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2023/1/15 21:00

シベリアのワラビにマカオのフクロウ。英国貴族の館ではすき焼き作り!? 食で世界一周!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。一見なんだかわからない食べ物ってありますよね。お正月のおせちで言えばカズノコ。私の友達は子どものころ、親戚のおじさんのホラを真に受けて、カズノコを果物の一種だと思っていたそうです。確かにあの色とプチプチ感は南国の果物っぽさがありますよね。その後、魚の卵と知って大ショックだったとか(笑)。イメージって大切かもしれません。

 

70か国を回った紀行作家の食レポ

さて、今回の新書は世界食味紀行 美味、珍味から民族料理まで』(芦原伸・著/平凡社新書)。著者の芦原伸さんは紀行作家、ノンフィクションライター。鉄道ジャーナル社編集部を経てフリーランスとなり、新聞、雑誌を中心に世界70か国以上を取材しています。雑誌「旅と鉄道」「SINRA」の発行人・編集長を歴任。著書に『ラストカムイ』(白水社)、『北海道廃線紀行』(筑摩選書)、『旅は終わらない』(毎日新聞出版)などがあります。

バイカル湖畔で振る舞われたワラビの味は?

旅行記事の取材のため、世界の五大陸、7つの海を股にかけたという芦原さん。本書では、第1章「ヨーロッパ、ロシア」、第2章「アメリカ、オセアニア」、第3章「中国、アジア」、第4章「中東、アフリカ」と世界を4章に分けて、各国の食体験をまとめています。珍しい民族料理がその土地の思い出とともに語られていて、風の匂いや石壁の手触りも伝わってきます。

 

私が読んでいて印象に残ったのは、バイカル湖畔で振る舞われたシベリア料理。リストビヤンカという小さな村を訪れた芦原さん。村を流れる川では洗濯をする農婦の姿があり、井戸端会議のさなか。「ニッポンから来たのかね。お茶でもどうだい」とニーナというおばあさんの家に招かれます。

 

ペチカが燃え、大きな犬が見守る家で「お昼でも食べていくかね」と振る舞われたのがニジマスに似た魚・オムリと、なんとワラビ! ワラビは日本のものと同じで、塩を振りかけ、炒めたものが食卓に出されたそうです。実はかつてシベリアでは、日本市場へ輸出するワラビを巡って中ソの貿易戦「ワラビ戦争」があったとか……。旅先での交流と食の歴史的背景が混ざり合い、心がほっこりし、知的好奇心もそそられるのが本書のいいところ。

 

芦原さんが日本の味を振る舞うケースもありました。イギリス・ロンドンの南、バース近郊で古城ホテルを経営する名門貴族のジョンさんと仲良くなった芦原さん。手作り料理をいただいたお返しに、すき焼きを作ることに。

 

春菊はないため、スーパーでチンゲンサイのような中国野菜と、なぜか輸入されていた大分県産のしいたけを購入。肉屋ではすき焼き用の薄切り肉はなし。しかたなく肩ロースの塊を「薄く切って」と頼むも理解してもらえず……。さて、このすき焼きパーティはうまくいくのでしょうか?

 

オリエント急行ではフレンチシェフのフルコース料理を食べつつ正装の紳士淑女と会話を交わし、ニュージーランドではマオリ族のハンギという民族料理でウナギの旨味を堪能、マカオでは正統派の「野味レストラン(野生動物を食べさせるレストラン)」でフクロウの煮込みを味わう……。

 

新書ゆえに地図や写真はほとんどありませんが、熟練の文章で味や風景が臨場感をもって浮かび上がってきます。気になった料理があったら、ネットで検索してみるのも今風の本の楽しみ方。食べることは土地を愛すること。一冊読み終えて、プチ世界一周旅行をしたかのような満足感がありました。

 

【書籍紹介】

世界食味紀行 美味、珍味から民族料理まで

著:芦原 伸
発行:平凡社

70か国以上を股にして歩いた紀行作家が、世界の都市から辺境に至るまで、食を通してその土地に根差した文化や歴史を紹介する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

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