僕はプロ野球が好きなので、毎年10月に行われるドラフト会議も楽しみにしている。注目の選手がどのチームに入るのか。ワクワクしながらテレビを見ている。
ドラフト会議で一番注目されるのは、やはり1位で指名される選手たち。しかし、ドラフト会議では1球団でだいたい6人から8人ほど指名する。下位指名の選手は、あまり記憶に残らない。
『ドラフト最下位』(村瀬秀信・著/KADOKAWA・刊)は、ドラフト会議の一番最後に名前を呼ばれた、ドラフト最下位の選手を追いかけたドキュメンタリーだ。一軍で活躍した選手は記憶にあるが、まったく知らない選手もたくさん出てくる。なかには、非常に変わった経緯でプロ野球に入ってきた選手もいる。
ドラフトに指名されるかどうかは本人にもわからない
本書を読むと、さまざまな人生があるなと思うが、それよりもドラフトという制度が結構ゆるいんだなと感じた。
上位指名される選手は、各球団が指名する旨をあらかじめ伝えたりしているようなのだが、下位指名の選手に関しては「確実に指名する」という確約がない。ドラフト会議当日の流れなどにより、下位指名する選手が流動的になったりすることもある。
そのため、「指名するから」と球団に言われても、名前が呼ばれないということもある。選手はただ待つだけ。なんともかわいそうだが、それが今のプロ野球という世界なのだ。
ドラフト最下位からの出世
それでも、ギリギリでプロ野球に滑りこんだ選手たち。その人生は紆余曲折だ。ヤクルトで活躍した田端一也は、1991年のドラフト会議で福岡ダイエーホークスから第10位で指名。その年の最終92番目に名前を呼ばれた。
田端は富山の高岡第一高校で富山屈指の右腕として名を馳せたが、その後進んだ北陸銀行でヘルニアと肩の故障で野球を断念。そして実家の建設会社「田端建工」に就職。ただ野球をやりたいという気持ちは持ち続け、地元の居酒屋の草野球チームに入り、軟式野球をプレー。そのチームは草野球だが全国大会に出場するほどのレベル。そこで田端はのびのびとプレーし、数々の大会で優勝。そして、福岡ダイエーの入団テストを受け、合格。ただし、それはあくまでもドラフト候補に入ったというだけで、確実に指名されるとは限らない。
その後、ダイエーからヤクルトに移籍し、野村克也監督の下で才能が開花し、先発ローテーションとして定着する。ただし、肩を故障してその後近鉄→巨人とトレードで渡り歩き、引退している。
田端の場合、ドラフト最下位の選手としてはかなり活躍できたほうだが、その他の選手に至っては、プロに入っても実力が開花せず、そのまま引退という場合も多い。
ドラフト1位と最下位にある見えないライン
ドラフト1位とドラフト最下位。入団してしまえばドラフトの順位は関係ないと言えるが、チャンスの数は明らかに違う。上位指名の選手は常に首脳陣に目をかけられ、1軍でプレーする確率も高いが、ドラフト最下位の選手にはそれほど多くのチャンスは巡ってこない。
ただ、自分より下がいないという面で開き直れる部分がある。とにかくひとつずつ上を目指して、地道に努力するしかない。ただし、ドラフト下位選手は上位選手よりもチャンスの数が少ない分、数年で戦力外通告されることも多い。
夢に見たプロ野球にギリギリ滑り込めたことはラッキーだが、やはりそこから上に行くのはかなり難しいようだ。
一見華々しいプロ野球の世界だが、見えない部分にも無数のストーリーがある。まったく話題に登らない「ドラフト最下位」の選手にスポットライトを当てた本書を読んで、ちょっとプロ野球を見る視点が広がったように思う。
【書籍紹介】
ドラフト最下位
著者:村瀬秀信
発行:KADOKAWA
ある年に、最後に名前を呼ばれた男たちを追ってー。福浦和也、田畑一也、三輪正義、伊藤拓郎、今野龍太、長谷川潤ほか。球界の片隅にあった驚き、苦悩、思いがけない栄光を描く。