本・書籍
2021/2/16 6:30

VRやzoomを活用!? 要介護5のコラムニストの”普通”に生きる知恵−−『コータリン&サイバラの介護の絵本』

コラムニストの神足裕司氏がくも膜下出血で倒れたのは2011年9月のこと。一年後に退院はできたが「要介護5」の認定を受ける体になってしまった。要介護5とはもっとも重い症状で、食事、排泄、入浴など日常生活のすべてに介助が必要で、ほぼ寝たきりの状態を示す。にもかかわらず、神足氏は家族やケアマネージャーたちのサポートを受けながらコラムニストとして見事復活したのだ。

 

今日紹介する『コータリン&サイバラの介護の絵本』(神足裕司・著、西原理恵子・絵/文藝春秋・刊)は、90年代に一世を風靡した「恨ミシュラン」でタッグを組んだふたりの異色の介護本。介護の話は暗くなりがちだが、本書には”希望”がいっぱいだ。神足氏の変わらないテンポのいい文章、西原さんの愛ある毒舌とおなじみのユニークな漫画で、ときどきクスッと笑いながら読める一冊に仕上がっている。

 

車椅子に乗っていても普通に生きたい

本書は老人ホームの検索サイト「みんなの介護」に連載中の「コータリさんからの手紙」を加筆修正し、まとめたもの。連載は大人気で150万PVを獲得しているそうだ。人気の秘密は神足氏の前向きな考え方、生き方にあると思う。この本の前書きにもこう記されている。

 

車椅子に乗っているボクだって普通の人間だ。ごくごく普通に生きていきたい。ただそれだけだ。普通に近づけるにはどうしたらよいか。最新の器具も試してみるし、逆に健常者と同じことをしてみたらどう困るのか、困らないかもしれないし…も試してみたかった。(中略)いつも誰かの助けを請わなければ生きてもいけない。けれど、生きていかなくてはならない。ならばやっぱり少しでもおもしろいことをしたいじゃないか。60歳超えてもまだまだやってないことだらけだからね。ちょっとはツンツンとげを出して生きていきたい。

(『コータリン&サイバラの介護の絵本』から引用)

 

神足氏は要介護5になったからといって家にこもっていたりはしない。散歩にも外食にも、そして海外旅行にまで出掛けているのだ。何事もやれば出来る! ことを私たちに証明してみせてくれている。

 

相棒・サイバラについて

神足氏が倒れて以降、西原さんとの最初の記憶は、家族や編集者と共に上海蟹を食べに行ったことだそうだ。

 

ボクとサイバラは円卓の隣同士に座ってサイバラが体の不自由なボクのために「しかたないなあ」と言いながら上海蟹を全部剥く。そして食べさせてもくれる。「まったく好き勝手な生活しといてこんな体になって、こんな食事会してくれる家族なんてめったにいない」。そう怒りながら蟹を剥く。「あんたのために剥くなんてまったく」。サイバラはいつも口が悪い。しかも家族が知らないようなおっそろしいボクの外の世界を知っているサイバラはいつもギリギリな線を攻めてくる。

(『コータリン&サイバラの介護の絵本』から引用)

 

神足氏が西原さんに会ったのは「恨ミシュラン」の連載を始めたとき。振り返ると、西原さんは美大を卒業して数年なのに、すぐ噛みつかれそうな鋭さの中に、キラッキラッした目を持つ人で、只者ではないと思ったそうだ。また、辛辣でめちゃくちゃにみえる彼女がチラッと見せる優しさは心にずしっと来るのだとも打ち明けている。

 

本書には神足氏のコラム一本に対し、西原さんの一カットの漫画がつけられて、絵本のような体裁になっている。コータリン&サイバラのタッグの復活は読者としてもうれしい限り。ページをめくるたびに笑えて、明るい気持ちになれる。このような介護本はこの二人にしか作れないだろう。

 

VR映像で思い出の地をめぐる

神足氏は要介護5になってからも国内旅行はもちろん、ハワイ旅行にも出掛けていて、次はパリへと夢を膨らませている。が、彼と同じような境遇でそれを実現できる人は少ないのも事実。神足さんは以前から、病室で動けない人に映像を見せるサービスがあればいいのにと考えていたそうだが、実際そのサービスを提供する若者に出会うことになった。

 

それが登嶋健太さんだった。(中略)登嶋さんは高齢者の「思い出の地にもう一度行ってみたい」といった叶わぬ夢のため、現地に写真を撮りにいくボランティアをしていた。360度カメラで撮影した映像を見た方々は、「この店の横に桜の木があったでしょ」などと昔の記憶を辿りながら大喜びし、普段なら歩けない方が立ち上がり、前に進もうとすらする。

(『コータリン&サイバラの介護の絵本』から引用)

 

VR(ヴァーチャル・リアリティ)映像を見れば、ちょっとした旅行気分が味わえることに加えリハビリの効果もあるようだ。神足氏は、登嶋さんが見せてくれたパリの映像を見て、無理だと思っていたパリにもう一度行きたいと思うようになったと記している。

 

コロナ禍における「Zoom」について

コロナ禍になり、今はほとんどベッドの上という神足さんだが、「Zoom」をはじめたそうだ。ホワイトボードという機能を使い、文字でも参加できるので、上手に喋れない神足氏でも会議が成り立つという。

 

インターネット環境を整えて子どもたちに学習させるのなら、同様に、高齢者や障がい者にも顔と顔をつなげられるZoomの簡単版、テレビ電話みたいなものを早急に各世帯に配ったほうがいい。顔と顔がつながっているだけでも、安心するのだ。

(『コータリン&サイバラの介護の絵本』から引用)

 

ハイテクと高齢者、障がい者の相性はとても良いはず、ハンディがあるから無理だろうというのは想像力に欠けた人が考えることだと神足氏は言う。

 

どこまでもポジティブな彼のコラムは、これからも多くの人に希望を与えていくに違いない。

 

【書籍紹介】

コータリン&サイバラの介護の絵本

著者:神足裕司
発行:文藝春秋

老人ホーム検索サイト「みんなの介護」の人気連載「コータリさんからの手紙」で大反響!「要介護5」のコラムニストが描く愛と介護の日々。

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