本・書籍
2022/4/6 6:15

「植物だったらゲノム解析されてそう」ってどんな悪口なの? あなたの教養も試される『教養悪口読本』

的外れな答えしか返さないカスタマーサポート。同じことを何回も何回も尋ねるオペレーター。マニュアル通りの対応しかしない客様相談窓口のお姉さん。

面白い悪口

筆者は、怒ると口調がとても丁寧になる。そして、キレればキレるほど雄弁になる。相手がいくら話の飲み込みが悪くても、話がループし始めているのを感じても、「あんた、バカなんじゃないの?」みたいなことは絶対に言わないし、そんなこと考えもしない。考えるのは、異常なまでに丁寧な言葉で紡ぐ皮肉なものいいをぶつけることだけ。イヤな奴でしょ?

 

教養悪口本』(堀元見・著/光文社・刊)は、そんな筆者にとって怖いくらい“どストライク”な一冊だ。まずは、筆者の心にいきなり刺さった「はじめに」に綴られている文章を紹介する。

 

「最近のインターネットは悪口ばかりでつまらない」 そんな声をよく聞く。僕はその度に思う。「悪口のせいにしないでほしい」と。たしかに、インターネットにはつまらない悪口が氾濫している。「キモい」とか「バカ」とか「死ね」とか。だけど、それは悪口がつまらないのではなく、「つまらない悪口」なのである。

『教養悪口読本』より引用

 

ウィットめいたもの、そして悪意に満ちた慇懃無礼なものいい。“面白い悪口”があるのだとしたら、スタート地点はそのあたりになるのではないだろうか。実は筆者、物心ついたころからこの感覚を宿し、体現していた気がしてならない。イヤな子でしょ?

 

ずしんと響くひとこと

ウィットめいたものと必殺の悪意を込めたひとことをぶつけるにはどうするか。そして、具体的にはどんなものがあるか。こうしたことについてすごくわかりやすい言葉で説明しながら、楽しませてくれるのが本書なのだ。たとえばこんなひとこと。

 

「こいつ無能。死ね」というツイートを見て、楽しい気分になる人はいない。「こいつ無能」と言いたくなった時は、代わりに「植物だったらゲノム解析されてる」と言おう。

『教養悪口読本』より引用

 

説明しよう。シロイヌナズナという植物がある。食べられないし薬にもならないし、人間にとっての利用価値はまったくない。しかし利用価値が全くないからこそ、“モデル生物”としてゲノム解析が進むことになった。モデル生物というのは「理系の世界でみんなが研究に使うスタンダードな生物」で、植物学ではシロイヌナズナが代表例として認識されている。「無能だ」とだけ言うのではストレートすぎる。「植物だったとしたらモデル生物としてゲノム解析されちゃうレベルの使えなさだね」――そういう意味なのだ。実用例はこんな感じ。

 

「移動してきた佐藤さんのこと、どう思う?」

「う~ん……なんていうか……植物だったらゲノム解析されてそうかな……」

『教養悪口読本』より引用

 

 

さすがプロの仕事

38編の悪口が次のような章立てで紹介されていく。

第1章 職場編
第2章 友人・知人編
第3章 飲み会編
第4章 娯楽編
第5章 恋愛編
第6章 ネット編

 

不快さを楽しさや知的好奇心に変えることができるもの。著者の堀元氏は、「正しい悪口」の効能をそう定義する。この本が生まれた経過も面白い。

僕はこれを「インテリ悪口」と称して、インターネットに書き溜めてきた。noteで有料マガジンとして書いていたら、いつの間にかそれだけで食えるようになってしまった。プロの専業インテリ悪口作家である。

『教養悪口読本』より引用

 

不快だけでしかない単純でつまらない悪口を知見でろ過し、何の関係も感じられない言い方に変換する。しかしその過程で、相当量の毒が盛られるのだ。筆者は、眺めているだけで楽しくなってしまう。フリースタイルラップとか、例えツッコミにも活かしていけるコンセプトだろう。

 

ウィル・スミスにも教えたかった

一つひとつのインテリ悪口を解説する文章にはどこか音楽的な響きが感じられ、心地よく読み進めていけるし、ライブアルバムを聞くのにも似ている。

 

ウィル・スミスがアカデミー賞授与式で生放送中にプレゼンターのクリス・ロックに張り手をくらわすという事件が起きた。これまでさまざまな経緯が明らかにされているのだが、何億という人たちの前で妻をイジった人間に対する行動として、他に何が考えられただろうか。

 

なかなかの力でロックの左頬を張った後、自分の席に戻っても放送禁止用語を叫んでいたスミスの姿は、少なくとも筆者の目には「キレながらバカに向かってバカと言い続ける人」にしか映らなかった。本書の内容に寄せて考えるなら、正解はこんな言い方になるだろうか。

 

「はい出た! ペリクレス戦略!」

 

詳細は第1章「職場編」でご確認ください。

 

【書籍紹介】

教養悪口読本

著者:堀元見
刊行:光文社

その企画、パリティビットが意味をなさない品質ですねー誤りを検出するための仕組みであるパリティビットも想定を超えた間違いには対応できない。あり得ないほどミスがある仕事に対して使うインテリ悪口。植物だったらゲノム解析されてそうー利用価値がないゆえにゲノム解析の国際協力が進んだ植物・シロイヌナズナ。無能な人や役に立たない人をこれにたとえたインテリ悪口。弥子瑕に対する霊公じゃないんだからー『韓非子』に登場する王様(霊公)と、寵愛された美少年(弥子瑕)のエピソードから。倦怠期に冷たくなる恋人を指すインテリ悪口。…論理学、行動経済学、歴史学、文学、文化人類学、理論社会学、生物学、化学、情報工学、応用数学、宗教学。モヤモヤを教養に変える38のロジカル巧言。

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