本・書籍
2022/7/7 21:30

マグロのすべてがわかる『びっくり! マグロ大百科』で、はじめて「マグロの日」があることを知った!

日本人はマグロ好きな国民として知られています。私もマグロが大好きです。お刺身やお寿司のようなナマモノも美味しいですが、煮ても、ステーキにしても、味わい深い魚です。食べるだけではありません。マグロは見るのも好きです。息子が小さいころは、スーパー・マーケットで行われる解体ショーの日をチェックしては、いそいそと出かけました。もっとも、赤ん坊はベビーカーの中でぐっすり寝ていることが多く、結局のところ、見たいのは私自身だったのです。

マグロについて知りたいのなら、葛西臨海水族園へ

マグロ好きな私にとって、『びっくり! マグロ大百科』(葛西臨海水族園 クロマグロ飼育チーム・著/講談社・刊)は、読まずにはいられない魅力的な本です。マグロ、特にクロマグロのすべてが網羅されているからです。著者が、葛西臨海水族園クロマグロ飼育チームだというのにも惹きつけられました。世界で初めてクロマグロの群泳展示を成功させ、さらには、水槽内で産卵させるという驚くべき仕事をやってのけた人たちです。専門家として、様々な角度から、マグロに迫っています。高度な内容ですが、わかりやすい文章で書いてありますし、クイズ形式をとるなどの工夫もこらされているので、子どもでも楽しむことができます。夏休みの宿題にも役に立つのではないでしょうか。

 

葛西臨海水族園は1989年10月10日に開園しました。10月10日が選ばれたのは、その日が「マグロの日」だからだそうです。私は自分ではマグロ好きのつもりでしたが、マグロの日があると、初めて知りました。その理由は以下のとおりです。

 

なぜかというと、奈良時代の726(神亀3)年、歌人の山部赤人が聖武天皇のおともをして明石(兵庫県)の浜に出かけ、マグロをとって栄えているこの地方のことをほめたたえる歌をよんだのが、10月10日だったからだそうです

(『びっくり! マグロ大百科』より抜粋)

 

びっくり仰天の話ではありませんか?マグロが歌に詠まれていたのも驚きですし、奈良時代には既にマグロ漁が盛んだったなど、私は考えたこともありませんでした。

 

『びっくり!マグロ大百科』には、他にもこうしたびっくり話が満載されています。クロマグロの秘密として挙げられるエピソードは様々です。体の大きさや扇子のように折りたたむことができるヒレ、視力や色、そして、筋肉に至るまで、まるで解体するように説明されています。さらに、クロマグロの宿命に言及しているところが、私には印象的でした。

 

クロマグロは、夜も泳ぎ続けています。だって夜でも、呼吸をしなくてはなりませんから。泳ぎながら寝ている、といってもいいかもしれません。昼も夜も一生泳ぎつづけるのは、クロマグロの宿命なのです

(『びっくり! マグロ大百科』より抜粋)

 

泳いでいないと死んでしまう、それがクロマグロの宿命です。まさに、クロマグロは泳ぐために生まれてきたのだと言えましょう。

 

葛西臨海水族園に出かけたとき

葛西臨海水族園は、東京都江戸川区臨海町にあります。JR京葉線の葛西臨海公園駅から徒歩で行くことができます。1989年にオープンしたというニュースを知ってから、私は行ってみたいと思い続けていました。けれども、願いはなかなか叶いませんでした。私は神戸に住んでいるので、なかなか機会に恵まれなかったのです。

 

念願かなって出かけたのは、開園から15年近く経ってからのことでした。東京で仕事が入ったので、水族園に行くための時間を取り、ようやく行くことができました。ところが、その年は、葛西臨海水族園にとって、苦難のときでした。2014年の12月、大水槽の中を元気よく泳いでいたクロマグロが、次々と謎の死を遂げていたのです。水族園のスタッフは、必死で原因を探り、マグロを救うために手をつくしましたが、食い止めることはできませんでした。クロマグロの飼育は大変、難しいものなのです。

 

2014年の11月に63匹いたクロマグロは次第に数が減り、4か月あまりでたった1匹になってしまいました。よりによって、私はそんなときに出かけて行き、がらんとした大水槽に対面しました。ほんの数匹のマグロしか泳いでおらず、残ったマグロたちも元気がなく、緩慢な動きをするのがやっとという感じでした。入園者数も減っていたのでしょう。園内は人影もまばらでした。

 

『びっくり! マグロ大百科』には、そのときのことも、隠すことなく言及しています。そして、2016年4月、マグロの大量死について調査結果を発表しました。

 

大きな原因としてあげられたのが、水中にとけこんだ空気の濃度が高くなり、そのためクロマグロの血管に気泡ができ、呼吸がむずかしくなる「ガス病」のうたがいでした。「ガス病」は、水槽の水を循環させる配管に空気が入ってしまったときに、起きることがあります

(『びっくり! マグロ大百科』より抜粋)

 

マグロは口とエラぶたを開いたまま前進することで海水を口にとりこみ、エラの中に流します。その結果、海水から酸素を取り込んで呼吸するのです。マグロは海水からとりだした酸素のおよそ60パーセントを血液に吸収するといいますが、それは人間に比べると約3倍もの吸収力になるそうです。それだけに、「ガス病」はきわめて深刻な被害をもたらしたに違いありません。

 

ただし、「ガス病」だけが原因だったわけではなくウイルスや細菌、寄生生物などが起こす他の病気の可能性もあります。結局、いくつかの要因が重なって、こうした悲劇を引き起こしてしまったのでしょう。そのあたりの事情についても、『びっくり! マグロ大百科』は隠さずに言及しています。そして、こうした熱心な態度こそが、マグロの飼育という難しい仕事を可能にするのでしょう。

 

努力の甲斐があり、今、葛西臨海水族園の大水槽では、100匹近いクロマグロが遊泳しているといいます。たくさんのマグロが元気いっぱいに泳ぐ光景を見るために、私ももう一度、水族園を訪ねてみたいと思っています。

 

【書籍紹介】

びっくり! マグロ大百科

著者:葛西臨海水族園 クロマグロ飼育チーム
発行:講談社

泳ぎつづけるのはなぜ? ヒレを出し入れするのはどうして? どうやって太平洋を渡るの?食べたくなるほどおもしろい! 世界ではじめてマグロの群泳展示に成功した葛西臨海水族園の、マグロの専門家が、クロマグロのすべてを書きました。

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