大型の建物の設計をする際の工程のひとつとして、照明の設計があります。その際には、3Dの設計データに照明器具の設置場所を入力し、実際に灯りを照らした場合どう見えるのかをビジュアル化して検証することになりますが、実はこの作業、これまではかなり大変なものだったそうです。
その理由は2つあります。まずは、照明シミュレーションには膨大な計算が必要になるため、長い時間を要すること。そして、建築データを作成するソフトと照明シミュレーションを行うソフトが異なるため、シミュレーション結果を見てその配置を修正する場合、建築データにいちいち手入力を行う必要があることです。
その問題を解決するため開発されたのが「Lightning Flow」というソフト。これは照明器具メーカーであるパナソニック エレクトリックワーク社が2021年3月から配信しているフリーソフトで、2022年末のアップデートを経て更なる進化を遂げました。建築事務所をはじめ、多くの現場から支持されており、配信開始から1年半で約700社に導入されているといいます。
そのソフトの凄さは素人目にもわかるほど。この記事では、その凄みをお届けします。
Lightning Flowの3つの強み
建築設計の現場で用いられる3Dデータの方式に「BIM(Building Information Modeling)」があります。これは、建物の設計を3Dで行い、照明器具を含む設備などの情報もひとつのデータ上で一元管理するというものです。
Lightning FlowにそのBIMデータを入力すると、照明空間を3Dで再現してくれます。その強みは「速さと機能性の両立」「外部連携」「プレゼンテーション機能」の3点です。
・速さと機能性の両立
Lightning Flowが照明シミュレーション計算をするのにかかる時間は、一定条件下で測定した場合、従来の主要ソフトに比べて45分の1に短縮されています。しかもデータの入力はわずかワンクリックで完結するという簡便さです。しかも高い機能性を兼備しており、昼夜などの条件設定が可能であるほか、BIMデータに他社製の照明器具を配置している場合でも、シミュレーションが可能です。
・外部連携
Lightning Flowは、BIMデータを作成するのに使われる主要ソフト「Revit」と連携。RevitからBIMデータをLightning Flowへ出力できるのに加え、Lightning Flow側でシミュレーションを見ながら照明器具の配置を変更し、その修正データをRevitへ反映することができます。これにより、データ修正時の手間を大きく削減しています。
・「プレゼンテーション機能」
3Dで作成した空間内を歩く様子をアニメーション動画として出力できます。3Dデータを施主に見せることで、建築後の具体的なイメージを醸成することが可能です。
これらの機能は、従来の照明シミュレーションソフトでは手が届かなかった部分を補完しています。しかもそれをフリーソフトで頒布したことから、多くの現場からの支持を得るに至りました。
そんなLightning Flowは2022年冬に大規模アップデートを行い、Lightning Flow 2に進化。新バージョンでは、床や机上といった平面の明るさだけでなく、空間の明るさを数値化して表示する機能や、照明演出をシミュレーションする機能などが追加されています。
Lightning Flowで設計された空間を体感する
パナソニック汐留ビルにある同社社員向けのシェアスペース「PERCH LOUNGE」。2022年3月に竣工したこのスペースの設計時には、Lightning Flowによる照明シミュレーションが行われました。
PERCH LOUNGEの設計コンセプトは「止まり木」です。このビルには多くの営業担当者が勤務していることから、「人が立ち寄り、行き交い、営業のタッチポイントとなるような場」を目指して設計されました。
特にこだわっているのが、机上面と床面で異なる照度のメリハリ。その設計の段階で、狙った通りの照度が出ているかシミュレーションをするのに、Lightning Flowを活用したというわけです。
Lightning Flowによるシミュレーションと実空間を見比べてみると、その明るさ・雰囲気はかなり近似していることがわかります。パッと見ただけで、再現性の高さを実感できます。
筆者の感覚では、特に光の濃淡についての再現性がかなり高く感じられました。照明の専門家ではない人に対しても空間の様子を視覚で示すことができたので、ラウンジの設置に携わった同社社員からの反応も上々だったといいます。
目でみないとわからない照明を“簡単”に可視化する
Lightning Flowの最大の意義は、バーチャルな照明空間の可視化を、“簡単”に行えるようにした点にあるでしょう。照明がもたらす雰囲気は言葉などで説明してもなかなか伝わりにくいことから、ビジュアルで伝えるのが圧倒的に最善の手段です。しかし従来はそこに大きな手間がかかっていました。Lightning Flowはその手間を軽減する、現場にとっての救世主なのです。