本・書籍
2022/3/23 6:15

「キレる」のではなく、正しく上手に怒るための心構え——『怒る技術』

テレビでも日常生活でも、怒っている人をよく見かける。「キレる」というキーワードで検索すると、誰かが怒っている動画がかなり多く引っかかってくる。

 

キレるスイッチ

店員のお釣りの渡し方が気に入らなかった。クラクションを鳴らされてカチンときた。たまたまマスクを外した瞬間を見られて注意された。キレるスイッチは人それぞれだ。そして、とどまるところを知らないレベルまでキレてしまう人もいる。

 

以前とはまったく違う日常の中で生きることを強いられたこの2年の間に、キレやすくなったり怒りやすくなったりした人は確実に増えたにちがいない。アンガーマネジメント(怒りの感情のコントロール法)先進国のアメリカでは、“パンデミック・アンガー”という新しい言葉も生まれた。今の世の中では、怒りの感情が生まれやすく、どこまでも突っ走ってしまいやすくなっていると思ったほうがいいだろう。

 

怒りの感情と正しく向き合うために

怒りの感情をあたりかまわず、誰彼かまわずぶちまけるような態度は問題だ。しかし、全ての怒りをひたすらため込むのも健やかな行いではない。アンガーマネジメントの講座に参加するほどではないが、怒りの感情と正しく向き合い、健やかな方法で解き放ちたい。普通の人間は、普通に生まれる怒りの感情にどのように対処していったらいいのか。そして、そもそも怒りの感情を認識するのが苦手だったり、できなかったりする人もいるようだ。

 

怒る技術』(中島義道・著/株式会社KADOKAWA・刊)は、怒りという感情を本質から多角的にとらえた一冊だ。著者の中島氏による考察の過程はエキセントリックでありロジカルであり、そして何よりクレイジーだ。“戦う哲学者”である著者は、憎たらしささえ感じる繊細な響きの言葉を使いながら、これでもかというくらいの緻密さで怒りをつまびらかにしていく。すべては次の大前提の下に進められる。

 

怒る技術を学ぶことは、効果的に怒る技術を学ぶこと、つまり怒りを爆破させるのではなく、冷静に計算して相手にぶつける技術を学ぶことなのです。

   『怒る技術』より引用

 

怒りを定義する

中島氏は怒りを次のように定義する。

 

「怒り」とは「悲しみ」や「寂しさ」や「虚しさ」や「苦しさ」といった単なる受動的な感情ではなく、表出とコミになった感情です。

『怒る技術』より引用

 

感じた怒りは何らかの形で外に出していかなければならない。ならば、誰よりも自分が納得できる方法でこれを行うためにはどうしたらよいのか。

 

一挙に怒るように自分を仕向けていってもたちまち挫折する。段階を踏んで一歩一歩進むことが大切です。その第一歩として、怒りの出現を正確にとらえること。どんな小さなものでもいい。怒りの兆候をあなたが感じたら、それを大切に育てることです。

『怒る技術』より引用

 

常識や社会規範との関係

笑いのツボはひとそれぞれだろう。だから、怒りのツボだって違って当たり前だ。ただ中島氏の怒りのツボは、はっきり言って世の中の大部分の人が同意するものではない。いや、かなり乖離していると言ったほうが正確だ。表出の方法もストレートだ。

 

これまで法に触れる窃盗を二度ほどしました。一度は、電通大近くの天神通りにある、酒場のスピーカーがあまりにもうるさいので、それを奪い取って、「返してくださいよ! 返せよ!」という訴えをものとせず、民家の庭に投げ捨てたのでした。

『怒る技術』より引用

 

本書の性質としては、怒りの本質を明らかにして、それをうまく表出していくまでのプロセスについて論じる哲学書という言い方が正しいのだろう。でも、怒りを育て、それをストレートな形で表出しまくっていく著者の行動を追うだけでも一読の価値がある。いや、その部分が一番面白い。常識とは何か。社会的規範とは何か。読者はそういうところまで考えていく必要に迫られる。

 

哲学って……

怒るというのは、ネガティブなばかりの行いでは決してない。問題は、怒りの感情の育み方と表出の方法だ。

 

怒りはあなたを確実に鍛えてくれる。あなたの人生を確実に輝かせ豊かにしてくれる。ですから、さあ、あすから、いや今夜から、いやいますぐにでも、何かに対して猛烈に怒ることにしましょう。何に怒るかって? そうですね、さしあたり、こんな本のために460円も払ってしまった、あるいはこんな本を最後まで読んでしまった、自分の浅はかさに怒ってはいかがでしょうか?

『怒る技術』より引用

 

哲学って、実はとんでもなくぶっ飛んだ学問なのかもしれない。十分楽しませてもらったから、最後の最後でこういうふうに突き放されても怒る気にはなれないな。

 

【書籍紹介】

 

怒る技術

著者:中島義道
刊行:KADOKAWA

あなたは上手に怒ることができますか?突発的に「キレる」のではなく、効果を冷静に計算して、相手に怒りをぶつけること。「やさしい」言葉に乗じて、個人固有の考え方や感受性、言葉を奪い去ろうとする他者に対して、怒りを感じ、伝え、時に相手の怒りを受け止める術を磨く。かつては怒れなかった青年が、留学先のウィーンで独り生き抜くために培った怒る技術。豊かな人生を取り戻すために、本書を片手に、いまこそ怒ろう。

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