本・書籍
2022/7/5 21:45

「トカイナカ」という新しいライフスタイル−−都会と田舎のいいとこ取りで充実した人生を!

長かったコロナ禍により都会から地方に移住する人が増えている。これは東京だけでなく、パリやニューヨークなど世界各地で見られる傾向だ。コロナによりリモートワークが主流となり、家賃が高い都会の住まいを捨て、自然が豊かな田舎に移ったとしても、ネット環境さえ整えれば転職なき移住が可能になったのだ。また、企業サイドもそれを支援する動きが出てきている。

 

そんな今、是非読んでおきたい一冊が、『トカイナカに生きる』(神山典士・著/文藝春秋・刊)だ。”トカイナカ”とは都心から1時間半ほどの距離にある自然豊かなエリアのこと。週に1~2回の都心への出社なら始発電車に乗れば苦にならず、その他の平日は静かな環境でリモートワークができる。そして週末は自然の中で子育てや趣味を楽しめるというわけだ。かつて人々は成功や幸せを求めて「上り列車」に乗った。しかし、これからの時代は「下り列車」に乗るほうが、よりよい人生を送れるようになるのかもしれない。

 

トカイナカ生活の先駆者

本書の冒頭に登場するのが、今から35年以上も前の1985年から都会と埼玉県所沢の二拠点生活を実践している経済評論家の森永卓郎氏。当時から森永氏は所沢のことを「トカイナカ」と呼んでいたそうだが、誰も振り向いてくれなかったという。ところが、コロナの影響で一気に変わった。都心で高い家賃(ローン)を払って感染に怯えつつ、家に篭もってリモートワークするのは馬鹿らしいと思う人が増えたのだ。

 

それに対してトカイナカ生活は、全くノーストレスだと森永は言う。「私はこの間、極力外に出ないようにして本を5冊も書いてめちゃくちゃ忙しかった。このエリアには人の生活に必要な教育、医療、福祉が全て揃っています。お受験はないけれど必要な教育はある。父が都心で介護施設に入ろうとしたら月額費用が40万円で入居金が1億円と聞いてびっくりしました。所沢の施設なら入居金はタダ。比べると施設の場所と、設えがホテル並みに豪華なのか質素なのかの違いだけ。施設が都心にあるというだけで大金を支払うのはナンセンスです」

(『トカイナカに生きる』から引用)

 

森永氏の専門は厚生経済学で、どうやったら人を幸せにできるかがテーマ。そしてその答えの一つがトカイナカ生活をすることなのだという。

 

「下り列車」に乗った幸せづくり

著者の神山氏も2020年から東京と埼玉県ときがわ町にて2拠点生活をはじめているそうだ。ノンフィクション作家である彼が「下り列車」に乗って幸せを掴んだ人々を綿密に取材し、まとめたのが本書。まずは目次から見ていこう。

 

第1章 トカイナカで生き方、働き方を変える  ━神奈川県鎌倉市、長野県軽井沢町

第2章 トカイナカでローカルプレイヤーになる  ━千葉県富津市金谷

第3章 トカイナカで起業する  ━埼玉県ときがわ町

第4章 トカイナカで古民家暮らしをする  ━千葉県匝瑳市、埼玉県ときがわ町

第5章 トカイナカでよそ者力を発揮する  ━千葉県いすみ市

第6章 トカイナカを六次化する農業  ━埼玉県小川町・ときがわ町一帯

終章  この国の再生は地方から

 

都会では好き嫌いのスイッチをオフにして暮らしていた

コロナ以前、都会で暮らしていたビジネスマンたちは好き嫌いのスイッチをオフにしてのではないかという。たとえば、満員電車での通勤が苦なのに考えないようにしていた、など。ところがコロナになってリモートワークとなり、空気が澄み自然が多い郊外や地方に身を置いてみて、はじめて実は都会暮らしは嫌いだったことに気付いた人が多かったというわけだ。

 

「市版SDGs調査」というものがある。全国の40万以上の中核市+政令指定都市+県庁所在市、計83都市を対象とした調査で、「幸福度」「生活満足度」「愛着度」「定住意欲度」「SDGs認知度」「金融商品への投資経験」という6つの項目を柱に106の質問に答えるというもの。その結果全国1位になったのは埼玉県川越市、2位以下は石川県金沢市、兵庫県西宮市と続く。が、このランキングの中に東京23区はない。これは、東京都民は東京に対しての帰属意識はあっても区には帰属意識が薄いため、調査対象外だったのだそうだ。たとえば品川駅は港区にある、目黒駅は品川区にある、新宿駅の一部は渋谷区エリアなどなど、最寄り駅と居住区が一致しないケースが多々あるため調査対象外となったのだそうだ。

 

そして今、好き嫌いのスイッチをオンにしてみたら、都心生活者たちの気持ちは郊外へ、地方へと動き、幸福度や愛着度も求めて移住を決意するケースが増えているのだ。人の流れは逆流をはじめ、また、ふるさと回帰を含め、その傾向は若い現役世代が中心となっている。

 

さらに、大手就活サイトが学生たちに希望する勤務地を調査したところ、「地方」と答えた学生がなんと48.2%、対して「東京」と答えた学生は19.2%だったという。都会に憧れない若者は今後も増えていくに違いない。

 

次はあなたがトカイナカプレイヤーに!

本書ではトカイナカで幸せを見つけた人、成功した人たちの実例が事細かに紹介されているので、きっと参考になるだろう。最後に神山氏からのメッセージを記しておこう。

 

トカイナカの生活を満喫しよう。そこでは美味しい有機野菜が採れる。起業してチャレンジングな人生を送る人がいる。素敵な古民家があり、そこで豊かに暮らす人がいる。若者たちが集まって専門知識、技能を学びローカルプレイヤーになる。人生や生き方を変えた人がいる。よそ者の視点を利用して地域に刺激を与える人がいる。それぞれが得意分野で力を出し合って、地域を六次化していく仲間がいる。だから私は「トカイナカに生きる」。

次はあなたが素敵なトカイナカプレイヤーになる番だ。

(『トカイナカに生きる』から引用)

 

コロナ後の生き方を考えてみたいすべての人におすすめの一冊だ。

 

【書籍紹介】

トカイナカに生きる

著者:神山典士
発行:文藝春秋

都心から郊外に向かって人の流れが「逆流」し始めている。東京都からの転出者数が増える一方で、移住や二拠点生活の希望地に首都圏とその隣接県があがるようになった。コロナ後の時代では、「下り列車」に揺られて幸せな未来をつくる生活様式こそが新しい生き方だ。

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