本・書籍
2021/2/4 6:30

作詞家・いしわたり淳治の頭の中を覗いてみたら、「言葉」の面白さや無限大の可能性に気づいた。『言葉にできない想いは本当にあるのか』

「言葉」を生業としている職業は多々あるが、作詞家ほど言葉の持つ意味や響き、リズム、流行り廃り、表面にはあらわれていない隠れた想いを敏感に感じ取り、表現している人たちはいないような気がする。しかも、それらをロジカルに組み立てて、ヒットシーンを築く曲をつくりあげていく。

 

そう思うようになったのは、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系列)という関ジャニ∞がMCを務める音楽バラエティ番組にて、作詞家・いしわたり淳治さんの解説を見たことがきっかけだ。

 

普段何気なく耳にしては通り過ぎていた歌の歌詞を、そうくるか! という視点で捉え、私たちに伝えてくれる。

 

これは、たとえば音楽プロデューサー・蔦谷好位置さんしかり。関ジャムという番組は、普段はあまり表舞台に出ないけれど、音楽シーンを彩るうえで欠かせない人たちにスポットライトを当てる、唯一無二の番組だと思う。

 

話を戻そう。いしわたり淳治さんの感性っておもしろい、日常生活の中で、どんな言葉やフレーズに反応しているのだろう? と思っていた矢先、彼の著書を発見した。『言葉にできない想いは本当にあるのか』(いしわたり淳治・著/筑摩書房・刊)、朝日新聞デジタルのコラムを書籍化したものだ。

 

本当の気持ちを100%相手に伝えられる人は稀有

いしわたりさんは、「はじめに」でこう述べる。

 

自分の感情を他人に伝えるために、人類が発明した非常に便利な道具が「言葉」である。言葉という道具はあまりにも便利すぎて、ともすれば忘れてしまいそうになるけれど、私たちが言葉を使って表現しているのはいつだって「感情の近似値」にすぎない。その意味で、言葉は常に大なり小なり誤差を孕んでいるものではないかと思うのである。

(『言葉にできない想いは本当にあるのか』より引用)

 

確かに、自分の想いをどれだけ的確に相手に伝えようと試みても、100%自分の感情とイコールにすることは難しい。本当の想いよりも過剰だったり、反対に不足していたり。だからこそ、「言葉」は面白く、言い得て妙だったり、ユニークな言葉の使い方をしている瞬間に出会うと心躍るのだそうだ。

 

今回は、『言葉にできない想いは本当にあるのか』で挙げられている118のワードから、いくつかピックアップしてご紹介しよう。

 

チャプター飛ばしたいわ!(サバンナ 高橋茂雄)

『アメトーーク!』の年末スペシャル版にて、何度も野球のボールを拾いに行く東京03豊本明長さんの様子を見て、サバンナ高橋さんがつぶやいた一言である。

 

目の前で繰り広げられる同じ光景を眺めているときの気持ち、まだ名前がなかった感情に初めて正確な名前がついた感じがしたと、いしわたりさん。

 

個人的には、野球の試合で、バッターボックスに立っていながらなかなかバットを振らない選手を見たとき、「チャプター飛ばしたいわ!」という気持ちになる。そもそも、野球観戦はほとんどしないけれども。

 

やたらと同じ話ばかりしたがる人と話しているときも、ボソッと呟いてみるといいかもしれない。

 

別の人の彼女になったよ(wacci)

ロックバンド『wacci』の曲の冒頭の歌詞。この歌詞について、素晴らしいといしわたりさんは絶賛する。

 

別れた彼女が、元カレに対して言う以外、決して使い道がない言葉、つまり、ほとんどの人が実際には使ったことがない言葉にもかかわらず、言葉を発した女性と言われた元カレ、ふたりを取り巻く環境、心情が手に取るようにわかる。

 

今彼の自慢をして、私幸せなんだよ!とアピールしているのに、その裏には元カレへの断ち切れない想いが隠しきれていない。

 

このような「勝手に物語が立ち上がってくる言葉」というのは、ありそうでいてなかなか見つけられないのだそう。なるほど。と言いつつ、いしわたりさんの「勝手に物語が立ち上がってくる言葉」という表現自体が、私にとって膝を打つ表現なのだが。

 

ドキドキドキ(ジャルジャル)

『キングオブコント2019』で、ジャルジャルがネタ終わりのインタビューにて発した一言「ドキドキドキしています」。この奇数回のオノマトペが、ものすごく新鮮だったといしわたりさん。

 

これが、「ドキドキドキドキしています」と偶数回になると、一転普通に聞こえてしまうから不思議なのだそう。いやー、確かに! 「ぱくぱくぱく食べる」→ものすごくお腹が空いてそう。「ピカピカピカに掃除する」→めちゃめちゃ綺麗好きっぽい。「わくわくわくしてる」→この上なく楽しみな様子、といった具合。

 

繰り返す回数が多いほど強調できるわけではなく、奇数回の不安定さが良いのだろうといしわたりさんは分析する。まったくもう、いしわたりさんは目から鱗がぽろぽろぽろとこぼれるような発見をする。

 

言葉は「生き物」。だからこそドラマがある

いしわたりさんが語る「言葉」は、本当に面白い。天才だと思う。けれども、そんな天才をもってしても、「言葉」を完璧に使いこなせる日が来るのは難しいと述べる。なぜならば、言葉は次々に新たな表現が生まれ、進化し、時に死語となっていくから。つまり、「生き物」だから。

 

だからこそ、言葉を発する一人ひとりの背景にドラマがあるし、言葉によって関係性が良くも悪くも変わっていくし、言葉によってムーブメントが起こるのだろう。

 

最後になったが、今回この書評コラムを書くにあたり、いしわたりさんのことを調べていて初めて、伝説のバンド「SUPERCAR(スーパーカー)」のギタリストだったことを知った。やはり、いしわたり淳治は天才である。

 

【書籍紹介】

 

言葉にできない想いは本当にあるのか

著者:いしわたり淳治
発行:筑摩書房

歌詞、流行語、テレビ、広告から独自の視点で118ワードをピックアップ。刺さる理由を解剖。ロジカルな歌詞解説で話題の作詞家による“アイディア”と“思考”の処方箋。作詞家が“言葉”を語るとこんなに凄い!!!

楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る

 

TAG
SHARE ON