スタジオジブリの最新作『君たちはどう生きるか』、みなさんはご覧になられましたか? テレビCMや特報などの宣伝もなく、物語・キャストの詳細も明かされないまま上映されましたが、今までに500万人近い観客動員数を記録し、大ヒットしています。また、考察なども盛り上がっていますよね。
そんな異例の映画をプロデュースしたのは、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫さん。テレビやラジオなどさまざまなメディアで彼の声を聞くたびに「この人はず〜っと若いなぁ」と感動してしいたのですが、7月に発売された『歳月』(鈴木敏夫・著/岩波書店・刊)にその若さの秘訣があるように感じました。今回は、鈴木さんと80名以上の人々との出会いが綴られた『歳月』をご紹介します。
宮﨑駿監督は、スマホもPCも使わないし、使えない。
『歳月』は、2016年2023年3月までに共同通信配信で連載された記事をまとめたもの。なんと86のエピソードが紹介されています。どのエピソードも3ページほどと短くまとめられているため、「今日はどれにしようかな?」と好きなエピソードを選んで読むのがとても楽しい一冊でした。
その中には、永六輔さんや黒澤明監督、手塚治虫さんとの貴重なエピソードや、ジブリに縁のある夏木マリさん、滝沢カレンさん、久石譲さんなど豪華メンバーとのエピソードが、鈴木さんの目線から優しく深く語られています。個人的に一番好きだったのは、やっぱり宮﨑駿監督のエピソード。背中が丸まった日本人が増えたという話から、
宮さんは、スマホもPCも使わないし、使えない。昨日の朝も「死ぬまで使わない」と宣言した。従って、背筋はいつだってピンと伸びている。
彼の日課は、毎朝六時に起きて、二時間の散歩。晴れの日も雨の日も。その後、朝メシをちゃんと食べてからスタジオへ向かう。
(『歳月』より引用)
本書には、宮﨑監督と鈴木さんの後ろ姿の写真が掲載されているのですが、これがたまらなくいいんです! 自然に前を向いて、シャンとした姿に私も思わず「今日から姿勢良く歩こう」と思ってしまいました。ぜひ『歳月』でお確かめくださいね!
2018年にこの世を去った高畑勲監督とのお話
宮﨑監督と共にスタジオジブリを支えてきたのが、高畑勲監督です。高畑監督は、『平成狸合戦ぽんぽこ』や『かぐや姫の物語』など、数々の話題作を手掛けられてきました。宮﨑監督と高畑監督の仲良しエピソードはご存知の方も多いと思いますが、『歳月』では高畑監督との最期を次のように残していました。
宮さんは、常日頃、「パクさん(高畑さんの愛称)は、九十五歳まで生きる。俺と鈴木さんの弔辞を読むのはパクさんだよ」と言い続けた。ジブリは、三人でやってきた会社だった。
四月五日午前一時十九分、高畑さんは亡くなった。享年八十二歳。(『歳月』より引用)
この文章を読んだだけでグッと胸が熱くなってしまうのはなぜでしょう。三人の普段など知るはずもないのに、まるで私も三人と共に生きてきたような気分になり、ウルウルしてしまいました。これは彼らの作品を観続け、追いかけてきたからなのかもしれません。「この三人と同じ時代を生きられてよかったぁ〜」と、幸せな気持ちも湧いてくるお話でした。
最新作『君たちはどう生きるか』の裏側で……
『歳月』は2016年からの連載なので、「『君たちはどう生きるか』を制作している」といった言葉もちらほら見受けられます。たくさんの人との出会いを通じて、鈴木さんがどんなことを思い、なぜ映画の宣伝活動を一切しないという決断をしたのか、読み終わるころにはなんとなくわかったような気もしたので、不思議です(笑)。
何かと正解を求めて、人と合わせながら生きている私たちですが、鈴木さんの『歳月』と映画『君たちはどう生きるか』を一緒に鑑賞することで、たくさんの気づきが得られるでしょう。映画をまだ観ていない方は、映画を! 映画を観終わった方は、鈴木さんの著書『歳月』も一緒に楽しんでみてくださいね。映画のこと、スタジオジブリのことがもっと好きになること間違いなしな一冊です!
【書籍紹介】
歳月
著:鈴木敏夫
発行:岩波書店
共同通信配信の人気連載が待望の書籍化!スタジオジブリの名プロデューサーが、手塚治虫、黒澤明、池澤夏樹、富野由悠季、スピルバーグ、米津玄師、あいみょん、ダライ・ラマ14世、そして宮崎駿ら、その人生の道ゆきで巡り合った人々との鮮烈な思い出を振り返る。闊達な筆致で胸に希望の灯がともる、86のエピソード。