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2020/12/2 6:30

“新しい現実”の中で「仕事の本質」の本質を見極めよ−−『小さなチーム、大きな仕事』

『ハウス・オブ・カード』というアメリカの政治サスペンスドラマのファーストシーズンに、スマホで記事を書く記者たちが集まるオンライン新聞社が登場する。いわゆる“ノマドワーカー”だ。

 

 

“新しい日常”とリモートワーク

彼らの働き方はとても機動的。タクシーや地下鉄で移動しながら原稿を書き、編集部に送る。編集部といっても、インテリアも雰囲気も大きめのコーヒーショップのようなスペースだ。出社はするが、実際に編集部にいるのは全体会議の時だけ。それも床に丸くなって座って行う。あとは外に出っぱなしでひたすらネタを追い、記事にまとめて編集部に送る。打ち合わせはSNSでちゃっちゃとこなす。

 

日本では、今年の6月あたりから中古のオフィス家具がよく売れているらしい。リモートワーク人口が増え、新品で買えばかなりの値段になる高機能チェアが一番の売れ筋だという。また、東京駅まで電車で90分圏内の一戸建て住宅がよく売れ、少し前までは農地だった場所に多くの新築住宅が建つ光景が目立ってきているようだ。ノマドワーカー記者ほどではないものの、オフィスに縛られない働き方は着実に浸透しつつあるといえるだろう。

 

予言書的なビジネス書

小さなチーム、大きな仕事』(ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン・著/早川書房・刊)が出版されたのは2016年。まったく新しいタイプの労働空間としてアメリカで定着していたコワーキングスペースが、日本に初めて登場した6年後のことだ。著者の二人は世界的なソフトウェア開発会社「ベースキャンプ」の創業者と開発者のコンビ。IT業界で成功するためには革新性が大切な要素となることは容易に想像できる。この本では、業界ならではの革新性を仕事のやり方からライフスタイルにまで広げて具現化していくプロセスが紹介される。

 

物理的な空間としてのオフィスを確保したり、長い時間働いたりすることが成功の絶対的な条件ではないと説くこの本には、予言書めいた響きを感じる。身軽な働き方を通して実現できることはたくさんあること、そうするためのアイデアが具体的な形で次々と示されていく。他者との接触に大きな制限がかかっている今、この本に書かれていることは、そのままリアルな仕事術になっていると言っても過言ではない。

 

“新しい現実”の中での仕事の本質

予言書めいた響きという表現をした。本書のこうした性質は、こちらも予言的な「新しい現実」というタイトルの章の冒頭部分にも垣間見ることができる。

 

いつもの仕事をしながらビジネスを始めることで、必要なキャッシュフローを得ることができる。オフィスすら必要ない。自宅でも働けるし、何千マイルも離れたところに住む、一度も会ったことのない人たちとコラボレートすることもできる。さあ、いまこそ仕事の本質を見つめなおすときだ。

       『小さなチーム、大きな仕事』より引用

 

この本の刊行当時、こうした働き方を実現できる人は圧倒的少数だったにちがいない。しかし今はどうだろう。中古の高機能オフィスチェアや郊外の一戸建て住宅の売れ行きが好調であることを考えても、自分の周囲を見回しても、個で働く場面は圧倒的に多くなっているはずだ。

 

説得力のあるケーススタディ集

「見直す」「先に進む」「生産性」「進化」「ダメージコントロール」といった日々の仕事内容を示す言葉をタイトルにした13の章から成るこの本の核となる部分は、次のような一文に表されている。

 

この本は学術的な理論ではなく、僕たちの経験をベースにしている。ビジネスに関わってきた一〇年の間に、二度の不況、バブルの崩壊、ビジネスモデルの変化、そして暗く縁起の悪い予測が到来しては去っていくのを経験したが、僕たちは利益をあげる企業であり続けた。

『小さなチーム、大きな仕事』より引用

 

ソフト会社の創設者と開発者という立場での体験がケーススタディ的な感覚で、説得力ある考察として示されていく。強めに言い切る文章も歯切れがよく、テンポの良い講演やプレゼンに参加している気になる。

 

ひらめいたらすぐに動こう

「最後に」で、インスピレーションに満ちた文章を見つけた。

 

何かしたいことがあれば、今しなければいけない。しばらく放っておいて二カ月後に取りかかるというわけにはいかない。「後でやる」とは言えない。「後で」ではそんなにやる気満々でもないだろう。

『小さなチーム、大きな仕事』より引用

 

今だからこそ実践すべきことではないだろうか。これまでとはまったく違う状況で生き、働かなければならない日々の中、何とも言えない閉塞感に息苦しくなる時がある。説明できない焦燥感や不安に駆られることもある。でも、そんな状況に置かれている今だからこそ、何かひらめいたらすぐに動くことが大切だ。逆説的に言うなら、アイデアを具体的な形にするための実行力さえ意識していれば、どんな状況にあっても時間や空間に縛られない働き方を実現できる。そういう気にさせてくれる一冊だ。

 

【書籍紹介】

小さなチーム、大きな仕事

著者: ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン
発行:早川書房

ビジネスの常識なんてウソっぱちだ。会社を成功させるのに、事業拡大も、派手な広告も、会議も、徹夜も、長期計画も、オフィスも必要ない。少人数でシンプルに、臨機応変に−−自分流のやり方を作り上げながら僕たちは成長してきた。世界的ソフトウェア開発会社「37シグナルズ(現・ベースキャンプ)」の創業者と開発者が、成功をつかむための常識破りな手法を伝授する。いま、ビジネスに真に必要な考え方を示す必読の書。

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