こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私はほとんど夢を見ないので、友だちから聞いた話です。友だちは事あるごとに誰かに追いかけられる夢を見て、うなされて起きることが多かったそう。あるとき夢のなかで、このままでは悔しいから追跡者の顔を見てやろうと思い立ち、意を決して振り返るとなんと追いかけていたのは自分だったとか!
不思議なことに、そのあとから追いかけられる夢は減り、逆に誰かを追いかける夢が増えたそうです。でも結局、追いかける相手を見失ってしまい、うなされて起きるのだとか……。自慢話と夢の話は盛り上がらないといいますが、他人の夢の話もなかなか面白いものです。
「夢の専門家」が分析する夢と睡眠
さて、今回紹介する新書は『1万人の夢を分析した研究者が教える今すぐ眠りたくなる夢の話』(松田 英子・著/ワニブックスPLUS新書)。著者の松田 英子さんは、東洋大学社会学部社会心理学科教授。専門は臨床心理学、パーソナリティ心理学、健康心理学。
小学生から90代まで1万人以上の夢を収集・分析しており、「夢の専門家」としてメディアにも出演しています。『夢を読み解く心理学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『初めての明晰夢 夢をデザインする心理学』(朝日出版社)など著書多数。心理学的アプローチで30年以上夢の研究を続けています。
寝る前のイメージが夢に影響する!?
そんな専門家が夢の謎を多角的に紹介・分析していく本書。第1章「『夢』とは何か?」では、世界の最新研究を取り上げ、夢が科学的にどこまで解明されているかに迫ります。そもそも夢とは目覚めているときに入力された情報を記憶して整理する、記憶情報の処理過程とのこと。覚醒中と睡眠中の思考には連続性があり、夢だけが独立しているわけではないそうです。そのため、年代や成長によって夢にも個性が出るから面白い、と松田さん。
誰でも毎晩3つから5つほどの夢をみているそうですが、夢が記憶に残りにくい人と残りやすい人がいます。残りやすい人は「高想起者」といい、平均的に心配性で不安傾向の高い人。一方、記憶に残りにくい人は、情緒が安定していて、のんびり、穏やか、ストレスにも柔軟に対処できる傾向があるのだとか。私は子どものころからほとんど夢を覚えていないので、ストレスがないのでしょうかね……(笑)。
第2章「『夢』からわかること」、第3章「『夢』はこんなにおもしろい!」に続き、第4章は「『夢』はコントロールできるのか」。
誰もが一度は“夢見た”、夢をコントロールする具体的な方法を脳科学的に探っていきます。好きな夢をみるためには、入眠前にその夢をイメージすることを習慣にするといい、と松田さん。ほかにも、この章には実践してみたくなる、いい夢をみる工夫が紹介されています。まあ、私の場合は、起きたときにまず夢を覚えているという努力が必要ですが(笑)。
後半第4章以降では、不眠を改善する方法や夢によって心の調子をモニタリングする「夢日記」のつけ方、睡眠とアルコールの関係性など、睡眠の質を高める実用的な情報も多数。オカルト的な夢占いや夢判断ではなく、研究結果や科学的根拠に基づいて夢と睡眠の関係性を示しているのが本書のいいところ。
よくよく考えれば、夢だって人間に起こる現象のひとつ。今後さらに解明が進めば、夢が心と体のバロメーターとして医学的に活用できるようになるかもしれません。
1万人以上の夢を収集・分析している研究者の著作だけに、世界の研究データや実例も豊富で、読んでいて納得感があります。金縛りのメカニズム、年代別の悪夢の特徴、予知夢の真偽など、私たちが普段気になっているトピックも多く、硬軟織り交ぜながら最後まで飽きさせない作り。不思議な夢をみた……。そんなときは本書を開いてみてはいかがでしょうか。
【書籍紹介】
1万人の夢を分析した研究者が教える今すぐ眠りたくなる夢の話
著:松田 英子
発行:ワニブックス
誰でも毎晩3~5つは夢をみている、みる夢で自分の本心(思考・感情)がわかる、「飛ぶ夢」「追いかけられる夢」をみる理由、年代別によくみる夢とは?金縛りでみる夢、世界各国のちがい、8時間睡眠が一番健康によい→ウソ、もうすぐ夢がスキャンできるようになる!? 夢の内容をコントロールするには? いい夢をみる方法は就寝前に…ほか、おもしろ&役立ち情報満載ー。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。