「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!
ネコトレVol.09「ネコと1on1」
1on1なんて憂鬱で無駄な時間でしかない
吾輩はイヌである。
名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。
ここしばらく低迷が続く犬山電機の営業部。しかし、全社的には社長直轄プロジェクトが世間の話題になるなど、変化のきざしがなくはない。その一環なのかはわからないが、社内で新しい取り組みが導入された。
「1on1(ワン・オン・ワン)」というやつだ。配付マニュアルには、「1対1の面談で部下の心理的安全性を確保する」「問いかけが大事」うんぬん……なんて書いてあるが、オレの面談相手といったら上は頭のカタいハチ村課長、下はあの自由すぎる後輩・ミケ野である。一体どんなテンションで何を話したらいいのか、よくわからない。
ポチ川「それで、ハチ村課長が『今後のことは、何でも気軽に相談しろよ』って言うから、『部署を異動したい』って打ち明けたら、課長がいきなりブチ切れたんだよ」
ミケ野「なるほど〜」
ポチ川「気軽にって言うから思い切って話したのに、結局は今月の成績がどうのってお説教になっちゃってさ」
ミケ野「うわー」
ポチ川「というわけで、オレにはそういう苦い経験があるから、ミケ野に対しては話をちゃんと聞いてやれる先輩でありたいんだよ。わかるだろ?」
ミケ野「はぁ」
ポチ川「業務で困ってることがあればアドバイスするから、何でも言ってくれよ。なんかあるだろ?」
ミケ野「別に……」
ポチ川「じゃあ、今月の数字を上げるためにどうしたらいいと思ってる? ほら、せっかくの1on1なんだから、自分の考えを伝えてくれないと何も始まらないぞ?」
ミケ野「えーと、特にないっス」
ポチ川「もしかして、また何かひとりで勝手な仕事してるんじゃないだろうな? おまえってやつは報連相がなってないからな。社会人の基本中の……」
ミケ野「あ、すみません! やっぱり僕、相談したくなったときにこっちから声かけるんで、今は大丈夫っス!」
ポチ川「おい待て! ミケ野!」
ミケ野「ちょっとお客さんから連絡入っちゃったんで……行ってきます!」
ミケ野との3回目の面談は、そこで終わった。あれから2週間だが、ミケ野は一向に声をかけてこない。1on1は月に2回実施するルールになっているのに、このままじゃオレの査定に響くじゃないか。実際、さっきのハチ村課長との1on1でそれを相談したら「お前が甘いからじゃないのか? もっと考えてから相談しろ!」と叱られたところだ。毎回、お説教になるので正直ツラい。一体、1on1って何のためにあるんだろう? 帰りにニャンザップへ寄って、聞いてみるか……。
優しく問いかけながら指導するのが1on1?
ポチ川「こんばんは。ちょっといいですか?」
ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「あぁ、ポチ川さん。最近はよくいらっしゃいますね」
ポチ川「いやぁ、また会社で悩みの種が増えてしまいましてね」
ニャカ山T「といいますと?」
ポチ川「最近、1on1という個別面談が始まったんです。月2回やらなければいけないのに、後輩のミケ野が僕との1on1を避けていて、ちっとも面談に応じてくれないんです」
ニャカ山T「毎度おなじみの“組織のネコ”、ミケ野さんですね」
ポチ川「そもそも1on1って、部下や後輩の成長を促すためにやるものでしょう? 多忙な先輩がわざわざ時間をとって後輩の相談を聞こうっていうのに、いったい何が不満なんだか!」
ニャカ山T「ふむ。まだ一度もやっていないんですか?」
ポチ川「いえ、3回やったんですが、『次は自分から相談したくなったら声をかけます』と言ったきり、一向に音沙汰なしなんです」
ニャカ山T「3回目まではどんな話を?」
ポチ川「仕事で困りごとや悩みごとはないか、業績アップのために何をすべきか、主にそんなことを話しました。でもミケ野のやつ、『別に』とか、『特にないです』なんて適当なことばっかり言うんです。こちらがせっかく話を聞いてやろうとしているのに! だから毎回、組織人としての姿勢を指導してやりましたよ」
ニャカ山T「つまり、お説教をしたわけですか」
ポチ川「ま、そういうことですね」
ニャカ山T「その1on1のやり方は、研修かなにかで学んだのですか?」
ポチ川「マニュアルは配られましたけど、研修というかOJT(実践型トレーニング)ですね。上司のハチ村課長の1on1を受けているのですが、ずっと会社のグチを聞かされるか僕への説教なんですよ。あまりにも苦痛な時間なので、それを反面教師にして後輩には”理解ある先輩”として臨んでいるつもりです。マニュアルにあるように、ちゃんと優しく問いかけをして、心理的安全性をつくったり。大変ですよ」
ニャカ山T「なるほど……それでも適当な返事しかなかったので、説教したと」
ポチ川「そうです。そこは先輩として毅然とした指導をすべきでしょう! それが何か?」
ニャカ山T「ふむ。なかなか凝っているようですね。では、今回のネコトレのテーマは『ワン・オン・ニャン』にしましょうか」
「ワン・オン・ワン」と
「ワン・オン・ニャン」の違い
ポチ川「ワン・オン・ニャン?! なんですかそれ?」
ニャカ山T「組織のイヌタイプの上司が、組織のネコタイプの部下と1on1をしている状態のことです」
ポチ川「誰がうまいこと言えと(苦笑)……とすると、僕がミケ野とやるのはワン・オン・ニャンになるわけですか?」
ニャカ山T「そうですね」
ポチ川「ハチ村課長が僕とやるのは、ワン・オン・ワンということか……」
ニャカ山T「そうなりますね」
ポチ川「何が違うんでしょう?」
ニャカ山T「”組織のイヌ”は価値基準が会社優先なので、上下関係のあるワン・オン・ワンは組織人としての指導のようになってしまいがちです。それを、自分に忠実な”組織のネコ”にやってしまうと違和感を感じやすいでしょう」
ポチ川「まさに僕とミケ野のことではないですか……。ただ、僕はハチ村課長とは違ってちゃんと問いかけをしながら進めたのですが、それはワン・オン・ニャンにはならないのですか?」
ニャカ山T「問いかけをすればよい、というものではないのです」
ポチ川「そうなんですか?! どうすればよいんでしょう?!」
ニャカ山T「どうすればよい、というよりも、やってはいけない問いかけ方を考えたほうがわかりやすいかもしれません。たとえば、『何でも聞いてくれたらアドバイスするから質問していいよ。何かあるだろ?』とか、さんざん持論を語っておいて最後に『そう思うだろ?』とか、自分が正解を持っていることを『どう思う?』と聞いて違う答えが返ってきたら『それは違う』と言うとか」
ポチ川「(き、聞かれてた?)……なぜそれがダメなのでしょうか?」
ニャカ山T「クエスチョンマークをつけて問いっぽく見せているだけで、実際は相手のハナシを聞く気はなく、自分の主張を伝えたいだけだからです。そういうのを『問いの顔をした指導や非難』と呼びます」
ポチ川「……」
ニャカ山T「ネコがそういう個別面談を受けたら、まっしぐらに逃げていくでしょうね」
ポチ川「……ではどうすればよいのでしょうか?」
ニャカ山T「そろそろ今日のネコトレをやりましょう。今回のトレーニングは『ザッソウ』です」
“ザッソウ”で“相談”のハードルを下げる
ポチ川「ザッソウ……?」
ニャカ山T「ホウレンソウってありますよね」
ポチ川「報告・連絡・相談のことですか。ミケ野が全然できてないやつですよ! 社会人の基本なのに……」
ニャカ山T「ITツールが普及した今のご時世、情報共有ルールさえきちんと決めておけば、『オレは聞いてない!』ということは起こらずに済みます。その人が見ていないだけなので。だから、報告・連絡はそこまで重要ではなくなりつつあると考えられます」
ポチ川「その『オレは聞いてない』って、ハチ村課長がいっつも言うやつです!」
ニャカ山T「相談は未来のことを話すので、大事です。ただ、相談は意外とハードルが高いのが問題です。上司が『いつでも相談して』と言うから相談したら、『忙しいときに何だ』と怒られる、なんてことはありませんか?」
ポチ川「それは僕の日常です。だから相談しないほうがマシなんです」
ニャカ山T「そうならないためには、雑談が大事です。雑談の流れのなかで、『そう言えばあの件、こんなアイデアを思いついたんですけどどうでしょう?』のように相談しやすくなるからです。だから“雑談と相談”で、ザッソウ」
ポチ川「うーん、でも雑談ってニガテなんですよねぇ。何を話したらいいかわからなくて。仕事と関係ないプライベートのことを話さないといけないんでしょう?」
ニャカ山T「雑とはいろいろ入り混じっていることなので、なんでもいいんですよ。もちろん仕事のハナシでも」
ポチ川「そうだったのか。でも、雑談ばかりしていてまともな仕事になるのですか?」
ニャカ山T「雑談だけして仕事になるわけないじゃないですか」
ポチ川「えええ、どういうこと?!」
ニャカ山T「相談しやすくするための手段として雑談がある、ということです」
ポチ川「ああ、そっか。そうでした。でも、やっぱり相談って難しくないですか。以前、課長に相談したら、『考えが浅すぎる! もっと考えてから持ってこい』と言われたんです。で、次にかなり考えて資料をつくり込んでから相談したら、『そういうことじゃないんだよ。もっと早く相談してくれたらよかったのに!』と叱られました。一体どうすればよいのか……」
ニャカ山T「相談される側の立場で考えてみると、パッと見で『これはない』と思う内容だけれど時間をかけたことはわかる場合、『もっと早く相談してくれたらムダな時間を使わなくてもよかったのに』と思うはず。だから、“相談は早い段階でキャッチボールを一往復するのが大事”ということで、ザッソウには“雑な相談”という意味も込められているのです。“雑な相談”をしやすくするために、”雑談”が大事になります」
ポチ川「そういうことだったのか……。たしかに、推し活仲間からの相談を受けたときに、もっと早く相談してくれたらよかったのに、と思うことはよくありますね! 知識がないヤツが考えたところで、ズレてることが多いんですよ。今まで受けた相談で、そう思ったものを挙げてみましょうか。えーと、30個くらいは思い当たりますがね」
ニャカ山T「あ、そろそろ私は次の予定がありまして……。またの機会に聞かせてくださいね」
今日のネコトレ
Vol.09
【1on1はまず“ザッソウ”から始めよう!】・「ワン・オン・ワン」はネコにはツラい
・相談しやすい状況をつくるための雑談が大事
・「ザッソウいいですか?」を共通言語にするVol.00から読む
Vol.08「ネコとスケジュール」<< Vol.09 >> Vol.10「ネコと研修」
仲山進也
仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。
『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。
取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO