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自己啓発
2021/1/13 6:30

パワハラ、いじめ、引きこもり、過労死…「自己承認欲求」が災いを生む裏側−−『「承認欲求」の呪縛』

「2020年度SNS利用動向に関する調査」によれば、日本国内のSNS利用率は83%に上る。間接的な形であることはもちろんだが、一人ひとりのスマホユーザーがそれぞれSNSを媒体にかなり多くの人たちとつながっている事実をうかがわせる数字だ。

 

自分はネット上でどう受け入れられているのか

ちなみに筆者はLINEとFacebook、Twitter、そしてInstagramを使っている。LINEはグループ内の特定メンバー間でのやりとりに限られるので少し性格が違うだろうが、他の種類のSNSで関わるのは実際に会ったことがない人たちが圧倒的に多い。使い始めのころは発信するだけである程度の満足感を得ることができた。でも、発信した情報がどのように受け入れられているのか確かめたくなる時期が必ず訪れる。「いいね!」の数が気になるし、何のリアクションもないまま書き込みをスルーされると、自分という存在の一部分を否定されたように感じてしまう。

 

筆者はいわゆるエゴサにもハマった。いや、ハマり続けている。アマゾンで、自分の著書や訳書につけられたコメントを読みだしたら止まらない。自分の仕事、ひいては自分の存在はネット上でどう思われているのか。ペンネームや著書名を検索してヒット数が多ければ当然うれしいし、少なければ漠然とした不安に包まれるし、ネガティブなコメントが目に入ればしっかりヘコむ。

 

認められた喜びが重圧に変わる

「承認欲求」の呪縛』(太田 肇・著/新潮社・刊)は、SNSというコミュニケーション世界で誰かに認められたい心理とそれに基づくさまざまな行動をつまびらかにしながら背景を探り、社会全体に当てはめて考察していく社会心理学的なアプローチの一冊だ。立脚点として、まえがきに記された一文をまず紹介しておきたい。

 

人は認められれば認められるほど、それにとらわれるようになる。世間から認められたい、評価されたいと思い続けてきた人が念願かなって認められたとたん、一転して承認の重圧に苦しむ。

 

『「承認欲求」の呪縛』より引用

読み進んでいって明らかになるのは、ネットにおける承認欲求が諸刃の剣であるという事実にほかならない。

 

どんなことをしてでも認められたい人たち

認められたい人たちは意外にも身近に、そして想像するよりはるかに多く存在する。Facebookを使っている人は、2~3日分の書き込みをさかのぼって読んでいただきたい。ひたすら自慢をする人、かまってほしい人、そして褒めてもらいたい人がすぐに見つかる。

 

バカッターと形容される人たちが続出した時期がある。炎上系・迷惑系ユーチューバーという人たちも、同じくくりでまとめることができるはずだ。こうした人たちに共通するのは、とにかくウケたいという気持ちだ。「ウケたい」――それはもちろん、認められたいという表現に置き換えることができる。本書の目次を見てみよう。

 

第一章 「承認欲求」最強説

第二章 認められたら危ない

第三章 パワハラ、隠蔽、過労死……「呪縛」の不幸な結末

第四章 「承認欲求の呪縛」を解くカギは

 

SNSに依存するあまり、リアルな社会とネット空間の境界線があやふやになってしまう人がいる。そういう状態に陥るのは異常なのか。この本は、そのあたりのプロセスについてもていねいに、そして深く掘り下げていく。

 

承認欲求の危うさ

著者の太田氏は、承認欲求の危ない側面を次のような言い方で説明している。

 

それは注目されるための自己顕示や乱行などより、ある意味もっと危険で、いっそう深刻な影響をもたらす。にもかかわらず周囲も、本人もそれが承認欲求のなせる業だということに気づかない。

 『「承認欲求」の呪縛』より引用

 

こうした意識がもたらすものは何か。太田氏は、スポーツ界で続々と発覚した暴力やパワハラ、社会問題化しているいじめや引きこもり、深刻な過労自殺や過労死、さらにはなかなか進まない働き方改革を実例として次々に挙げていく。著者が指摘するように、承認欲求とは誰しもが抱くごくあたり前のものでありながら、実は自覚できないままどこまでも肥大していくモンスターなのかもしれない。

 

コロナ禍の今だからこそ

あとがきに書かれた一文を読み、考えさせられている。

 

グローバル化が進むなか、わが国では逆に狭い共同体にとらわれる傾向がむしろ強まっているようにみえる。仲間うちでは絶対に認められなければならない、そこで認められさえすればいいという感覚だ。

『「承認欲求」の呪縛』より引用

 

個人レベルでも、インターネットがグローバル化の一端を担っていることはまちがいない。遠い国の図書館に所蔵されている本を読み、ウェブカムを通して行ったことのない場所の風景をリアルタイムで見ることもできる。コミュニケーションの速度と深度も、SNSによって劇的に変化した。

 

しかし、「認められたい」気持ちが強すぎるあまりこうした便利な環境が負のツールと化し、結果として想像もできなかったような狭い場所に自分を追い込むようなことになったら、皮肉などというマイルドな表現では形容しきれない。特におうち時間が長くなっている今は、ネットへの依存度が高まりがちだ。そういう状況だからこそ、他者とのかかわりを確認する意味でじっくり読むべき一冊であることを強調しておきたい。

 

 

【書籍紹介】

 

「承認欲求」の呪縛

著者:太田 肇
発行:新潮社

「嫌われたくない」「認められたい」が破滅を招く! SNSでは「いいね!」を求め過ぎ、仕事では「がんばらねば」と力んで、心身を蝕む人がいる。その悪因と化す「承認欲求」を徹底解剖し、人間関係や成果を向上させる画期的提言。

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