こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「ベジタリアン」の最新の呼び方が「ヴィーガン」かなと、なんとなく思っていましたが、そこには定義として違いがあるようです。
ベジタリアンは菜食主義だけど卵や牛乳を摂る場合があり、ヴィーガンは卵や牛乳も含め、動物由来の食べ物は一切摂らないスタンスだとか。グルテンフリーもそうですが、“何かを食べない”という選択が、ライフスタイルと結びついているのが今の時代といえるのではないでしょうか。
ヴィーガンとはどのような生き方なのか?
さて、今回紹介する新書は『ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方』(森 映子・著/角川新書)。ヴィーガンに興味がある人はもちろん、「なぜお肉を食べないんだろう?」と素朴な疑問を持つ人にとっても、なるほどと思える一冊です。
著者の森 映子さんは時事通信文化特信部記者。社会部、名古屋支社などを経て、1998年から文化特信部、2021年からデスク、編集委員を務めています。エシカル消費、動物福祉などをメインに取材を行い、著書に『犬が殺される 動物実験の闇を探る』(同時代社)があります。
なぜ彼らはヴィーガンになったのか
アニマルウェルフェア(動物福祉)について取材を行っていた際にヴィーガンの人々と知り合って興味を抱き、約2年にわたって取材したという森さん。第1章「ヴィーガンとは?」では、ヴィーガンの定義やヴィーガン人口などをわかりやすくまとめています。
衣類や化粧品まで植物性にこだわる「エシカルヴィーガン」、植物が収穫後に死滅しないように果物やナッツ類だけを食べる「フルータリアン」など、一口にヴィーガンといってもさまざまなタイプがあることを知りました。
第2章「ヴィーガン食の開発で世界を狙え」では、ビジネスの視点が盛り込まれ、代替肉を開発するスタートアップ企業やヴィーガンレストランが取り上げられています。
取材の強みが活かされている、本書の柱とも言えるのが第3章「なぜヴィーガンになったのか」。NPO代表、起業家、官僚、アスリート、それぞれの立場で活躍するヴィーガン4人の率直な想いが伝わってきます。
ヴィーガン投稿レシピサイトを開設したという若手起業家の場合は、高校3年の秋、路上で車にひかれた猫の死がいを見たことがきっかけ。人間の行動によって動物たちにしわ寄せが行くのは嫌だと感じ、その日のうちにネットで動物の殺処分や、工場畜産の実態を調べ、動物性食品をやめようと決意したそうです。バイタリティのある若い人たちがヴィーガンという生き方を選択し、社会のなかで活躍しているのが印象的でした。
本書中盤は浸透が遅れる日本でのアニマルウェルフェアの現状がレポートされ、最後の第7章は「ヴィーガンは健康的なのか」。ベジタリアンの栄養士、日本栄養士会会長、国立健康・栄養研究所所長の3人の専門家が、それぞれヴィーガン食について健康面での見解を述べています。不足しがちな栄養分とは? ヴィーガン食のリスクは? そして取材を終えて森さんが考えたこととは……。
単に時事ネタの取材まとめではなく、新しい生き方ともいえるヴィーガンに著者が強い関心を持ち、深く知りたいという熱意が伝わってくる本書。ヴィーガンの是非に寄らず、“ヴィーガンとは何か”に、ビジネス、哲学、動物福祉、健康とさまざまな角度から光を当てています。読者が興味を持てる切り口が多く、読みやすいのが特徴です。
人間は知らないことに関して拒絶しがちな生き物。観光庁の資料によれば、主要100か国・地域におけるヴィーガンを含むベジタリアン等の人口は、2018年には約6.3億人に達したそうです。食べるという行為について考えることは、自分の生き方を見つめ直すことでもある気がします。
【書籍紹介】
ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方
著者:森 映子
発行:KADOKAWA
肉や魚、卵やハチミツまで、動物性食品を食べない人々「ヴィーガン」。一見、極端な行動の背景とは?実験動物や畜産動物の問題を追い続けてきた非ヴィーガンの著者が、多くの当事者や企業、研究者に直接取材。知られざる生き方を明らかにする。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。