あなたは「絶望」を体験したことがありますか?
突然目の前が真っ暗に感じてしまうような出来事や、終わりが見えない経験、大切なナニカを失ってしまったこと、自分ではどうにもできないことなど、大なり小なり経験したことがあるという人はいるはず。
一概に「これが絶望です!」とは言えないし、人によって絶望の度合いは違うと思いますが、できれば経験したくないことですよね。そんな予告なしにやってくる「絶望」とどう向き合うのか、そして絶望がやってきた時に支えになるのはどんなことなのか? そんな知りたいような……知りたくないことが書かれた『絶望読書』(頭木弘樹・著/飛鳥新社・刊)をご紹介します。
絶望には「読書」がいい?
『絶望読書』というタイトルから、「そんな本、わざわざ読まなくても……」と言われてしまいそうですが、この本は絶望するために読む本でも、絶望から立ち直るノウハウが書かれた本でもなく、「絶望の期間の過ごし方」が書かれた一冊。サブタイトルにも「〜苦悩の時期、私を救った本〜」とあったので、「よし、これを読んで暗い気持ちになることはないんだな!」と読み始めたのでした。
自分の人生を振り返ってみても「絶望した」なんて経験は正直ありません。しかし、自分の大切な人が絶望していた時に何もできず、なんと声をかけたらいいのか、何をすれば喜んでくれるのか、どうしたら前を向けるのか、次に進めるのか、と勝手に色々とやってしまった経験があります。ポジティブ人間な私は、大切な人が絶望している時、「なんとかなるさ! ハハハ!」なんて明るく振る舞ってしまったり、「元気だそぉー!」なんて励ましたりしちゃったのですが、『絶望読書』の著者である頭木さんによると、絶望している時には、共感できる絶望の本や映画との出会いが心を救ってくれるとのこと。
絶望したときには、まず絶望の本がいいのです。
明るい、ポジティブな本がダメというわけでは、もちろんありません。
ただ、それは立ち直りの段階に入ってから、はじめて心に届いて、励みとなるものなのです。
まだ「絶望の期間」にあるときには、まぶしすぎて、かえって悲しくなり、心の負担となりかねません。
(『絶望読書』より引用)
著者の頭木さん、どうしてこんなことを言えるのか? というと、青春真っ只中の大学3年生の時に難病にかかり、そこから13年間の闘病生活をされています。「もう病気は治りません」と医師から言われ、まさに絶望を味わった方なのです。そんな頭木さんが、そんな時期どんな言葉に救われたかというと絶望名人とも呼ばれているカフカの言葉だったそう。
そんな経験も踏まえて書かれているので、元気な方はもちろん、今まさに絶望を味わっているという方にも手に取ってもらえる一冊ではないかと思います。
なんでもかんでも読んでもいいわけではない
『絶望読書』は、大きく二部構成になっていて、第一部では『絶望の「時」をどう過ごすのか?』を、頭木さんの経験から「絶望」を紐解く内容になっています。私は「絶望ってなんですか?」という図太い人間なので「こんな感情なのか」と新しい視点を知り、過去にしてしまった自分の行いを反省し、いつか来るかもしれない絶望の正体を知ることができました。今、絶望真っ最中という方は、「こんなにも気持ちを理解してくれる本はなかった!」と感じられると思うので、一部だけでも読んでみるのをおすすめします。
第二部では『さまざまな絶望に、それぞれの物語を!』と、太宰治、カフカ、ドストエフスキーの小説、ドラマや映画さらには落語などの絶望の種類に合わせて、さまざまなコンテンツが紹介されています。読書じゃなくても寄り添ってくれる物語を紹介してくれているので、活字を読めるメンタルではない時や、動画をみたい時にも対応できます。
さらに番外編として、「絶望しているときに読んではいけない本」として、イタリアの作家ディーノ・ブッツァーティ『七階』という短編小説が紹介されています。「絶望していない人はぜひ」とのことだったので試しに読んでみたところ、世にも奇妙な物語に出てきそうなお話で、読了後5分くらい何もできなくなりました(笑)。本当に心から元気なときに読むことをおすすめします!
絶望からすぐに立ち直ることが正解じゃない
絶望していると、そこから立ち直らなくては! とか、少しでも前向きにならなくては! と思ってしまう人が多いかもしれませんが、焦る必要はないそうです。著者の頭木さんは、「最後に」でこのような言葉を残しています。
立ち直りの道がまったく見あたらず、閉じ込められた洞窟で、どこからもわずかな光さえさしてこなくて、どちらに進んでみればいいかもわからないような心境にあるかもしれません。
でも、肝心なのは立ち直りの道を早く見つけることではありません。そこをどうかあせらないでください。
肝心なのは、本書の中でも何度も書きましたが、「絶望の期間」をいかに過ごすかということです。
「絶望読書」は必ずあなたの力となるはずです。
(『絶望読書』より引用)
『絶望読書』を読み終わって「いつ絶望と遭遇するかわからない」という前提で生きていなかったなぁと気がつきました。なるべく避けたい、絶望とは無縁だ! と思っていても予告なしでやってくるのが絶望です。そんな時に寄り添ってくれるような絶望の物語(本や映画や音楽など)を自分の中にストックしているかどうかで、乗り越えられることもあるかもしれないと感じました。
辛いことがあっても前を向いて立ち向かう、ポジティブに生きることが正解で、ネガティブな考えはNGだよ! とされてしまっている今の世の中で、このことを知っているかどうかは生きていく上で大事だと思うのです。絶望なんてないわ! と、心では泣きながら生きている方は、背負ってきたいろんなものをおろして、一度「絶望」と向き合ってみるのはいかがでしょうか?
【書籍紹介】
絶望読書
著者:頭木弘樹
発行:飛鳥新社
悲しいときには、悲しい曲を。絶望したときには、絶望読書を。