「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!
ネコトレVol.14「ネコと多様性」
組織における“多様性”の現実に悶々……
吾輩はイヌである。
名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。
2030年までに女性管理職比率50%を目指している、わが犬山電機。しばらく前に、外部から女性の部長も入社したらしい。先日はなんと同期の女性社員、タマ川ミャア子が課長に昇格。オレはまだ副主任だというのに……。
そんなある日。そのタマ川課長がリーダーを務める部署の会議に、「営業部からの意見を聞きたい」とのことでオレとミケ野が招集された。営業部とは違い、活発な意見交換が行われている様子に少々驚きながらも、終了予定時刻が近づいても終わる気配がない。
ポチ川「なあ、この会議っていつもこんな感じなのかな?」
ミケ野「僕、前も来たことありますけど、こんな感じでしたよ」
ポチ川「みんな話が長いよな〜。このままじゃ結論もまとまらないし、会議なんだからわきまえて発言するべきだと思うんだよな。女性が多いからじゃないのか?」
ミケ野「……そうっスかね?」
ポチ川「“女性活躍推進”とか聞くけどさ、こんな会議が増えるようじゃ非効率だろ」
ミケ野「でも、タマ川さんがリーダーになってからこの部署の業績、めっちゃよくなってるみたいですよ」
ポチ川「……そ、そうなの?」
とはいっても、女性管理職を増やすなんて、ただの”数合わせ”なんじゃないの? 多様性って本当に意味あるのか? ……いや、ひょっとすると、ますます自分の出世は危ういのか!? 不安になったポチ川は、今夜もニャンザップに向かっていた。
女性ばかり出世するなんて不公平だ!
ポチ川「こんばんは。多様性だかなんだか知りませんが、僕はもう出世できないんでしょうか?!」
ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「ポチ川さん、こんばんは。いったい何があったのですか?」
ポチ川「うちの会社は、2030年までに女性管理職比率50%を目指すとかで、最近、新しい女性の部長が転職してきたり、同期の女性が課長に昇進したりしているんです。僕なんてずっと会社に尽くしてきても副主任なのに、女性ばかり出世するなんて不公平ではないでしょうか?! 多様性なんていいことないですよ!」
ニャカ山T「といいますと?」
ポチ川「そもそも会社って、空気を読みつつ一致団結して、“あうんの呼吸”で動くべきものじゃないですか! それなのに、ネコも杓子も多様性、多様性って、そんなひっかき回されたら、会社なんかまとまるはずがありませんよ! 実際、同期で課長になった女性が主催する会議に行ってみたら、とにかくみんなおしゃべりが長くて非効率そうでしたからね」
ニャカ山T「それは雑談ばかりしているということですか?」
ポチ川「いやまあ、仕事のハナシでしたけど。ああしたほうがいいんじゃないか、こうしたほうがいいんじゃないかって、延々と終わらないんですよ。本来、リーダーがビシッと指示を下しさえすれば、そんなおしゃべりは不要でしょう。きっと、リーダーの力量がないのに昇進してしまって、答えがわからないんでしょうね。フッ、かわいそうに」
ニャカ山T「そうすると、そのリーダーのチームは成績不振なのですね?」
ポチ川「え、いや、聞くところでは成績は上がっているとか……。でも、強い組織というのはリーダーが的確な指示・命令によって部下を引っ張っていくべきですから、たまたま結果が出ているだけなんでしょうね、うん」
ニャカ山T「なるほど。今日のポチ川さんは、いつも以上にガッチガチに凝っているようですね。では今回は、『多様性』の意味について考えてみましょうか」
多様な価値観が存在する中で
どうやって意見を合わせるか
ポチ川「多様性の意味ですか? そりゃ、みんなバラバラっていうことでしょう。それでそれぞれが好き勝手に主張していたら、仕事がしにくくて困りますよね!」
ニャカ山T「“多様”の対義語って、なんでしょうね?」
ポチ川「一様とか、単一とかでしょうか?」
ニャカ山T「イヌって、単一ですか?」
ポチ川「は? イヌを舐めてもらっちゃ困りますよ。チワワみたいな小型犬からゴールデンレトリバーみたいな大型犬もいれば、ダックスフント、ブルドッグ、プードルに柴犬、あとタロからジロまでとにかくバラエティ豊富なのがイヌでしょう。単一のわけがありませんよ!」
ニャカ山T「たしかにネコよりイヌのほうが多様ですよね。小型ネコと大型ネコといっても体格の差は何倍もありませんし。なぜイヌはそんなにいろいろなタイプがいるんでしょう?」
ポチ川「もともと人間の狩猟のお供だったから、獲物の種類によって大型である必要があったり、ダックスフントみたいにアナグマの巣穴に入りやすい体型だったり、あとは雄牛(ブル)と闘うために噛みついても息ができる顔のカタチだったりに進化したからですよ。イヌはいろんな仕事ができるんです!(ドヤ)」
ニャカ山T「つまり、多様性に意味があるということですね」
ポチ川「はっ!(ハメられた気がする……)」
ニャカ山T「ポチ川さんが多様性を避けたがっているのは、“相手が自分の思い通りにならないから”ではないですか?」
ポチ川「むぐぐ……思い通りにならないっていうよりも、一致団結が損なわれては本末転倒だと思うのですが」
ニャカ山T「もしかしてポチ川さんは、意見が合わない相手は敵だと思っていませんか?」
ポチ川「えっ? 意見が違えば味方ではないですよね。価値観が合わないのですから」
ニャカ山T「意見が合わないとき、ポチ川さんは、自分が正しくて相手が間違っていると思っていますか?」
ポチ川「そんなの当たり前ですよね?」
ニャカ山T「人間は、“判断するブラックボックス”みたいなものだとイメージしてみてください。入力された情報が、ブラックボックス内部の価値基準で計算されて、その結果として『これはいい』『これはよくない』『やろう』『やめよう』などの判断が出力されるわけです。これを【判断=価値基準×入力情報】と表現します。判断の公式ですね」
ポチ川「なんか急に四字熟語満載の公式が出てきましたけど、僕が売店でプリンを見つけたら『買おう』と判断する、みたいなことで合ってますか?」
ニャカ山T「バッチリです。まさに、ポチ川さんというブラックボックスにプリンを入力したら『買おう』という判断が出力されたわけです。さきほど、ポチ川さんは意見が違う人のことを『価値観が合わない』と言いましたよね? でも【価値基準×入力情報】と2つに分解して考えると、意見つまり判断が違う場合には3つのパターンがあることになります。
(1) 入力情報はそろっているが、価値基準が違う
(2) 価値基準はそろっているが、入力情報が違う
(3) どちらも違う
だとすると、意見が合わないからといって価値基準が違うとは限らないわけです。(2)のパターンで、見えているもの(入力情報)が違うだけかもしれません」
ポチ川「そう言われると、たしかに……。でも、自分が正しくて相手が間違っているのは変わりませんよね!?」
ニャカ山T「ポチ川さんも相手も、自分が見えている入力情報を自分の価値基準で正しく計算し、判断しているとしたら、どちらも正しいと言えませんか」
ポチ川「はぁ」
ニャカ山T「『間違い』というのは、どちらも正しいけれど、“お互いの正しさの間(ま)が違っている”だけなのです」
ポチ川「でも、お互いが正しかったら話がまとまらないのでは? それが多様性を大事にすることなんだからガマンしろというわけですか?」
ニャカ山T「裁判をイメージしてみてほしいのですが、裁判には原告と被告がいますよね。どちらも自分が正しいと思っているから、裁判になっているわけです。裁判では、まず自分が見えている入力情報を“証拠”として提出し合います。入力情報をそろえた上で、どの価値基準を使うかを裁判官が決めて、判断(判決)するというプロセスです。
なので、この『入力情報をそろえてから、どの価値基準を優先するかをすり合わせる』というプロセスで対話できるようになると、多様性が単なるバラバラで終わらず、それぞれの強みを活かし合うアイデアにつながる可能性が広がるのです」
ポチ川「うーん、わかる気もするけど、それって実際には難しいのでは?」
ニャカ山T「多様性は、意見のすり合わせとセットでなければ価値がないというところだけ知っておいていただければ、今日のところは大丈夫です。まずスタートラインとして理解しておきたいのは、この世の中に”同じ人なんていない”ということ。というわけで、ネコトレをやってみましょう。今回のトレーニングは『異名をつけてみる』です」
みんな違って、みんないい!
みんなに“異名”をつけてみよう
ポチ川「異名、ですか?」
ニャカ山T「そうです。ハチ村課長やホエザキ係長、後輩のミケ野さん、今日の会議でご一緒した同期の女性など、 身近な人にこっそり異名をつけてみましょう。その人の得意なことや優れたところがわかる異名をつけるのがポイントです。そうすれば、いろんな強みを持った人がいるんだな、という多様性のメリットを受け取りやすくなるはずです」
ポチ川「うーん、あんまり思いつかないなぁ」
ニャカ山T「アイドルもよく異名がつきますよね。最近だと『カリスマ総長』なんて呼ばれている子がいたような……」
ポチ川「そ、そ、それは!! “わが推し”が所属しているアイドルグループのリーダーですよ! “わが推し”のアイドルグループは、同じタイプの人は一人もいなくて、みんなそれぞれいいところがあります。みんな違って、みんないい! まさにそんな感じなんです。ほら見てくださいよ(スマホでアイドルの写真を見せる)」
ニャカ山T「私には、みなさんが同じ顔に見えます……」
ポチ川「なんですと!! まず“わが推し”のトレードマークは、この笑顔なんです! 『同じ時代に生まれてよかった! 200万年に一度の笑顔天使』と言われているんですよ!」
ニャカ山T「ずいぶんと長い異名ですね」
ポチ川「あと“わが推し”の後ろにいる子は、とにかく頑張り屋さんなんです。『下町のど根性ムスメ』と呼ばれていて、老若男女に愛されていますから! ちなみに一番左の子は……」
ニャカ山T「わかりました、わかりました。今夜はもう遅いので今度ゆっくり聞かせてください。職場の人の異名をつけることが難しいと感じたら、まずは自分に異名をつけてみることから始めてみるのもおすすめですよ」
ポチ川「なるほど、僕の異名か……『推しごと王子』なんてところでしょうかね。『推しごとプリンス』のほうがいいかな。いや、『推しごとファンタジスタ』か。どれがいいと思いますか?!」
ニャカ山T「ど、どれもいいから迷いますね……。今日はこのへんにしておきましょう」
今日のネコトレ
Vol.14
【異名をつけてみる】・「多様性」と「一致団結」は矛盾しないと知る
・間違いとは、お互いの正しさの間が違うだけ
・「判断=価値基準×入力情報」を使いこなせるようになるVol.00から読む
Vol.13「ネコと心理的安全性」<< Vol.14 >> Vol.15「ネコとコミュニティ」
仲山進也
仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。
『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。
取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO