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2022/12/12 19:30

組織人は肩書きにこだわりがち?『組織のネコという働き方』著者が説く立場や肩書きの呪縛から解放される方法とは

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.03「ネコとロール(肩書き)」

 

業界の“新参者”のくせに馴れ馴れしい……?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

「まったく、ずいぶんとナメられたものだ!」

 

とある家電関係の見本市を後にしたオレは、イラ立ちを覚えていた。原因は、巷でネコ型トースターを大ヒットさせている新参メーカー「ミャルミューダ電機」のキジ島とかいう営業だ。あるブースでたまたま出会ったキジ島は、営業チームの主任。愛想はいいのだが態度がなれなれしく、あろうことか業界中堅の老舗・犬山電機のオレに向かってタメ口を利いたのだ!

 

「キジ島のあの態度はどうなんだ!? オレが副主任でキジ島が主任だからだろうが、犬山と新参のミャルミューダじゃ“格”が違うってのに!」

 

オレは帰りの電車で同行の後輩・ミケ野につい愚痴ってしまったが、それは間違いだったとすぐに気づいた。空気の読めない問題児・ミケ野は、そんなオレのイラ立ちにわざわざ油を注いできたのだ。

 

ミケ野「え、キジ島さんって主任でしたっけ。気にしてなかったなぁ」

ポチ川「ミケ野も名刺交換してただろう」

ミケ野「肩書きとか興味ないんで」

ポチ川「ミャルミューダなんて、まだ100人もいない会社のはずだ。そこの主任なんて、ウチでいえば副主任より格下なんじゃないか」

ミケ野「そういうの、関係なくないですか? ってか、僕もキジ島さんにタメ口で話しちゃってたかも」

 

ミケ野「それより先輩、ミャルミューダといえば、営業部から社長直轄の新規プロジェクトへ異動になったタマ田さんの話、知ってます?」

ポチ川「あのタマ田がどうしたんだ?」

ミケ野「ミャルミューダの社長や執行役員と飲みに行ってましたよ」

ポチ川「は……!?」

ミケ野「なんでも、趣味の山登りSNSで繋がったとかで。営業部にいた頃からの話ですけど、先輩知らなかったんですね。タマ田さん、プロジェクトで新規事業とかやってるみたいだし、今後、もしミャルミューダとコラボとかあったら面白そうですよね!」

ポチ川「趣味……コラボ……?」

 

え、ちょっと、仕事なのにそれってどうなの……? なんだか頭が混乱してきた。電車を降り、ミケ野と別れたオレの足は、無意識のうちにまた、あのニャンザップへと向かっていた……。

 

老舗のプライドが傷付けられた!?

↑ポチ川は再び、ニャンザップへ足を向けていた

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「こんばんは、ポチ川さん」

 

ポチ川「……こんばんは」

 

ニャカ山T「おやおや、今日はずいぶん眉間にシワが寄っているようですが」

 

ポチ川「……ニャカ山さん。いきなりですが聞いてくれますか!?」

 

ニャカ山T「もちろんですよ。どうされましたか?」

 

ポチ川「僕は創業ほぼ100年の伝統ある犬山電機で営業をやっていることに、プライドを持っています」

 

ニャカ山T「それはなによりですね」

 

ポチ川「入社以来、営業目標は毎期キッチリ100%達成しています。全国の販売店さんとも、長年にわたって厚い信頼関係を築いてきました。つまり……」

 

ニャカ山T「つまり?」

 

ポチ川「その辺のポッと出のメーカーの営業とは、なんというか……立場が違うと思うんですよ」

 

ニャカ山T「ポッと出のメーカー……ですか」

 

ポチ川「そうです。創業たかだか10年の一発屋と犬山とでは、やっぱり伝統も格式も違うというか……」

 

ニャカ山T「創業10年……たとえば、ミャルミューダ電機あたりでしょうかね」

 

ポチ川「うっっ……(なんてカンがいいんだ……!)」

 

ニャカ山T「どうされました?」

 

ポチ川「ええ……実は今日、とある展示会でまさにそのミャルミューダ電機の営業と出会いまして……」

 

ニャカ山T「あら、当たってましたか」

 

ポチ川「せっかくの機会だったので名刺交換には応じましたが、ずいぶんなれなれしい態度を取られましてね。あろうことか僕にタメ口を利いてきたんですよ。正直、いい気持ちはしなかったです」

 

ニャカ山T「ほう、タメ口ですか」

 

ポチ川「先方の肩書きは主任だったので、僕が副主任だからとマウントしてきたに違いありません。所属企業の格からすれば、本当は僕のほうが格上のはずなのに!」

 

ニャカ山T「企業の格、ですか。これまたずいぶん凝っているようですね……」

 

【関連記事】「組織のイヌ」と「組織のネコ」とは?

 

肩書きを超えた役割をする「組織のネコ」

ポチ川「僕はそもそも、組織人として自分の立場や役割をわきまえていない人間は信用できないんです」

 

ニャカ山T「立場と役割ですか」

 

ポチ川「はい。それにね、今日はこれだけではないんですよ、ニャカ山さん。以前お話しした、営業部から社長直轄プロジェクトへ電撃異動した同期のタマ田のこと、覚えていますか?」

 

ニャカ山T「ええ、『組織のネコ』のタマ田さんですよね。覚えています」

 

ポチ川「ウワサによると、タマ田は最近、ミャルミューダの社長や役員クラスとずいぶん親しくしているそうなんです」

 

ニャカ山T「それがどうしたのですか?」

 

ポチ川「驚かないでくださいよ。趣味の山登りSNSでミャルミューダのお偉いさん方に近づいたようなんです!」

 

ニャカ山T「山登りSNS……それが何か?」

 

ポチ川「組織人として明らかなスタンドプレーでしょう! しかも営業部にいたときからつき合いがあったそうなんです。きっと上司の許可も得ていないに違いありません。そんなの越権行為でしょう。いや他部署への領空侵犯か。はたまた会社への宣戦布告……!?」

 

ニャカ山T「ちょっと落ち着いてください、ポチ川さん。だいぶお話は見えてきましたので、そろそろ今日のネコトレをはじめましょう。今日のテーマは、『会社名や肩書きで名乗るのをやめてみる』です」

 

ポチ川「は? ちょっと意味がわからないのですが」

 

会社名や肩書きから自由になる!

ニャカ山T「ポチ川さんは『形式的ロール』をとても大切にされる方ですね」

 

ポチ川「ロール?」

 

ニャカ山T「ロールプレイングゲームとかの『ロール』、つまり役割のことです。形式的ロールとは、会社名・部署名・役職などの肩書きを指します。『組織のイヌ』タイプの人は、肩書きからはみ出さない範囲で仕事を進めようとする傾向があります」

 

ポチ川「当然じゃないですか。それが職務に忠実ということでしょう。何の問題もないはずです」

 

ニャカ山T「ポチ川さんのように営業をやっていると、お客さんから相談を受けて、通常のオペレーションとは違う扱いをしてあげたいと思ったことはありませんか?」

 

ポチ川「そんなのしょっちゅうですよ。先週も管理部に相談しに行ったところです。ダメって一刀両断されましたけど……。少しは融通を利かせてくれたらいいのに」

 

ニャカ山T「では、もしポチ川さんが管理部に異動したら、その件はどう対応すると思いますか?」

 

ポチ川「えっ?! それは……ダメでしょうね……。管理部の担当者としてはそれが仕事なんですから」

 

ニャカ山T「形式的ロールを重視しすぎると、自分の価値観を封印して仕事をこなすようになっていきます。そのうち、指示されたことしかしない思考停止状態に陥ります。いわゆる『こじらせたイヌ』の状態です。末期的症状になると、『自分の人格は家に置いて出社する』感覚になっていきます」

 

ポチ川「そういわれると耳が痛いな……。うちの中間管理職なんかはまさに毎日が板挟みで、こじらせてる状態かもしれません。どうすればいいのか……」

 

ニャカ山T「タマ田さんのような『組織のネコ』タイプが大切にしているのは、『実質的ロール』です」

 

ポチ川「実質的ロール……?」

 

ニャカ山T「ネコは自分に忠実なので、自分がやりたくて得意なことでお客さんに喜ばれる、ひいては会社や社会にとって価値のある仕事を大切にします。その結果、所属部署や肩書きにとらわれない動き方になる傾向があるのです」

 

ポチ川「うーん。だからといって他社のお偉いさんと格を無視したようなつき合いをするのは会社員としていかがなものかと。それに営業部時代のタマ田は、僕とそれほど成績が変わらなかったはずです。そこまでしているのに成績が上がっていないわけですよね。職務に忠実に働けば、もっと数字が上がるのではないでしょうか」

 

ニャカ山T「なるほど、そう見えますか……。ポチ川さんがニャンザップに初めて来られたときのことを、私はよく覚えています。自己紹介のときに、まず会社名と部署名、役職をおっしゃっていましたよね

 

ポチ川「それはまぁ、いつもそうしているからです。相手がこちらの格を判断しやすいほうがよくないですか? それがわからないと、敬語で話せばいいのかタメ口でいいのかが決められないでしょう。もしかしてネコトレ的にはダメなんでしょうか?」

 

ニャカ山T「これからは人から仕事内容を聞かれたら、会社名や肩書きで説明するのをやめてみましょう。自分が実質的にどんな仕事をしているかで、自己紹介をしてみるのです。ポチ川さんの趣味は何ですか?」

 

ポチ川「うーんと……推し活ですが、それが何か?」

 

ニャカ山T「電化製品で、推しの商品はありますか?」

 

ポチ川「自社のでもいいですか? 僕はアレルギー体質なので、いろいろなモノを試しているのですが、わが社の空気清浄機は手放せません」

 

ニャカ山T「そうそう、その調子です! どういうところがいいんですか?」

 

ポチ川「えーっと、1時間くらいかかりますけど大丈夫ですか?」

 

ニャカ山T「あ……いや、そうですね、今日のトレーニングはこのくらいにしておきましょう! また、いつでもいらしてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.03
【会社名を名乗るのをやめてみる!】

・企業規模や伝統といった権威にぶら下がっていないか?
・形式的ロールにとらわれず、実質的ロールで動く
・会社名や肩書きではなく、自分の価値観を表す内容で自己紹介をする

Vol.00から読む
Vol.02「ネコとルール」 << Vol.03 >> Vol.04「ネコと安定」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO