本・書籍
2021/1/22 20:30

悲しいけど「ふふふ」と微笑んでしまう、たんぽぽ・川村エミコの優しいエッセイ『わたしもかわいく生まれたかったな』

くせ毛なので三つ編み&ヘアーバンド、メガネをかけた超地味っ子だった私は、小学2〜3年生のころ、学校のトイレにある鏡をみて「この顔は本当の私の顔じゃない」とよく思っていました。私の本当の顔は可愛いけれど、脳が違う顔に見せているんだ! と本気で思っていました。さすがに高学年になり「あぁ間違っていたのは自分だな」と理解し、現実を受け止め「よし、お笑い芸人になろう」と思った時もありました。

 

いろんなことを拗らせてきた私に、お笑いコンビ「たんぽぽ」の川村エミコさんのエッセイ『わたしもかわいく生まれたかったな』(川村エミコ・著/集英社・刊)は、じゅわじゅわ〜っと心に沁み入る言葉がたくさんありました。今回は、そんな心のコリをほぐしてくれるような一冊をご紹介します。

 

 

悲しいけど「ふふふ」と微笑む、優しいエッセイ

この『わたしもかわいく生まれたかったな』は、ウェブサイト『よみタイ』の連載を単行本化したもの。川村さんの幼少期から大人になるまで、17のエッセイが綴られています。

 

エッセイと共におかっぱ頭のかわいいイラストが添えられているのですが、このイラストも川村さんが描いたもの。絵がかわいくて上手なのはもちろんなのですが、イラストに添えられている文字もめちゃくちゃキレイなんです! そのキレイな文字の理由もしっかりエッセイに書かれてありました。なんと幼稚園に上がってすぐに、書道教室に通い始めたのだとか。でも、そのきっかけがちょっぴり悲しい……。

 

幼稚園に上がって少しした頃、そんなあまり話さない父が私に言いました。

「えみちゃん! えみちゃんはあまり綺麗なほうじゃないです。なので、字は綺麗なほうがいいから、書道を習いましょう。」と。

朝、食卓でサラッと言われました。

往々にして割と大事なことや流しちゃダメでしょ!ってことを、サラッと言われることや言うことってありますよね、それです。

プロポーズを夕食終わりにサラッと、それはとてもグッときますが、朝食時にサラッと綺麗とか綺麗じゃないとかの話と字の話は幼心に「お願い! サラッとしないでー!」でした。

(『わたしもかわいく生まれたかったな』より引用)

 

真面目な川村さんは書道教室にしっかり通い、なんと小学一年生で神奈川県鶴見区の「鶴見区特別賞」をゲットしたそう。その授賞式でのちょっぴり悲しい思い出は『わたしもかわいく生まれたかったな』で読んでいただきたい!

 

川村さんの文章はすごく不思議で、傍から見ればめちゃくちゃ悲しいエピソードと思ってしまうのですが、なんだかほっこりしてしまうのです。どこかで心は傷ついているけれど、その傷を癒す方法を探して自分なりに解決できている人なんだなぁと勝手に親近感がわいてしまいました。

 

友達になるために「試験」がある?

たくさんのエピソードの中で私が好きなお話は、「友達が欲しくて1987」です。小学二年生のころ、どうやって友達を作ったのかが書かれたお話です。

 

Sちゃんと友達になりたかった私は、か細いか細い声で「お友達になりたいです。」と声を掛けました。蚊の鳴く音量で、お友達になりたい人に「お友達になりたいです。」と言う口下手ぶりで返答を待っていると、Sちゃんは「友達になるには試験があります。」と言い放ちました。

(『わたしもかわいく生まれたかったな』より引用)

 

試験の結果どうなったかは、ここには書きませんが、試験の内容も面白くて「わぁ〜小学生を思い出すわ!」と勝手に自分の思い出を重ねてしまいました。

 

けれど自分の幼少期を振り返ってみると、どうしてあの子と仲良くできたのだろう? と思うことが多く、自分からお願いしたのか、お願いされたのか、どうやって友達になったのかを思い出せないのです。私が初めてできた親友は、小学三年生。ふたりで漫画を描いたり、交換日記をしたり気がついたら仲良くなって「親友」と言っていたのに、彼女が転勤族だったため2年ほどで転校してしまい、今はその子がどこで何をしているのかもわかりません。

 

どうやって友達になったのか、どうして仲良くなれたのか、試験でもあれば覚えているのにな〜なんて思ってしまいました(笑)。

 

幼少期の思い出は、悲しくも愛おしい

『わたしもかわいく生まれたかったな』には、素敵なエッセイが満載です。またこの本の最後のページには、

 

このページにはあなたの小さい頃の思い出を書いてみてください。

(『わたしもかわいく生まれたかったな』より引用)

 

というイラストとメッセージとともに空白のページが準備されています。ついつい「今」や「未来」にばかり目がいって、振り返ることを忘れがちな日々ですが、ほんの30分でも、幼少期のことを思い出してみると毎日がちょっと楽しくなるかもしれません。なかなか思い出せないなぁ〜という人は、『わたしもかわいく生まれたかったな』を読んでみると幼いころの記憶が蘇ってくる不思議な体験ができるので、オススメです! 忘れてしまっているだけで、私にもたくさんの思い出があったんだなぁ〜と懐かしい気持ちにさせてもらえますよ。

 

【書籍紹介】

わたしもかわいく生まれたかったな

著者:川村エミコ
発行:集英社

「書くこと」でたぐり寄せた幸せでも不幸せでもないかけがえのない記憶ー。お笑いコンビ「たんぽぽ」・川村エミコ初のエッセイ集。

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