本・書籍
2020/12/7 6:15

愛知のモーニング習慣を民俗学で謎解きするとその理由は!?~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

日常のブームを民俗学の視点で見ると?

民俗学というと、柳田国男の『遠野物語』を思い出します。私は学生時代、この序文に衝撃を受けました。

 

「国内の山村にして遠野よりさらに物深き所にはまた無数の山神山人の伝説あるべし。願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」

 

山村の奥には異界があり、それを語ることで文明に浸り切った都会人に衝撃を与える……。恐らく当時厨二病という言葉はなかったと思いますが、「平地人を戦慄せしめよ」が私の厨二心をいたくくすぐり(笑)、図書室で柳田国男を読みふけったのを覚えています。

とまあ、民俗学というと田舎の特殊な風習を分析するイメージがありますが、それを変えてくれるのが今回紹介する新書『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(島村恭則・著/平凡社・刊)。

 

著者の島村恭則さんは民俗学者で関西学院大学教授。これまでに沖縄や韓国で民俗学の調査・研究を行ってきました。その見地から、私たちの日常を民俗学の視点で探る「現代民俗学」の講義をしています。

 

現代人が戦慄するような伝統だけでなく、ついやってしまう験担ぎも、地域で受け継がれるB級グルメも、ネットを騒がす謎のブームもすべて民俗学で考察できるというから新鮮です。

 

喫茶店のモーニング習慣が根付いた理由

第一章「知られざる『家庭の中のヴァナキュラー』」では、家庭内のルールが取り上げられています。親が言うことを聞かない子どもを脅かすときの「怖い人が来て連れて行かれちゃうよ」という言葉。これは山姥やナマハゲのような異界の存在が来る古来の民間伝承を下敷きに、親が化け物を創造している例で立派な民俗学の一種とか。

 

また、新品の靴を下ろすとき靴底をマーカーで汚したり、ライターで炙ったりするおまじないが幅広い地域で行われていますが、実はこのルーツには意外な日本の風習があり、新しい履き物が葬式を連想させるから……。いまだに現代人の心に影響を与えているのは驚きですね。

 

第四章「喫茶店モーニング習慣の謎」はミステリーを読んでいる感覚もあって、非常にワクワクしました。愛知県など中京圏で特に人気の喫茶店のモーニングにどんな意味があるのか。社会的・文化的な側面から追っていきます。

 

愛知県豊橋市や一宮市、さらにアジア各国の事例を挙げ、モーニング習慣を考察。すると朝食を外で取ることの納得の理由が浮かび上がってきます。単にどこかのお店が始めたサービスが当たったというだけでなく、歴史や環境に裏打ちされた人間の行動に基づいていたんですね。

 

「福島の円盤餃子」「別府の冷麺」といったB級グルメの由来、コロナ禍で話題のアマビエの民俗学的分析などキャッチーな話題が盛りだくさん。ブームや人気になっているものには必ず理由がある。その答えが見えて、なるほどと思わされる新書でした。

 

【書籍紹介】

みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?

著者:島村恭則
発行:平凡社

民俗学が田舎の風習を調べるだけの学問というのは誤解だ。キャンパスの七不思議やわが家のルール、喫茶店モーニングやB級グルメといった現代の日常も、民俗学の視点で探ることができる。本書ではこれらの身近なものをヴァナキュラーと呼んで〈現代民俗学〉の研究対象とした。発祥の経緯やその後の広がりを、数々のユニークなフィールドワークで明らかにする。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。