今から約20年前、筆者は南カリフォルニアのアーバインという町に住んでいた。エンジェルスのホームスタジアムがあるアナハイムから車で30分くらいの学園都市だ。
日常会話でも文法にこだわる? 日本人
移民や留学生の数が多いアーバインでは、外国人のための英語教室が地区ごとに設置されていた。こういう教室に通っている日本人住民から、特に中南米から来た人たちの迫力に圧倒されてしまうという話をよく聞いたのを思い出す。
「三単現のSをギリギリわかってる程度なんだけど、とにかく話したがる」「文法無視で、知っている単語だけ並べて会話を成立させちゃう」「書くのはものすごく苦手だけれど、ディベートになると生き生きする」
日常のコミュニケーションの助けになるようデザインされているため、授業は会話が占める割合が圧倒的に高い。こうした方向性では、文法知識が豊富でどちらかと言えば話すよりも書くことのほうに抵抗が少ない日本人は、特性を発揮できない。
発言力と文法力のバランス
中学校からきっちり積み上げる日本人の文法知識は、世界レベルで考えても決して貧弱ではないはずだ。それを会話に活かせないのはなぜか。結局は、文法知識を会話に反映させるためのインターフェイスが不足しているのではないだろうか。
いや、そもそも文法を意識して会話する必要などあるんだろうか。そんなことを考えるのは、日本式の英語の授業を受けて大人になった人たちだけなのではないか。母国語ではない英語を完全に操る必要はない。でも、完成度にとらわれるあまり文法を必要以上に意識してしまう。これは日本人特有の感覚かもしれない。極端に言えば通じればいいので、特に会話では文法のプライオリティーはそもそも低いはずだ。
3つのメソッドで目指すレベルの会話を実現
『文法ゼロ英会話』(荻野雄大・著)は、①トピックノートを作成する ②発音の規則性を学ぶ ③メッセージのやりとりをする というメソッドを通して“文法なし会話”を目指す。
申し遅れましたが、私は、非英語圏の国に住んで4年目になる者です。英語が全く話せない状態で海外へ飛び立ちましたが、今では全く会話に困っておりません。もちろんネイティヴスピーカーのように話せる訳でもありません。ただ「困らない」というだけです。しかし、今の私の状態こそが、みなさんが設定されている目標の姿ではありませんか?
『文法ゼロ英会話』より引用
荻野さんは、「旅行先で通訳なしで会話をしたい」「仕事で使いたい」「外国人の友だちと話したい」人たちを対象にしてこの本を書いている。ここで、3つのメソッドを筆者なりの言葉で定義しておく。
・トピックノートを作成する➝会話へ昇華させるための文章のストック
・発音の規則性を学ぶ➝単語の聞こえ方を意識する
・メッセージのやりとりをする➝英語を媒体に、ネットを最大限に利用して触れあう
会話に必要な3要素とは?
目次を見てみよう。
第1章 話すことは難しくない?
第2章 会話ができない理由
第3章 音が聞こえるようになるために
第4章 語彙は必要?
第5章 単語を知る
この本全体のキーポイントは、第2章の「会話に必要な3要素」という項目だと思う。
「英語を話せる」ことと「英語で会話をする」では、似ているようで全く違います。「英語を話せる」は、ただ文章をつくりだすことができるだけです。「英語で会話をする」は、相手が伝えたいことを理解し、それに対して言いたいことを言う、までがセットです。このことから、英語で会話ができない理由は「相手が伝えたいことを理解できないから」ということがわかります。
『文法ゼロ英会話』より引用
ごく当たり前な流れだ。でも、相手に対して「もう一度言っていただけますか?」とか「もう少しゆっくり話していただけますか?」とごく当たり前のことのように言える自信があるだろうか。プライドとは違うだろうけれど、何らかの躊躇を感じることはないだろうか? 会話において最も大切なのは、まずこのあたりの心理的障壁を取り除くことなのかもしれない。
きらりと光る個性的な一冊
本書のテーマとなっている3つのメソッドは、決して日常的で地道な努力ではない。たとえばトピックノートは物理的に作るのではなく、脳内イメージ的に浸透させておく程度でいいと思う。発音の規則性もメッセージのやり取りの方法も、能動的な姿勢を持ち続けていればノウハウが自然な形で蓄積されていく。本書を読み進むうちに、そういう感覚が身についていくだろう。
大きな出版社から出ているものは、それだけで信用が置けると感じる人は多いだろう。ただインディーズ系であっても、きわめてユーザーフレンドリーな英会話本があることを知っていただきたい。
【書籍紹介】
文法ゼロ英会話
著者:荻野雄大
本書には、私が英語を全く話せない状態から、ネイティブの人と普通に話せるようになったノウハウを全て記載しています。今でも文法はほとんど意識していません。文法無しで英会話ができて、文法以上に必要なノウハウを記載しています。