本・書籍
2020/12/21 20:30

顔面蒼白、目まい、冷や汗、宇宙飛行士候補が課せられる過酷なテストとは?~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

 

宇宙飛行士になるという夢を掴むには?

こんにちは、卯月鮎です。誰もが子どものころ一度は憧れる職業といえば、宇宙飛行士ではないでしょうか。私も宇宙に行って、やりたいと思っていたことがふたつありました。ひとつは無重力空間でジュースの球を吸うこと。テレビの映像で液体が宙に丸く浮かんでいるのを見て、目を奪われました。「あのジュースはきっと最高に美味しいに違いない」、そう思ったのを覚えています。味は変わらないのに(笑)。

 

もうひとつは宇宙食。こちらも子供心に美味しそうに感じたんですよね。フリーズドライが多いので味は落ちるんでしょうけど……。飲んだり食べたりの興味ばかり(笑)。でも、憧れませんでしたか?

 

まあ、ぼんやりと「いいなあ」と思いつつも、宇宙飛行士はあくまで夢のまた夢。本気で目指すという人は少ないでしょう。今回の新書『宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶』(内山 崇・著/SBクリエイティブ)は、その夢を果敢に掴みにいった著者による選抜試験の記録。人生を賭けて一等星を追うことの素晴らしさと厳しさが伝わってきます。

 

 

著者の内山 崇さんは、少年のころからスペースシャトルに憧れ、宇宙飛行士になる夢を抱き続けてきました。石川島播磨重工業(現IHI)で日本が初めて手がける宇宙船「こうのとり」の開発を行うエンジニアとして働くなか、2008年にJAXAが実施した第5期宇宙飛行士選抜試験に応募し、10名のファイナリストに選ばれるも、惜しくも不合格……。その挑戦の過程と、後の葛藤までが活き活きとした文章で綴られています。

 

回転イスのテストは過酷すぎる!?

一番気になるのは具体的な試験内容。応募した963名から宇宙飛行士として選ばれるのはたった2~3名。本書の第4章では最終選抜試験の様子が克明に語られます。まずは試験初日の「平衡機能検査(回転イス)」。イスが回転するなか音声指示に従って数秒おきに頭を前後左右に倒すというもの。5分ごとにイスの回転速度は上がっていく。顔面から冷や汗が噴き出て、目まいが尋常ではない……。宇宙酔い対策としてこれにどれだけ耐えられるかが、宇宙飛行士には重要な資質だそうです。地味ながらキツすぎるテストです。

 

その後始まるのが「閉鎖環境試験」。筑波宇宙センターの隔離エリアで10人が1週間寝泊まりし、監視カメラのもとさまざまなタスクを課せられる……。まさに宇宙ステーションでの活動を模した試験。腕には「アクチグラフ」という腕時計状のものをつけて24時間活動状況をチェックされ、すべての発言が記録されます。

 

タスクの内容は、ディベートや全員で協力して会社を設立するゲーム、そして1日1時間千羽鶴を折るというもの(ノルマ付き)。私ならすぐキレて、鶴以外のものを折ってしまいそうです。

 

選ばれる者と選ばれない者では天地の差がある残酷な試験ではありますが、受験者同士の友情が育まれていく様子も描かれ心温まります。現在、内山さんは新たな夢として次世代宇宙船の開発に取り組んでいるとか。宇宙飛行士に興味がある人だけでなく、大きな目標を掲げる人にもオススメしたい一冊です。

 

【書籍紹介】

宇宙飛行士選抜試験
ファイナリストの消えない記憶

著者:内山崇
発行:SBクリエイティブ

宇宙飛行士選抜試験。日本で唯一、宇宙飛行士として生きる夢に挑戦できる場所。日本が有人宇宙開発分野で世界に名乗りを上げた2008年、JAXAは10年振りとなる5回目の宇宙飛行士募集に踏み切った。応募総数は史上最多の963名。このものがたりは、スペースシャトルにあこがれて宇宙エンジニアになった著者が、「宇宙飛行士」になるために全身全霊を傾けて挑んだ10か月におよぶ選抜試験への挑戦と、その後の12年の葛藤を描いたものである。

 

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

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