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2021/6/11 6:15

フェイクニュース、陰謀論に踊らされる今こそ読むべき必読の書!『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』

コロナ禍のもと、感染者やワクチン接種について、毎日、膨大な情報がもたらされています。テレビをつけると、「今日はどこどこで感染者が*人。これは月曜日としては過去最高です」とか「ワクチンの会場で大混乱。電話もつながりません」というニュースが流れます。新聞、テレビ、インターネットから、情報があふれ出し、「結局、何を信じればいいの?」と、迷わずにはいられません。

 

しかも、もたらされるニュースは深刻な面が強調され、感染がおさまった都市はニュース性が薄いためか、ほとんど報道されないのが実情です。「何かがおかしい。でも、何がおかしいのかさえ、わからない」と悩む私に、夫が「これ読んでみたら」と勧めたのが『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』(堀 栄三・著/文藝春秋・刊)でした。

 

今に通じる深い知恵

『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』は、第二次世界大戦で情報将校として懸命に働いた一人の軍人が、長い沈黙を破って出版したものです。敗戦の経験を語るのは苦しいことだったに違いありませんが、著者は真摯に自分のつとめを果たしました。読み始めたとき、この本は私には荷が重いと感じました。76年も前に終わった大戦の話を読むことに、果たして意味があるのかという疑問も湧いてきます。それも、敗け戦の記録です。知らないことも多く、理解できるのだろうかと思いながら、おそるおそる本を開きました。そもそも、私は戦記物に弱いのです。

 

ところが……。まえがきで早くも心を奪われました。『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』は、戦争中の情報戦について記された本に違いありませんが、現在まで脈々と通じる深い知恵を与えてくれるとわかったからです。とりわけ、現在、私たちが直面しているコロナに関する情報を正しく判断するために、膨大な情報をどうやって扱うべきかを教えてくれる大切な指南書となりました。

 

情報という言葉が、毎日のテレビやラジオや新聞などに現れない日はない。ある新聞には、人びとは情報の氾濫のため、あり余る情報の中に埋没して悲鳴をあげているとも書かれていた。(中略)しかし、そういう情報は、相手の方から教えたい情報であり、商品として売られるべく氾濫しているものである。

(『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』より抜粋)

 

まさにその通り……。私の持っている文庫本は1996年に書かれたものですが、それから25年も経った今でも、情報について変わることのない問題が続いていることがわかります。現に私は膨大な情報を前に、いったいどう判断すべきか困り果てているではありませんか。ネットからも、無記名の情報が次々と飛び込んできて、センセーショナルな情報の海でおぼれそうです。情報の正しい扱い方を知り、どの情報を信じたらいいのか、学ぶべき時がきているのでしょう。

 

物語の大部分は、自ら太平洋戦争の戦場が主体であるが、企業でも、政治でも、社会生活の中でも、情報が極めて重要な役割を占めている今日、それぞれの分野や組織で、情報に関する人びとにとって、それなりの示唆を与えるものではないかと思っている。

(『大本営参謀の情報戦記 ー情報なき国家の悲劇』)

 

そう、この本は2021年の今こそ読むべきものなのです。

 

著者について

本書の著者・堀 栄三は、1913年、奈良県の吉野村で生まれました。中学を卒業後、東京陸軍幼年学校に入学し、陸軍士官学校に進みます。そのころには、既に、物量の前には精神主義が役に立たないという教訓を得ていたといいます。根性論では解決できないのが戦争だと、気づいていたのです。その後、騎兵少尉となり、騎兵第26連隊に配属された後、陸軍予科士官学校で教官を務め、やがて少佐となりますが、ひょんなことから情報を扱うプロとして働くように命じられます。

 

自ら進んで情報将校の道を選んだわけではありません。しかし、命じられた以上、職務に忠実であろうとします。戦争では情報を正しく受け止め、作戦を立てることが何よりも必要だと感じ、半ば独学で情報を科学的に分析する方法を学んでいきます。そして、後には「マッカーサー参謀」と呼ばれるほど、アメリカ軍の動きを的確に読むようになります。

 

彼はエリート街道を歩いたわけではありません。英才教育も受けませんでした。ただ、生まれながらの勘の良さに加え、尊敬する父と、師と仰ぐべき先輩から多くを学びました。枝葉末節にとらわれず、本質を見る目を養ったのです。

 

ある日突然、情報の世界へ放り込まれてしまった男が、そのときどきの波や風に翻弄されながら困難と苦境にぶつかって鍛えられ、「情報職人」となって働いた個人的体験記録である。

(『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』より抜粋)

 

堀 栄三の戦果

堀の数ある業績の中で何よりも秀でているのが、台湾沖航空戦を正しく捉えたことでしょう。昭和19年、台湾沖で米軍と交戦の報を受け、堀は急ぎ状況を視察するため、鹿屋の海軍飛行場へ急ぎました。搭乗員からの報告を聞き、それを分析しようと考えてのことでした。兵士たちは勇ましく、敵空母を撃沈したと次々と告げ、「やった! よし、ご苦労!」のねぎらいの言葉と共に黒板に「戦果」が書き込まれていきます。あたりは歓声につつまれ、命がけの働きが勝利につながった喜びが充満します。

 

ところが、堀は冷静でした。かつての経験から、それはあり得ないと考えたからです。本当に撃沈の瞬間を見たのでしょうか。撃沈したのは空母だと、その目で確かめたのでしょうか。堀は報告を終えたばかりの搭乗員に向かって、次々と質問しました。なぜ撃沈と認識したのか、戦果を確認した搭乗員はいったい誰なのか、知りたかったのです。その結果、答えがあいまいなものだと気づきます。夜に行われた航空戦です。闇の中、月か星しかよく見えない状態下で撃沈の瞬間をはっきり見たものはいないのです。

 

堀は搭乗員が故意に嘘をついたわけではないとわかっていました。撃沈を信じ、うれしく思い、それを報告したのです。人は無意識に自分や周囲に都合の良い結果を事実と信じてしまうところがあります。周囲が「撃沈! 撃沈!」と叫ぶ声を聞きながらも、堀は緊急の電報を打ったといいます。「この成果は信用出来ない。いかに多くても二、三隻、それも航空母艦かどうかも疑問」という内容でした。

 

情報を理解する難しさ

情報を正しく理解するためには、やはり訓練が必要なのでしょう。そして、それは戦争においてだけ重要なものではありません。企業の経営や毎日を無事に生きていくためにも、私たちは膨大な情報を正しく受け止め、処理していかなくてはなりません。情報は膨大でありしかも流動的です。その上、こちらが欲しい情報を得るのは難しく、不完全でよくわからない情報がさも正しいことのようにもたらされ、私たちを翻弄します。今回のコロナ禍は人間が初めて出会うウイルスなだけに、情報も錯綜しました。何が正しいのかよくわからないままに、私たちは自分と家族を守るための対策を考えなければなりません。

 

ウイルスは人を選びません。もちろん、コロナに罹った人が悪いわけでもありません。今わかっていることと、そうでないことをきっちり分け、自分で考え、すべきことをするしかありません。情報を正しく捉えるのは極めて難しいことです。まさに職人技的な技術が必要です。けれども、少しでもそれに近づき、自分なりの対処をして、私たちは難しい世を生きぬき、生き残るよう努力すべきなのでしょう。堀 栄三が私たちに示した考え方は、決して過去のものではなく、今、ここにある危機をのりきるにあたってどうしても必要なものだと思います。私もこれからは、情報を受け入れるとき、枝葉末節にこだわり、一喜一憂することなく、それらを精査し、大局観からものごとを自分で判断できる力を養いたいと考えるようになりました。

 

【書籍紹介】

大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇

著者:堀 栄三
発行:文藝春秋

「太平洋各地での玉砕と敗戦の悲劇は、日本軍が事前の情報収集・解析を軽視したところに起因している」-太平洋戦中は大本営情報参謀として米軍の作戦を次々と予測的中させて名を馳せ、戦後は自衛隊統幕情報室長を務めたプロが、その稀有な体験を回顧し、情報に疎い日本の組織の“構造的欠陥”を剔抉する。

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