ビジネス
2021/3/18 18:15

サイバーコネクトツー松山 洋氏の「週刊少年ジャンプ的経営論」ーービッグタイトル連発のゲーム制作会社はどう出来た?

会社員から「脱サラして起業したい」という人は少なくない。勤めていた会社がブラック企業化したり、やりたいことができないなどの理由で企業を考える人もいるだろう。では実際に起業した人と、会社員を続ける人、起業したけれども失敗して会社員に戻った人の違いはどこにあるのか。

 

2000年代初期に発売された架空のMMORPGワールドを舞台にしたゲーム『.hack』シリーズや、人気マンガ『NARUTO -ナルト-』の世界観に高いグラフィック性と新たなアクション性を取り入れた対戦アクションゲーム『NARUTO -ナルト- ナルティメット』シリーズを輩出してきた、株式会社サイバーコネクトツー代表取締役の松山 洋氏に話を聞いた。

↑株式会社サイバーコネクトツー代表取締役 松山 洋氏

 

株式会社サイバーコネクトツー

.hack』(※)で人気を獲得し、その後『NARUTO -ナルト-』(※)『ジョジョの奇妙な冒険』(※)『ドラゴンボールZ』(※)といったマンガ作品のゲーム開発を多く担当。そのほか映画や漫画制作など、多岐にわたるエンターテインメント事業を手がける。2021年2月16日をもって創業25周年を迎えた。

※発売元:株式会社バンダイナムコエンターテインメント

 

 

メーカー勤務から一気にゲーム会社起業に至った激動の20代

ーーまずはじめに経歴からお伺いします。ご出身の大学はどちらでしたか?

 

九州産業大学商学部です。実は商学部に行ったのは、漫画研究同好会が目当てだったんです。部員が100人以上いるところで、『シティーハンター』の北条司先生、『あまいぞ!男吾』のMoo.念平先生、『ザ・サムライ』の春日光広先生など、数々の人気マンガ家さんを生みだしてきました。子どもの頃の夢はマンガ家になることで、ずーっと家でマンガを描いているような子だったので、その漫研に入りたいと思ったんです。

 

そこでは、マンガ家デビューが決まったり、アニメ会社やゲーム会社に就職が決まったヤツがどんどん中退していくんです。私がいたのは商学部でしたが、芸術学部には「大学に4年いるようなヤツは売れないヤツ」という考えがあったんですね。でも不思議とみんな、半年から1年で帰ってくるんです。1人2人ではなく、何十人も。みんな、次々に大学をやめて、次々に戻ってくる。聞いてみると「やばいね、あの業界」みたいな。でも、そう言っている人たちは大学を中退しているし経験も浅い。「あの業界は非常識だ」というけれど、何と比較しているの? という疑問を抱いたんです。

 

ーーそれで、ご自身の進路はどうしたんですか?

 

私はアルバイトをいっぱいしていて、大学時代に35種類もやって1トンのタンカー作ったりしたけれど、就職はしたことがない。マンガ家や編集者、テレビ番組もアニメも作ってみたいと、いろいろ夢はありました。でもどこへ行ったとしても世間の一般常識を知らないと、何も判断できないダメなヤツだなと思ったんです。それでなるべく固い業界にしようと、コンクリート二次製品のメーカーに就職しました。個人の努力とチームの努力と会社の努力と。どこまで何が通用して、これ以上はやっても無駄という境界線を知りたかった。

 

私がいたのは公園などを作っている部署で、国から発注された案件を落札したゼネコンがお客さんです。そこにコンクリートを売り込んで、買ってもらえたら売上が上がる。買ってもらうためには設計しなきゃいけないんですが、その設計図面の中にうちの商品が入っていれば売れるんです。だから設計コンサルにも営業するんです。だから行政、ゼネコン、設計コンサルという三つ巴を押さえてグルグル回るのがコンクリート業界の営業なんです。自分の関わった現場はやはり気になると見に行きますよね。そこで団らんしている家族もユーザーなんですよ。何かを作った結果、人が楽しんでくれる、これがものづくりの醍醐味だなと感じましたね。

 

ーーその後、会社を立ち上げられるわけですね。

 

2、3年経った頃、東京で就職した漫研の同級生が電話をかけてきて「一緒にゲーム会社作ろうぜ」って。

 

それまでのゲーム業界は任天堂の天下で、スーパーファミコンの時代でした。ところが1994年にソニーからプレイステーションが出たんです。これが革命的だったのですが、まずは流通がポイントでした。任天堂は初心会と言われている任天堂独自の流通しか使えなかった。それをソニーは、ソニーミュージックというレコード会社があったから、その流通を使って全国のCD店やコンビニなどにもゲームを置けるようにしたんです。それから、カセットだったソフトをCDにして大容量になったと同時に、2Dのドット絵だったのがポリゴンの3Dになったんです。

 

ーー一気にインフラが変わって、新規参入しやすいタイミングだったのですね。

 

これは大きかったです。既存のゲーム会社も3Dの勉強を0からやらなきゃいけない。みんな横並びなんです。新規参入するチャンスですよね。それにゲーム業界の歴史って驚くほど浅かった。映画は100年超えているし、アニメも100年近い。マンガなんて『鳥獣戯画』から数えれば1200年。でもファミコンが出たのが1983年だから当時たった11年しか経っていなかったんです。少しポリゴンの勉強をしてみたら、これからのゲームは俺がやりたかった映画やマンガ、アニメ的なことがぜんぶできるんだ! と思いましたね。その瞬間に「俺、一生ゲームクリエイターやるわ」と言って会社を始めました。それが25歳のとき。

 

 

思わぬ理由で社長就任――経営の根っこにあるのは「週刊少年ジャンプ」

そして、3作目のゲームを作り始めた頃、社長が会社に来なくなり、失踪しました。それを機会に私が社長になり、社内を一新したんです。終業時間もあってないような状態になっていました。それを「朝は9時出勤、昼は12時から13時のみ」など、いろいろとルールを作った。すると「朝9時じゃなきゃいけない理由を説明してくれ」と言ってくる社員もいました。もちろん理由はあるんですよ。ゲーム市場は日本だけじゃないから、アメリカのパートナーとコミュニケーションをとるのに、朝9時なら1時間くらいは相手の帰社前に話ができるんです。

 

ーー理由があっての改革だったのですね。

 

はい、すべてはクオリティを担保するためです。大手企業が100人規模で作ったゲームが5800円、私たちが18人で作ったゲームも5800円なわけだからクオリティを保つために、どんな努力もしなきゃいけない。そうでなければ、お客様は100%大手のほうを買うでしょう。「だってこの会社は18人で作ってるんだからこのクオリティでも仕方がないよ」なんて言って買ってくれる人はいませんから。

 

ーーほかに経営で意識していることはありますか?

 

会社の中で起きていることは、悪い話ほど報告しろと言っています。良い話は後でいい。この順番をみんな間違えるんですよ。良いことしか言わないような文化にしちゃいけないから、上から拾いにいくしかないんです。だから毎日行っている役員会で、朝からこんなこと聞きたくないと思うけれども、どこかの部署の誰が鬱になっていますとか、誰かの子どもが病気になったので今日から在宅になりますとか、そういう何から何まで、家族のことも含めて共有するようにしているんですよ。

 

うちは大手企業とは違います。うちぐらいの規模だからこそ、スタッフがしっかりついてこれるようにしないといけない。なので、仕事に対する向き合い方、会社の環境や会社のことを一番考えているのが社長だっていう姿は見せ続けているんです。私の場合、その根っこを作ったのは「週刊少年ジャンプ」ですね。ジャンプの主人公たちが、もし大金を持っていてもそんなカッコ悪いことはしない。仕事に対する向き合い方、会社を一番考えているのは社長だっていう姿を見せてきたので、そこだけは心配されないようにしています。

 

上司批判、体制批判をやりたいのであれば偉くなれと言っています。「絶対ダメなのが悪口。言う資格すらないことを自覚しろと。ただのゴミムシだよそれ」って言ってるんです。「文句があるなら偉くなって、それだけの力と覚悟を示せ。そうしたらみんなもお前の話聞くようになるよ。お前が今やっているのはただの陰口。格好悪いね」って飲み会の席とかで言っているんですよ。

 

ーー厳しい中にも理由があって、曲がったことはしない。松山さんが経営者としてカリスマ的人気があるのがわかります。SNSはどう活用されていますか?

 

SNSで一番頑張っているのはツイッターですね。ゲーム会社ってSNS禁止のところが多いんですよ。情報漏洩とか炎上とかリスクがあるから。でもうちはプロフィール欄に「サイバーコネクトツー所属」と書いていいよって言ってます。アカウントのフォロワー数や、いいねの数、リツイートの数がある一定数以上行くとボーナスを出す。それだけコミュニティに対して影響力を与えたってことだから。プロフィール欄見るとサイバーコネクトツーって面白いなってなるし、他の会社がやれてないところだからこそ、うちはどんどんやっていきます。これからは個人の情報発信力がものを言う時代だから、フォロワー数もいいね数も全部評価します。今うちのスタッフのアカウントは100以上あります。全員合わせて現在のフォロワー数が数十万人、100万人目指そうっていう話しているくらいうちはSNSには力を入れています。

 

すべての目標は逆算する――世界で戦えるオリジナルIPを作るための戦略は?

ーー社員に対する考え方を教えてください。

 

私は人が辞めていくことに対して全く悩まないですね。サイバーコネクトツーには最高の条件や環境があると自負していて、それでも「そこでやっていけません」っていうなら仕方がない。ただ、だいたい辞めていくときって100%人間関係で、ウマが合う合わないはあると思うから、それはしょうがない。なので、辞めたいって言うんだったらすぐ辞めていいよというスタンスです。

 

頑張ってる社員に私が返せるものって2個しかない。1つは誉れ――つまり「この仕事やっていて良かった」です。「『鬼滅の刃』のゲーム、僕が作ったやつだよね」って言えるのってすごいことだと思うんですよ。なので、うちでタイトルを作ってる開発者も、手掛けているタイトルのことを何一つ恥ずかしいと思っていないんです。「本当はやりたくないけど今回は申し訳ないけどみんなやって」って言ったことはない。そういう仕事は絶対やらない誉れになる仕事を彼らに与えてあげるのが私の社長としての務め。

 

もう一つスタッフに返せるものは単純にお金です。いい仕事していいもの作っていっぱい売れた、利益が入ってきた。でも利益は出せば出すだけその半分は税金で持っていかれるんです。それなら全部ボーナスとしてあげたほうがいい。来年の利益は来年また稼ごうぜっていう考えなんです。

 

ーーこの先の会社の目標はありますか?

 

人生って全部そうだけれども、自分の勝利条件ってゴールからの逆算だと思うんですよ。どんな絵空事でもいいから大目標を立てて、そこから逆算する。うちはコンテンツで世界を征服するっていう目標を掲げているんですよ。うちの生み出すオリジナルコンテンツで、『スパイダーマン』や『バットマン』、『ドラゴンボール』みたいな、世界に通用するIPを生み出すのがうちの目標。ちなみに同じように『NARUTO -ナルト-』や『ドラゴンボール』『ジョジョの奇妙な冒険』『鬼滅の刃』などお預かりしている版権も、世界に通用するよう戦略をもって開発を手掛けさせていただいています。どれも売れたらいいなって思って作ったことは1つもない。そんなのは仕事でもなんでもないんですよ。モノは売れるべくして売れるから、そこまでやらないといけないし、それを届けるための努力もしなきゃいけないし、そのためのコントロールもしなきゃいけないんですよ。

 

今、1本のゲームを作るのに100人がかりで3年かかるんです。3年後までは利益にならない。だから社員を300人にするのが目標です。そうすると1年に1本ずつ新作が出せます。だいたいいつもメーカーに請求した制作費から20%はみ出るんです。20%多く見積もっても、必ず20%はみ出る。期限が来ても中途半端なものは出さないから、そうなる。20億の20%って4億の借金ですよ。連帯保証人は私しかいないから、失敗したら死ぬなって思いながらハンコを押しています。販売して分岐を超えてロイヤリティが入ってきたら、まず予算からはみ出た借金を返す。で、それを超えたらスタッフへのボーナスで渡します。でも4年前に作ったゲームのロイヤリティは未だに入ってきますよ。本物さえ作ればずっと売れるから、絶対に妥協はしないんです。

 

撮影/我妻慶一

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