ビジネス
2023/12/11 19:00

「心理的安全性」の本当の意味とは?『組織のネコという働き方』著者が解説する自分が正しいと思い込む人の傾向と対策

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.13「ネコと心理的安全性」

 

なぜ会議で本題と関係ないことをするの!?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

「週3日ノー残業なんてムリなんですけどっ!」

 

犬山電機で始まったワークライフバランスの取り組み「週3ノー残」。推進委員に任命されたポチ川のワークライフバランスは整うばかりか、サービス残業も増え、モヤモヤがつのる日々……。

 

そんなワークライフバランス推進委員会のメンバー集会が初召集された。同じ営業部門から選出されたハチ村課長、先日「同担(同じ人を推すこと)」であることが判明した吠崎係長、同期で社長直轄プロジェクトに抜擢されたタマ田など、おなじみの顔ぶれも並ぶ。

 

「今日はみなさんお集まりいただきありがとうございます! 初の顔合わせですので、まずやっていただきたいことがあります」

 

と、切り出したのはタマ田だ。まず自己紹介として “自分が偏愛するもの” を書いて壁に貼り出してほしいという。「貼り終わったらこちらにお集まりください! 続いて、机の組み立てをしてもらいます」。

 

「なんで机の組み立てなの……?!」

 

ポチ川は困惑しながら、指定された2人一組で作業を開始した。パートナーは話したことのない社員だったが、壁に貼られた自己紹介を見たら自然と会話が盛り上がり、大きくて重い机を協力しながらなんとか組み立て終えた。ただ途中、ちょっと腰を痛めてしまったようだ……。

 

「みなさん、おつかれさまでした! 無事に机が完成しましたね。このあと、参加できる人は飲みにいきましょう!」とタマ田。

 

「いやいや、自己紹介と机の組み立てで会議が終わり、ってどういうこと?! ただでさえ忙しいのに、本題にも入らず飲みに行くなんて!」

 

うれしそうに飲み会へ向かうハチ村課長や吠崎係長を横目に見つつ、モヤモヤがつのるポチ川が向かったのは、いつものニャンザップだった。

 

心理的安全性とは、波風を立てないこと?

ポチ川「あイタタタタタ……」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「ポチ川さん、今日はなにやら動きがぎこちないですね」

 

ポチ川「さきほど重たいものを持ち上げる肉体労働をしまして、どうやら腰を痛めたみたいで……」

 

ニャカ山T「肉体労働ですか?」

 

ポチ川「今日、例のワークライフバランス委員会の初集会があったんです。そこで何をするかと思ったら、自己紹介をして、指定された2人組みになって机を組み立てて、それだけで終わったんですよ! しかも、そのあと任意参加で飲みに行っちゃいましたよ。あり得なくないですか!? 本題に入るべきでしょう!」

 

ニャカ山T「なるほど。その指定された2人組は、知らない人同士でしたか?」

 

ポチ川「そうです。僕の相手は、顔は社内で見かけたことはあるけど話したことはない社員でした。ほかの組もみんなそんな感じかなと」

 

ニャカ山T「ああ、やはりそうでしたか」

 

ポチ川「やはりって、どういうことですか?」

 

ニャカ山T「ポチ川さん、“心理的安全性”ってご存知ですか?」

 

ポチ川「もちろんです! アレですよね、チームワークに大事なやつ。でも、うちの課長なんて全然わかってないんですよ」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「この前も『こんな仕事のレベルでいいと思ってるのか!』と言われたばっかりで。そんなキビしいことを言われたら心理的安全性がなくなりますよね〜」

 

ニャカ山T「ほう。そんなにキビしい基準を求められたのですか?」

 

ポチ川「まあ、以前はやっていたレベルなんですけど、みんなこれだけ忙しくなっているんだから無理ですよ〜。そこまで言うなら、自分でやるべきでしょう」

 

ニャカ山T「ほうほう。以前はやっていたレベルですか」

 

ポチ川「でも、チームには心理的安全性が大事なんだから、波風立てずにやるべきですよね」

 

ニャカ山T「波風立てずに、ですか。ポチ川さん、今日もかなり凝っていますね。では今回のテーマは『心理的安全性のつくり方』にしましょうか」

 

「心理的柔軟性」と「心理的ガッチガチ」

ポチ川「え? 僕が凝っている? 凝っているのはハチ村課長のほうですよね?」

 

ニャカ山T「いえ、ポチ川さんが、です」

 

ポチ川「いやいやいや、職場の心理的安全性を損なっているのは、明らかに課長でしょう! 僕が直すべきところなんてないですよ?」

 

ニャカ山T波風立てずに仲良くやろうよ、というのは心理的安全性ではありません。ただの『仲良しグループ』や『ぬるい職場』です」

 

ポチ川「えっ、そうなの?! 違いがよくわからないのですが……」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、“心理的柔軟性”ってご存知ですか?」

 

ポチ川「心理的安全性じゃなくて、心理的柔軟性? 初耳ですけど……」

 

ニャカ山T心理的柔軟性がない人は、『自分が正しくて、相手が間違っている』と思っている人が多いんです。ほかにもこういったパターンがあります。

 

心理的柔軟性がない人

・自分が正しくて、相手が間違っていると思っている
・相手の視点・視野・視座がわからないし、わかろうとも思っていない
・状況が変化しても、習慣を変えられない
・過去の成功体験を「不変・普遍の正解」だと思っている
・「◯◯しなければならないから」「◯◯すべき」という表現をよく使う
・「でも」から話し始める
・「最近の若いヤツは……」と言う
・積み上げてきたもの(既得権益)を大切にする
・知識はあるけど経験はないことを語る

 

ちなみに私は、こういう人を“心理的ガッチガチ”と呼んでいます」

 

ポチ川「(あれ、ちょっと心当たりがあるような……)で、でも! 心理的柔軟性は心理的安全性にどう関係あるんですか?」

 

ニャカ山T自分が何かを言ってもメンバーはみんな心理的柔軟性をもって受け取ってくれると『お互いが思い合えている』状態が、心理的安全性があるということです」

 

ポチ川「お互いが思い合えている……ということは、誰か一人でも心理的ガッチガチな人がいたら?」

 

ニャカ山T「心理的安全性はなくなりますね」

 

ポチ川「ええっ!? じゃあ、僕が凝っているというのは……」

 

ニャカ山T「『課長が◯◯すべきだ』と言い張っているポチ川さんに心理的柔軟性はありませんので、ポチ川さんがガッチガチな人として職場の心理的安全性を損なっていることになりますね」

 

ポチ川「そ、そういうことなの?! で、で、でも、課長もガッチガチですよ!」

 

ニャカ山T「お互いガッチガチ、というケースはよくありますね」

 

ポチ川「ああ、うちは完全にそのパターンだ……」

 

ニャカ山T「今日の初顔合わせで、タマ田さんが自己紹介と机づくりをやったのは、お互いの心理的柔軟性を高めたり、確認し合いやすくするためでしょうね。ポチ川さんは、お相手の方に対してどういう印象をもちましたか?」

 

ポチ川「そう言われれば……お互いに趣味が推し活とわかって一気に打ち解けました。机づくりも協力しあいながらできたので、思った以上に楽しい時間でした。……そうか、そういうことだったのか! じゃあ、ガッチガチの僕はどうすべきなんでしょうか……」

 

ニャカ山T「では、今回のネコトレは【『べき』と言うのをやめる】にしましょう」

 

つい口にしてしまう『べき』をこらえる

ポチ川「なんだか簡単そうですね」

 

ニャカ山T「実は数えていたのですが、ポチ川さんはさきほどからすでに5回も『べき』と言っています」

 

ポチ川「そ、そんなに!?」

 

ニャカ山T「無意識に『べき』が出てしまう人のことを“ベキベキ星人”と呼びます。まずは『べき』と言ってしまっている自分に気がつけるようになることが大事です」

 

ポチ川「ベキベキ“星人”って……ネーミングセンスはショボいけど、インパクトはありますね……」

 

ニャカ山T「ちなみに、『でも』ばかり言う人は“デモデモ星人”です。心理的に柔軟な状態になると、『べき』や『でも』というガチガチ言葉に違和感が出るようになりますよ

 

ポチ川「ハイ、『べき』って言わないべきなんですね。わかりました!」

 

ニャカ山T「ポチ川さん、6回目……。まあ今日はこの辺にしておきましょう。またいつでもお越しくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.13
【『べき』と言うのをやめる】

・「心理的ガッチガチな自分」に気づけるようになろう
・共通の話題を見つけたり、利害が対立しない共同作業で小さな成功体験をつくろう
・心理的柔軟性が心理的安全性を生み、肩書きや役割を超えて試行錯誤できるようになる

Vol.00から読む
Vol.12「ネコとワークライフバランス」<< Vol.13 >> Vol.14「ネコとダイバーシティ」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO