本・書籍
歴史
2023/11/26 10:30

古市憲寿さんが12人の専門家にズバリ聞く! 世界の宗教書・神話の謎~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。海外の小説を読んでいると、ときどき「ん?」と思うセリフに出くわすことがあります。その多くは日本には馴染みのない決まり文句がもじられているケース。また、その地に根付いた宗教や神話・伝承を下敷きにしている表現も日本語にするのは難しいですよね。

 

今、世界で何が起こっているのか。深く理解するためには宗教や神話を知ることも重要でしょう。それは人が生きるための土台なのだと思います。

社会学者の古市憲寿さんが研究者に宗教・神話を聞く

今回紹介する新書は『謎とき 世界の宗教・神話』(古市憲寿・著/講談社現代新書)。著者の古市憲寿さんはメディアでもおなじみの社会学者。著書に『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『絶対に挫折しない日本史』(新潮新書)、小説『平成くん、さようなら』(文藝春秋)などがあります。

『聖書』はいい加減だから長持ちした!?

本書は2022年刊行の『10分で名著』(講談社現代新書)の続編にあたり、12人の研究者に古市さんが世界各地の宗教書や神話の読みどころを聞く対談になっています。面白いのが、各回の冒頭に各宗教書の内容を簡単にまとめたマンガが4ページ入っていること。特に予備知識がなくてもマンガによって、その要点がわかります。

 

第1回は、作家で元外交官の佐藤優さんに聞く「聖書 なぜキリスト教は「長持ち」したのか」。キリスト教神学を研究し『ゼロからわかるキリスト教』(新潮社)などの著書もある佐藤さん。ズバッと本質に切り込む両者の持ち味が炸裂しています。

 

『新約聖書』は神父や牧師の仕事がなくなるから簡単に読めてはいけない作り。『聖書』はいい加減だから、いろんなものを詰め込めるし長続きする……と明快。佐藤さんがそうしたキリスト教とどう向き合って来たかもわかります。

 

私が読み返してみたいと思ったのは『論語』。第7回「『論語』 孔子の人間臭い実像」では、中国古典学者で早稲田大学文学学術院教授の渡邉義浩さんが『論語』を解説。

 

聖人君子というイメージが強い孔子ですが、「実際の孔子はどんな人物だったと思いますか」という古市さんの問いに対して、古い注の読み方から浮かび上がる孔子は人間臭い常識人で、悪口だって言うし、人生に疲れて嘆いたり愚痴を言ったりする、いいおじさんです、と渡邉さん。一生懸命常識を説くも偉い人から相手にされない孔子の姿が浮かび上がってきます。

 

古市さんの鋭い質問と専門分野に愛がある研究者の方々の解説がうまく噛み合い、世界の宗教、神話の要点が見えてくる一冊。マンガ&対談の構成はカジュアルで、パラっと読んでみようという気にさせるのも上手いところ。

 

『マハーバーラタ』『エッダ』『アヴェスター』『論語』……。名前は知られていても、いきなり古典に挑戦するのはやはり難しいものです。世界を見渡す補助線としても役立ちそうな新書でした。

 

【書籍紹介】

謎とき 世界の宗教・神話

著者:古市 憲寿
発行:講談社

歴史を学ぶにも、現代を考えるにも、これだけはおさえておきたい知識がゼロからわかる!「聖書」、ゾロアスター教、北欧神話、『論語』……個性豊かな12人の専門家に、古市憲寿が読者に代わって理解の「ツボ」を聞いた!各宗教・神話の基礎がわかる解説マンガ付き!

楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る

 

【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。