テレビ番組表に変化が起きた。ここ2週間ほどオリンピックのライブ放送と関連特番が多く組まれていたのはもちろんだが、その合間にペットの投稿動画をまとめて見せるというフォーマットの2時間番組が増えた気がする。
わんこの眼差し
ちょっとでも時間があれば、かわうそのおやつとかフクロウの深夜会議のYouTube動画を見てしまう筆者。特に気に入っているのは、人語を話すペットたちだ。お風呂に入れられ「なんでやねん!」と連呼するわんこ。玄関を開けて「ただいま」と言うと近寄ってきて、「二人の時間」と告げるにゃんこ。
筆者と同居している10歳半のビションフリーゼも、寝言を含め人語にしか聞こえない響きの鳴き声を発することがある。5歳くらいの時から「もうお話しできるでしょ?」なんて繰り返し尋ねていたので、いよいよ本気になったのかもしれない。
目で語りかけてくることもある。こちらが投げる言葉に対し、さまざまな表情の視線を向けてくるのだ。そういう時は、筆者も黙って視線を返す。伝えたい具体的な言葉を脳裏に浮かべながら、わんこの目をひたすら見つめる。
犬が人と一緒にいることを選んでくれた
『サイレント・コミュニケーション~犬のメッセージに気づいたとき、あなたが変わる』(ロージー・ラゥリー・著、藤田紀子・訳/AHWIN Co., ltd・制作)は、わんこと暮らしているすべての人に手に取っていただきたい一冊だ。この種の本にありがちな押しつけがましい提案ではなく、「あるある」感覚を通してわんことのコミュニケーションの質について考えることができる。その第一歩は、ネイティブ・アメリカンの実に印象的な言い伝えだ。
神様が人と動物との間に溝を作られ、その溝が次第に大きくなり、もう飛び越えることができなくなるその瞬間に、犬は、その溝を越えて人のもとにとどまることを選びました。
『サイレント・コミュニケーション』より引用
そうか。うちの子のご先祖様は、自ら進んで人と一緒にいることを選んでくれたのか。そうしてくれて本当によかった。
共に暮らしていくための指標
犬をペットという感覚ではなく、生活を共にするパートナーとしてとらえる本書の立脚点は、目次からもわかる。
犬の音声コミュニケーション
コミュニケーションの共有―愛犬との関係を見直そう
犬の弱い者いじめ行動
なぜボディ・ランゲージは必要なのか
シンプルな変化・大きな影響・まず人間が変わろう
犬のシグナルの具体例
私の犬は不安なの?
犬とストレス
人間社会で生きる犬の葛藤
犬が発する警告のシグナル
選択の自由化コンロトールか―あなたならどうする?
献辞を寄せている犬の行動カウンセリングの専門家シーラ・ハーパーによれば、今の時代の犬との生活は“飼う”のではなく、“共に暮らす”というニュアンスがはるかに強い。確かに筆者も、起床時間から始まって食事、散歩の時間などお互いにスケジュールを譲り合ってこなしていくようなところがある。そういう基本的なところから積み上げていってくれる作りのこの本は、長年犬と暮らしている人には確認の意味で、初めて一緒に暮らす人には基本情報のインプットの指標となるだろう。
彼らなりのコミュニケーションにこちらが寄せる
はっとしたのは、次のような文章だ。
音声を発することは、人間に気づいてもらえるという意味で、犬にとっては大変効果的な方法です。でもその結果はどうでしょう。残念ながら、この音声コミュニケーションが攻撃的と判断され、遺棄や殺処分という悲しい結果をもたらすこともあるのです。
『サイレント・コミュニケーション』より引用
だからこそ、サイレント・コミュニケーションがお互いにとって大切になる。ごく当たり前だが、わんこと人間は、お互いに幸せを感じ合い、与え合いながら暮らしていくべきなのだ。
最良の方法はボディ・ランゲージ
犬も人間もパートナーにストレスをかけることなく、ギブ・アンド・テイクの関係を構築していくためのサイレント・コミュニケーションの核となるのは、ボディ・ランゲージだ。前述の通り、筆者は眼差しを含めた表情を最大限に駆使するのがよいと思っているので、積極的に実行している。
10年一緒に暮らしていると、お互いに行動を読み合うようなところが出てくる。こういう動きをしたら、次はこう。その次はこう。そんなルーティーンめいた感覚が芽生える。これはこれで、サイレント・コミュニケーションだと思う。ただこの本には、そこから先の理想的な方法論も示されている。
人が犬のボディ・ランゲージをまねて、同じ方法で伝えれば犬はその意味を理解することができます。本当はこちらのほうがよっぽど効果的なのです。
『サイレント・コミュニケーション』より引用
表情だけじゃダメなんだな。これからは、全身を使うことを意識しよう。うちのわんこのご先祖様は人に歩み寄ってくれたのだから、筆者も、もっともっとわんこに寄せていこう。
【書籍紹介】
サイレント・コミュニケーション
著者:ロージー・ラゥリー(著)、藤田紀子(訳)
制作:AHWIN Co., ltd
本書は、なぜ、犬のコミュニケーションを理解する必要があるのかを、人間同士の コミュニケーションの例を交えながら、分かりやすく説明します。犬は、ペットという枠を超えて、私たちの家族・友だちとなりました。でも私たちは、人間の家族や友だちと同じように、犬の気持ちを理解し、尊重しているでしょうか。カギは、犬が発するシグナルを理解することです。深く固 い絆は、相互理解の上に成り立ちます。それには、気持ちの通ったコミュニケーションは不可欠です。愛犬ともっと仲良くなりたい人、愛犬の問題 行動に悩む人、里親になった人、これから犬を飼う人や、レスキューの現場の方にもぜひ読んでいただきたい、犬目線のコミュニケーションの本です。