本・書籍
2023/1/31 21:15

林真理子が『成熟スイッチ』で指南、慕われる老人になるためにすべきこと

「老害」、あるいは「暴走老人」という言葉を聞くたびに、自分はそうはなりたくないと皆思っている。ただ、今はまだまだバリバリ仕事をしていて、同僚や後輩から慕われていたとしても、年齢を重ねたときそのままでいられるかどうかはわからない。人は自然と成熟に向かっていけるわけではないのだ。

 

成熟スイッチ』(林真理子・著/講談社・刊)は日本大学理事長に就任された作家の林真理子さんが9年ぶりに書いた人生論。成熟したよい人間になるための指南書なのだ。

 

四つの成熟スイッチとは?

年をとって成熟の素晴らしさを教えてくれる人と、老いの醜さを見せつける人とがいる。若いころはさほど違いがなかった人たちも歳月を経ると二つに振り分けられてしまうというのだ。では、まず本書の章立てから見ていこう。

 

序章 四つの成熟

第一章 人間関係の心得

第二章 世間を渡る作法

第三章 面白がって生きる

第四章 人生を俯瞰する

 

年をとった心のからくり

人から必要とされる人でありたい、という思いは人生の後半になるとさらに強まるものだ。林さんもそう願う一人だそうだが、一方で「自分は必要とされているとカン違いしているのではないか」という恐れと常に向き合っているともいう。例えば、はた迷惑なのにしゃしゃり出てくる人、文句ばかり言う人、昔の自慢話だけをする人などは、実はいなくても誰も困らない人かもしれない。

 

では、どうすればよいか。「人から必要とされる」ではなく「人を幸せにしたい」、あるいは「人のために何か役に立ちたい」と能動的に考えればいい。(中略)人を幸せにすることで自分も充足出来る人。その上で、本当に自分が人のために役立っているのか、人をちゃんと幸せに出来ているのか、繊細に気を配り続けることが出来る人。まったく簡単ではないけれど、それはまさに成熟した人の姿と重なります。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

では、各章から、気になる内容の一部を抜粋してみよう。

 

60歳を過ぎると人間関係で悩まなくなる?

人は年をとって、人づき合いの新陳代謝を繰り返していくうちに、人間関係では悩まなくなっていくそうだ。林さんの場合は先輩の作家である、渡辺淳一さん、瀬戸内寂聴さん、田辺聖子さんなどから学んだことが多いという。たとえば、田辺さんからは、こう教えられたそうだ。

 

「女は六十歳過ぎてから、すごく自由になってくる。体力は落ちるけど、『こんな可能性もある』『こんな考え方もある』と、視野が広がるから生きやすくなるのよ」と教えてくださいました。この言葉のおかげで、還暦を迎えた時もどんなにか心強かったことでしょう。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

また、渡辺淳一さんからは「編集者を大切にしなさい」と教わったそうだ。たとえいいものを書いてもあんなジジババのところに行きたくないと若い編集者が思ったら作家はおしまい。七十、八十を過ぎても仕事の依頼が次々とあるのは人間力の高い証なのだ、と。

 

現在、あなたのいる職場で、頼れる先輩、若手に慕われている先輩を見つけ、その人の言動を真似てみるといいかもしれない。

 

世間を上手に渡る作法とは?

とりわけ大切な作法といえば、感謝の気持ちを忘れないこと、そして常に相手の気持ちに立って考えること。マナー本には載っていないマナーでこそ、人との差がつくのです。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

林さんは時間厳守の人だそうだ。それは大事な会議などに時間ギリギリで焦って到着するとロクなことがなく、また、万一遅刻をしてしまったら、それだけで見えないペナルティを取られるからだという。林さんは編集者との約束の場所にも二十分前には着くそうで、これには編集者側に迷惑がられているとも打ち明けている。が、年を重ねると、早めに行くより、ちょっと遅めに最後に堂々と登場したいと考えてしまう人が実は多いように思う。しかしそんな見栄が実はマイナス要因になることも心しておきたい。

 

さらに、林さんは、時間を制する者が世を制す、とも記している。

 

仕事で大活躍している人や、各方面からお声がひっきりなしに掛かる人気者の人ほど例外なく時間の使い方が上手だと感じます。まず優先順位を決めて、やるべきことをきちっとこなすことが出来る。その上で、自分が楽しいと思うことにはたっぷりと時間とお金を費やす。彼らは「忙しいから」などという言い訳は絶対に口にしません。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

時間を使いこなすためには「頭の切り替え」が欠かせない能力の一つであることも覚えておきたい。

 

面白がって生きる

最初からフリーランスより、会社勤めをした人のほうが確実に人間力を育てると林さんはいう。

 

毎日毎日が修行のような勤め仕事をして身につけた基礎仕事力は、その後の人生の中でも、とても大きな拠り所となります。作家でも、会社員の経験のある人はとても多い。個性とは、基礎仕事力の上に花開く能力でもあるからです。(中略)仕事をしている人は「自分は真面目に働いているんだ」という事実に、無条件にもっと自信を持っていい。私は心からそう思います。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

面白く、楽しく生きるには相応のお金が必要だから働かなければならない。だから嫌々働くのではなく、今の仕事を出来るだけ面白がれるよう自分の気持ちを持っていくことも大切だ。

 

さらに、林さんは面白く生きるために”読書”は欠かせないという。本を読むことは、自分とは違う人生を見るための格好の材料。読書は必ず人生を面白く豊かにしてくれる。ジャンルを問わずたくさんの本を読みたいものだ。また、最近の若者の活字離れに対し、林さんはこんなアドバイスをしている。

 

「いっぱい本を読んだからって、立派な大人になって、いい会社に入れるとはかぎらない。でも本を読むと、大人になった時に一人でいることを恐れずに済む人間になれます」若い人は一人でいることを恐れ、もっぱらスマホで「つながり」を求めますが、読書の習慣があれば、一人でもカッコよく見えるし、退屈もしません。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

人生を俯瞰してみる

定年後に素敵に生きていくのはなかなか難しいものだ。いつまでも昔の名刺を出してきたり、権力にしがみついている人は嫌われるだけで、決して幸せにはなれない。定年後、どんな生き方をするかは人それぞれだが、大切なのは「いつも楽しそう」ということ。自分自身が楽しいと思うことをしていれば、家族や周囲の人も幸せにしてくれると林さんはいう。

 

人生という長い時間軸の中で現在を俯瞰して考えると、見えてくるものがあります。(中略)俯瞰力とは、つらい時や悲しい時に自分を慰めてくれたり、笑いに変えてくれたりもしますから、人生の味方につけておくと心強いですよ。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

この他にも、よりよく年を重ねるヒントがいっぱいの本書。昨日とは違う自分になりたい人は是非読んでおきたい。

 

【書籍紹介】

 

成熟スイッチ

著者:林真理子
発行:講談社

「昨日とは少し違う自分」へ。日大理事長就任、「老い」との近づき方…人気作家による9年ぶり待望の人生論新書!

楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る