本・書籍
2022/1/4 6:30

幸せになりたいなら、犬を飼うといい。『犬から聞いた素敵な話』

犬から聞いた素敵な話』(山口 花・著/小学館・刊)は、2012年に出版された書籍を加筆修正して、この秋に文庫化された1冊。著者の山口さんのデビュー作で、初版は5500部だったのが、どんどん売れて30万部を超えるベストセラーとなり、今また文庫本として再登場し注目を集めている。飼い主の視点で綴った7編、犬の視点で綴った7編、計14編の短編集。一編5分程で読めるので、通勤の電車の中、昼休み、あるいは寝る前などに読めば、ちょっと涙することはあっても癒されること間違いなしだ。

犬と一緒なら、お互いが幸せになれる

本書の解説を担当しているモデルでタレントの森泉さんは、愛犬家として有名で、犬の保護活動にも取り組んでいる。森さんは人と犬とのつながりがどれほど素晴らしく、幸福に満ちたものかを伝えてくれるのが、この本だと記している。

 

本の中のどのワンちゃんにも、作者の温かなまなざしが注がれているのが手に取るようにわかります。読み進めていくと、自分が飼っている、あるいは飼っていた犬たちと重なってくるのです。書かれているのは別の子の話なのに、「ああ、わかる!」「うちの子と同じだ」「そうそう、あのときはこうだったよね」と、いろいろな思い出もよみがえってきて、感動を覚えました。(中略)犬と暮らすなら、お互いハッピーじゃないと意味がありません。そんなハッピーがこの本にはたくさん詰まっています。

(『犬から聞いた素敵な話』解説から引用)

 

14匹の愛すべきワンちゃんたち

目次を紹介しよう。

 

Chapter 1 飼い主から愛犬へ

リン うちに来てくれて、本当にありがとう。

ライダー ずっと僕たちのなかで生きている。

ハナ あるがままを受け入れること。

サンデー 私は今、ひとりじゃない。

サージャリー さあ、行こう。

マックス ゆっくり、しあわせになろうね。

空知 あきらめないで信じること。

 

Chapter 2 愛犬から飼い主へ

チョコ もっともっと、泣いていいよ。

もふもふ 助けてくれて、ありがとう。

ハル 春になったら、またお庭に花を。

チビ よかったね……山本さん。

ユウ アタシ、忘れない。

デン またいつか、きっと……。

コタロウ しあわせになってね。

 

最初から順に読んでも、気になるワンちゃんの話から選んで読んでもいい。山口さんが丹念に取材を重ねた上で書き上げられた14の話は、どれも飼い主と犬の絆がテーマになっている。

 

犬は人を幸せにする唯一無二の存在

著者の山口さんは現在、ゴールデンレトリバーと暮らしていて、人生は”犬まみれ”だという。また、犬がどれだけ素晴らしい生き物かを痛感している日々だとも。本書の前書きにはこう書かれている。

 

それぞれの飼い主と愛犬は、出会いや生き方、暮らし方も十人十色。ひとり暮らしの老人と犬、認知症の家族を支える犬、わが子ときょうだいのように育つ犬……。それぞれ家族としての”キズナ”が築かれ、そのキズナが、ときに生きる気力や一歩を踏み出す勇気を与えてくれるのです。

(『犬から聞いた素敵な話』から引用)

 

14の犬物語はどれもこれも素敵なのだが、私が特に気に入った作品を、飼い主視点から1編、愛犬視点から1編を紹介してみよう。

 

認知症患者に寄り添う柴犬の話

総合病院の外科医として仕事一筋に生きてきた母親が、定年になってはじめてしたことが、犬を飼うこと。それは母親の子どものころからの夢だったと言い、迷わず柴犬を飼い始めた。サージャリーと名付け、母親は大切に大切に育てていた。ところが、仕事をやめてまだ4年しか経っていないのに、母親に認知の症状がではじめてしまった。コンロの火の消し忘れがあれば、吠えて教える、徘徊がはじまってもサージャリーは母親に付き添って行く。どんなときも危険は愛犬が報せてくれた。それでも、認知症患者を抱える家族の負担はとても大きい。

 

ゆっくり歩いてきたサージャリーが、私に向き合うように座り込んだ。私をじっと見つめたあと、私の肩に頭をのせると、「クーン、クーン」と小さく鳴いた。言葉が話せるとしたら、サージャリーは私にこう伝えてくれていたと思う。「泣かないで……」サージャリーは母の介護のために、存在してくれていると思っていた。(中略)それは間違いだった。サージャリーは、母を看る私や父のためにも存在してくれていた。

(『犬から聞いた素敵な話』から引用)

 

そう、家族の一員となった犬は、ボスと決めたひとりだけではなく、家族ひとりひとりをよーく見ていて、それぞれに寄り添ってくれるとても愛情の深い生き物なのだ。

 

鎖に繋がれ犬を助けた小さな天使の話

犬の視点で描かれた7編で、私がいちばん感動したのがこの話だ。

 

夏の暑い日も、冬の寒い日も、ずっと鎖につながれたまま暮らしてきたボク。ボクの一生はこのまま終わってしまうのかな? ━そう思って生きてきた。小さい頃は家にいたけど、ある日、ボクは外の鎖につながれて、そのまま忘れ去られた……。

(『犬から聞いた素敵な話』から引用)

 

さらに、ボクは最悪の飼い主から、たたかれたり、蹴られたりの虐待も受けていたのだ。

 

が、ある日、隣に住む女の子のちいちゃんがやってきて、遊んでくれたり、食パンをくれたり、雨水ではなく新鮮なお水を水筒に入れて持ってきてくれたりするようになった。ちいちゃんは犬を”もふもふ”と呼ぶようになり毎日会いに来た。ところが、その犬はあまりに汚なかったため、ちいちゃんのママが病気がうつるのではと心配するようになる。

 

ちいちゃん……、ママの言う通りだよ。だってボク、本当にくさいし、汚れてる。

(『犬から聞いた素敵な話』から引用)

 

この犬の気持ちはあまりに悲しい。もともとは白かった毛は、茶色くガチガチに固まってしまっていたのだから。でも、この話はハッピーエンドだ。飼育放棄していた飼い主とちいちゃんの両親が話をつけ、”もふもふ”はお隣へ、そう、ちいちゃんの家に引っ越すことになったのだ。

 

本書を読めば、今いる愛犬がますます愛おしくなるだろうし、まだ、犬を飼ったことがない人は、よーし、今年こそ犬を迎えたいと思うだろう。

 

2022年、多くの人が犬たちに癒され、また一匹でも多くの犬が幸せな家族とめぐりあえることを願ってやまない。

 

【書籍紹介】

犬から聞いた素敵な話

著者:山口花
発行:小学館

この本に収められているのは、愛犬と飼い主の間に紡がれたかけがえのない物語ー。事故で脚を失くした犬と、生まれたばかりの赤ちゃんが一緒に成長していく家族の話。亡くなったおばあさんが遺していった「忘れ形見」の犬とおじいさんとが、寄り添って過ごした6年間の出来事。ずっと一人で生きてきた女性が、被災地に取り残された犬と暮らしはじめて知ったこと…。丹念な取材で拾い集めた実際のエピソードに基づく感動のストーリー。飼い主の視点で綴られた7編と、愛犬の視点で綴られた7編の計14編を収録。犬を愛するすべての人に贈る、感涙必至の短編集。

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