者の方々も、自分だけは引っかからないと思っていた、と、誰もが言うように彼と出会ったときは私自身もまさか自分がこんなことに巻き込まれるなんて夢にも思いませんでした。
『ダーリンは戦場詐欺師』より引用
どうやら、この世に“絶対”なんていうものはないようだ。
【書籍紹介】
ダーリンは戦場詐欺師
著者:オオイソノサザエ
発行:KUNパブリッシング
出会いというものはある日突然やってきます。嬉しい出会いもあれば災難も……ある日突然私のFacebookページに来た「友達リクエスト」。共通の友人もいない、知らない人である上に顔写真が無い、しかもメッセージもなく黙ってリクエストしてきたものについてはお断りしていた……はずなのに、しばらくの間無視していても取り下げられることのないリクエスト、気になってつい受け入れてしまった。そこから始まる私自身が名付けた「The Sweetest Hell(最も甘い地獄)」。