本・書籍
2020/10/1 21:45

いま、新型コロナウイルスについて「わかっていること」、そして私たちが「するべきこと」とは?

9月末の連休、繁華街に人出が戻りました。飛行機や新幹線にも乗客が戻ったとのことで、普段の生活を取り戻そうとする心が伝わってきます。一方では「2週間後には、感染者数が爆発的に増えるだろう」という専門家の意見もあり、不安にはなりました。

 

それでも、5月の連休のときに比べると落ち着いて過ごしています。『新型コロナウイルスを制圧する』(河岡義裕・著、河合香織・聞き手/文藝春秋・刊)を読んだからです。

 

 

コロナへの対処、私の場合

コロナウイルスに気をつけようと思いながら暮らしてはいますが、何をどう気をつけたらよいのかよくわかりません。インフルエンザに比べると死者の数も少なく、あまり神経質になってはいけないという意見もあります。そうなのかもしれません。

 

けれども、我が家の夫は、現在、放射線治療を経て神戸の自宅で療養中です。元気は元気ですが、やはり免疫力は落ちているでしょう。1か月に1度の割合で、東京に会いに行っている義母は、89才になり持病も抱えています。

 

そう考えると、やはり私は二人に感染させないよう注意を払うべきで、外出するときは、必ずマスクをして手を洗い、うがいをするを繰り返しています。それでも「私は感染しない」と言い切る自信はまったくありません。

 

そのためなのか、最近は朝起きるとすぐにネットのニュースを読みたくなります。いちばん新しい情報を得て現状を把握したいからです。けれども、情報はあまりにも膨大で、内容も錯綜しており、いったい何を信じたらいいのかよくわかりません。人類が初めて遭遇するウイルスなのですから、誰にもよくわからない、これが本当のところではないでしょうか。

 

最近は、いったい何が不安なのかさえ、自分でもよくわからなくなっています。コロナが不安なのか、これから先の毎日が不安なのか、家族の健康問題が心配なのか……。

 

ところが、『新型コロナウイルスを制圧する』を読んで混乱から解放されました。私にとってこの本は救いの書です。

 

まだ、わかっていないのは何か?

『新型コロナウイルスを制圧する』の著者・河岡義裕は、ウイルス学の世界的な権威として知られています。東京大学医科学研究所に勤務する研究者で、世界で初めてインフルエンザの人工合成に成功した学者として知られています。現在は、新型コロナウイルスの研究を最前線で行い、ワクチン開発のためのチームを率いて、ぐいぐいと前進中です。

 

ところが、『新型コロナウイルスを制圧する』には、河岡教授でさえまだわからないことがあると、はっきり書いてあります。

 

世間では、ウィズ・コロナ、挙げ句の果てにはポスト・コロナという言葉も目にするが、流行はまだ始まったばかりで、この冬の大きな波に飲み込まれてしまうかもしれず、ウィズ・コロナで済むのかさえわからない。私たち人類は、このウイルスについて知らないことばかりなのだ。

(『新型コロナウイルスを制圧する』より抜粋)

 

この一文に触れ、不安を募らせる人もいるかもしれません。河岡教授でさえ知らないことばかりというのですから、素人はお手あげだと思う人もいるでしょう。けれども、私はこの文章を読み、心底、ほっとし、力を得ました。わからないことをわからないというのは、大変、勇気がいることでしょう。けれども、わからないならわからないまま、今できることをするしかありません。

 

わかってきたこと

『新型コロナウイルスを制圧する』は、わからないことを率直に示す一方で、わかっていること、わかってきたことも書いてあります。

 

新型コロナウイルスの感染経路として今わかっていることは、飛沫感染と接触感染、そして近距離でのエアロゾル感染です。

(『新型コロナウイルスを制圧する』より抜粋)

 

ということは、感染者とすれ違っただけで感染する可能性があるわけです。けれども、一方でマスクをすれば防ぐことができるはずです。たとえウイルスに手を触れてしまっても、皮膚からは感染しないそうです。つまり、手洗いが有効ということでしょう。

 

もし、ウイルスが付着した手で顔を触ってしまったとしても、焦る必要はありません。粘膜から感染しないようにうがいを念入りにすればよいのです。つまり、マスク・手洗い・うがいの3つを大事にしてきた私たちの方法は、間違いではなかったことになります。

 

これからすべきこと

『新型コロナウイルスを制圧する』には、私たちがこれから何をすべきかについても、きちんと書いてあります。

 

新型コロナウイルスに罹らないために私たちができることは、実はすごく簡単です。病原体に触らなければいいのです。ウイルスは人が運ぶものですから、感染対策だけを考えれば、人と会わないで、家の中に閉じこもっていればいいのです。

(『新型コロナウイルスを制圧する』より抜粋)

 

けれども、現実問題としてまったく人に会わずに暮らすことはできません。そのため、治療薬とワクチンが開発されるまでの間、なるべく病原体に触らないようにしながら、個人個人がそれぞれの事情に鑑みて暮らすよりほかに手はないということになります。

 

もう一人の著者

『新型コロナウイルスを制圧する』は共著であり、河岡義裕と河合香織の二人の著者がいます。 河岡教授にインタビューし、わかりやすい言葉でまとめたのが、ノンフィクション作家の河合香織。2019年、『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』で、大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞したノンフィクション作家です。 彼女は現在、東京大学で医療倫理や生命倫理を学んでいるそうです。

 

それは事象の表層を拾うだけではなく、人類が積み重ねてきた知に敬意を払った上で、文章を書いていきたいと思ったからだ

(『新型コロナウイルスを制圧する』より抜粋)

 

一流の研究者に質問を投げかけ、私たちが知りたい情報をまとめるためには、こうした地道な努力が必要だということなのでしょう。

冬に向かって

この冬、新型コロナウイルスがますます蔓延していくのか、それとも収束するのか、私にはよくわかりません。ただ、人は誰でも新型コロナウイルスに罹る可能性があります。会社にいても、夜の町でも、家庭でも、学校でも、私たちは新型コロナウイルスに感染します。もちろん、罹った人が悪いわけではありません。気が緩んでいたわけでも、根性がなかったせいでもありません。

 

コロナへの対処法は、人それぞれ。置かれている立場や、仕事、体調など、自分で判断し、細かく対処するしかないと思います。結局、なるべくウイルスに接しないように注意しながら、私は私の毎日を過ごそうと、一人で決心したところです。

 

この本のタイトルは『新型コロナウイルスを制圧する』ですが、実は「こうしたら制圧できるぞ」という方法が書いてあるわけではありません。第一線の研究者をもってしても、わからないことがたくさんあるからです。

 

ですから、新型コロナ肺炎の感染を防ぐためには「ウイズ・コロナ」というより、「マイ・コロナ」な態度で接していこうと、個人的には思っています。

 

【書籍紹介】

新型コロナウイルスを制圧する

著者:河岡義裕(著)、河合香織(聞き手)
発行:文藝春秋

冬に来る第2波はさらに強毒化するのか? ワクチンはいつ開発されるのか? 終息はいつなのか?…国際ウイルス学会会長、東大医科研ウイルス感染分野教授など要職を歴任。“世界的権威”による正しい新型コロナウイルス情報ー。

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