本・書籍
2022/2/27 6:00

ニュースの数字に気をつけて!「チェリーピッキング」って何?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんは数字が得意ですか? それとも苦手ですか? 私は間違いなく後者(笑)。領収書や請求書など数字が必要な書類は大抵一度では上手くいかず、どこかしら間違えています……。

 

逆に私の友人は数字に鋭いタイプ。2人で買い物に行くと

 

友人「さっき見た1680円のマグカップ、かわいかったよね。隣の2200円のよりも良さそう」
私「??? えっ、それって青っぽくて形が丸かったやつ?」

 

こんな風になることがしょっちゅう。数字のとらえ方は人によってさまざまですね。

ニュースの数字にだまされないためには?

今回紹介する新書ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(トム・チヴァース、デイヴィッド・チヴァース著、北澤 京子・訳/ちくま新書)は、もっともらしいニュースの数字と正しく向き合うための一冊。

 

著者のトム・チヴァースさんは、イギリスのサイエンスライター・作家。2021年には英国サイエンスライター協会からサイエンスライターオブザイヤーに選ばれています。共著者のデイヴィッド・チヴァースさんは、オックスフォード大学で教鞭をとった後、現在はダラム大学経済学部助教授。専門はマクロ経済です。

実際のニュースを例にして検証

「数字にだまされるな!」という本はほかにもありますが、本書は最近のニュース記事を題材にしていてピンと来るのがいいところ。「似たような言い回し、見たことあるなあ」と思うこと請け合いです。

 

しかも、著者がサイエンスライターということで、ユーモアを交えながら柔らかい語り口で解説されています。統計学の専門的な話は出てくるものの、私のような文系脳でもなんとかついていけるレベルです。

 

私もだまされているだろうなと感じたのが、第16章で取り上げられている「チェリーピッキング」。「チェリーピッキング」とは熟れたサクランボだけを取るという意味で、“いいとこどり”のこと。

 

例に挙がっているのは、2019年の「サンデー・タイムス」のトップ記事「ティーンエイジャーの自殺率はここ8年でほぼ倍になった」というもの。「倍なんて大変!」とショックを受けますが、じつはこれ、ティーンエイジャーの自殺がもっとも少なかった2010年を起点にしたことで生まれた、大げさな数字だとか。

 

考えてみれば、「5年前と比べて」「ここ20年で」「80年代以降」「戦後」などなど、どの期間を切り取るかはデータを主張する人の裁量次第。比較元をしっかり確認しないと、チェリーピッキングに引っかかってしまいそうです。

 

前後しますが、第8章にも面白い例が載っていました。2011年の「デイリー・テレグラフ」の見出し「炭酸飲料はティーンエイジャーを暴力的にする」。これは学術誌に掲載された「缶入りソフトドリンクを1週間に5本以上飲んだ若者は、武器を持ち歩いたり、友人、家族、付き合っている人に暴力をふるったりする可能性が有意に高かった」という研究に基づいているそうです。

 

一見、「炭酸飲料はティーンエイジャーを暴力的にする」という見出しと、「炭酸飲料をよく飲むティーンエイジャーは暴力的だ」という研究内容は似通って見えますが、見出しのほうは明らかに炭酸飲料が原因で暴力性が高まったという印象を受けます。これは数字ではなく、言い回しのトリックですね。

 

仮に「クラスで早起きしているグループは、テストの点数が10点高い」という結果があったとして、「だったら早起きするだけで、10点アップするんだ!」とはならないわけです。短絡的に因果関係で2つの事柄を結びつけてしまうのは、読む側もやりがちな失敗。健康食品やサプリなどを選ぶ際にも気をつけたいですね。

 

そのほか、リスクの数字を大げさに示す「相対リスク」、成功例だけを見てデータを出す「生存者バイアス」など、人の判断を誤らせる数字の使われ方の例が全22章にわたって紹介されています。

 

最近はネットニュースなどのセンセーショナルな見出しに、さらに尾ひれがついて一人歩きすることも多いですが、一呼吸置いてしっかり考えることが大事なのがわかります。

 

【書籍紹介】

ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章

著者:トム・チヴァース、デイヴィッド・チヴァース、北澤 京子(訳)
発行:筑摩書房

ニュースにはたくさんの数字が出てくる。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界を席巻してからは、なおさらだ。感染者数、陽性者数、再生産数、陽性率…。しかしその数字は、ニュースに出てくる時点で選択されており、記事のストーリーに沿うかたちで提示されている。因果関係は本当にあるのか。その数字は本当に「大きい」のか。増えた、減ったの判断の基準は本当に正しいのか。じつは数字によるミスリードにはパターンがあり、それを知っていれば大きな間違いは避けられる。具体的な例を使い、ユーモラスな語り口でその方法を伝授する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。