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2024/8/1 21:20

副業は害?何をしたらいい?『組織のネコという働き方』著者に学ぶ、組織人が副業を苦行から“福業”に変える方法

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.16「ネコと副業」

副業で稼ぐどころか
ヘトヘトで本業に悪影響?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

「週3日ノー残業デー」「2030年までに女性管理職比率50%」と新たな取り組みが続く犬山電機。そこへ新たなお題が追加された。「半年以内に全員が副業を経験する」というものだ。「本業だけで忙しいのに何のために?!」「何をしたらいいの?」など、にわかにザワつく社内。そして3か月も経つと、社内の様相が変わってきた。

 

夜中の警備バイトでげっそりしたハチ村課長をはじめ、深夜のコンビニ店員などをしている社員などは、会議中に居眠りしている姿が目につくように……。一方で、ミケ野のようにいつもどおり飄々とふるまっている社員もいて、二極化し始めたのだった。

 

とある休日。副業のデリバリーバイト“WanWanEats”を終えたポチ川は、久しぶりに“推し”のライブへ向かった。

 

ところが、あろうことかライブ会場で寝落ちしてしまい、楽しみにしていた新曲初披露を聞き逃すという大失態。不甲斐なさにうつむいて歩く帰り道、気持ちよさそうに汗をぬぐいながら近づいてきたのは、同担(※推しが同じ人)の吠崎係長である。

 

吠崎係長「おや、ポチ川さん。最高のライブだったのにテンションが低いですね。どうかしましたか?」

ポチ川「……ライブ前に出前バイトだったのですが、疲れのせいか寝落ちしちゃって……新曲を聞き逃してしまったんです。あああ……」

吠崎係長「それは心中お察しします」

ポチ川「これもすべて会社が“全員副業”なんて言い出したせいですよ……。でも、吠崎係長は元気ハツラツな感じですね。副業はどうされてるんですか?」

吠崎係長「もちろんやっていますよ。知人の紹介で、スタートアップ企業のお手伝いをしています。総務まわりのアドバイスがほしいと頼まれましてねえ。もともとボランティアで関わっていたのですが、会社で“全員副業”になったのを機に、有償に切り替えてもらいました」

ポチ川「時間とか体力的に、本業に影響ありません?」

吠崎係長「ないですよ。オンラインで月に3〜4時間、おしゃべりするくらいのものですから」

ポチ川「そんな副業があるなんて、うらやましすぎるんですけど……」

 

迎えた週明け。眠気と戦いながら仕事を終えたポチ川は、またニャンザップに向かうのだった。

↑ポチ川は今日も、ニャンザップに駆け込んだ

 

サラリーマンは「副業」すべきではない!

ポチ川「こんばんは……ふぁ〜(あくび)」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「こんばんは。ポチ川さん、ずいぶん眠そうですね。どうされましたか?」

 

(推しのライブで寝落ちして新曲を聞き逃したコトの経緯を話したあと、ポチ川は疑問をぶつけた)

 

ポチ川「全員副業しろなんて、完全に会社の失策ですよ! 本業に支障が出ている社員がワンさかいるんですから。そもそもサラリーマンは副業なんてすべきじゃないんですよ!」

 

ニャカ山T「ほうほう」

 

ポチ川「ただでさえ本業で忙しいのに、副業でさらに仕事が増えたら、どう考えても過重労働でしょう! 実際にみんなヘトヘトで、会議中に居眠りしている社員が増えているんです!」

 

ニャカ山T「元気に副業してる方もいらっしゃいますよね? 吠崎さんとか」

 

ポチ川「えっ?! なぜそれを?!」

 

ニャカ山T「副業をテーマにしたネット記事で犬山電機さんが紹介されていて、吠崎さんがインタビューを受けていたのを見かけましたよ。ほら、この記事です(スマホを見せる)」

 

ポチ川「本当だ……。ライブのときに聞いた話が載っている……」

 

ニャカ山T「スタートアップ企業は会社の仕組みが整備できていないので、中堅企業の総務を知り尽くした吠崎さんのアドバイスは非常に役立っている、と経営者の方が喜んでいましたね。……そうそう、ミケ野さんも載っていますよ」

 

ポチ川「えっ、ミケ野も?! 本当だ。アイツ、いつの間に?」

 

ニャカ山T「例の量販店コミュニティが話題になったことで、コミュニティをテーマにした講演依頼がいくつも舞い込むようになったと書いてありましたね」

 

ポチ川「その講演料が副業収入になっているのか。知らなかった……。楽して副業できているなんてズルイ!」

 

ニャカ山T「ポチ川さんもマネすればよいのでは?」

 

ポチ川「そんなこと言われても、自分にはスタートアップ企業に売り込める専門性もないし、コミュニティもうまく立ち上げられないし……。僕は、いったいどんな副業をしたら、楽して稼げるのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「……。これまたなかなかの凝り具合いですね。では今回のネコトレのテーマは、『“ふくぎょう”を考える』にしましょうか」

 

“副業”と“複業”の違いとは?

ニャカ山T「ポチ川さんは副業で“WanWanEats”のデリバリーをしているとのことでしたが、それを決めるときどんなふうに考えたか、思考プロセスを教えてもらってよいですか?」

 

ポチ川「えーと、まず副業しなければいけないと言われたので、アルバイト募集サイトを見て、会社の就業時間外で働けるところを探しましたよね。候補の中から、夜中の警備とかコンビニみたいな自分には無理だと思うものを避けていって、残ったのがデリバリーでした。自転車を漕ぐだけだったらバスケ部出身なのでいけるかなと思って。まあ、やってみたらキツすぎてヘトヘトになっているのですが……」

 

ニャカ山T「なるほど。ポチ川さんは、“副業”と“複業”の違いは考えたことありますか?」

 

ポチ川「ふくぎょうとふくぎょう?」

 

ニャカ山T「副主任の副のほうと、複雑の複のほうですね」

 

ポチ川「副業と複業か。どう違うんでしょう?」

 

ニャカ山T以前、働き方には『足し算のステージ』と『引き算のステージ』があるとお伝えしたのは覚えていますか?」

 

ポチ川「もちろんです!……なんでしたっけ?」

 

ニャカ山T「働き方の第1ステージは足し算。できることを増やしていく。苦手なこともより好みせず、できるようになるまでやることが大事。次の第2ステージが引き算。好みでない作業を減らし、強みに集中するステージです」

 

ポチ川「ああ、そうでしたそうでした」

 

ニャカ山T「その先にある第3ステージが、掛け算です。自分の強みと他者の強みを掛け合わせて価値を生み出す働き方ができるようになります」

ポチ川「なるほど、掛け算。……それと”ふくぎょう”にどういう関係が?」

 

ニャカ山T本業と関係ないことをやる”副業”は、足し算。自分の強みを活かして本業を含めた複数の仕事に関わる”複業”は、掛け算です

 

ポチ川「え、じゃあ、僕がやっている”WanWanEats”のデリバリーバイトは……足し算の副業ということですか?」

 

ニャカ山T「犬山電機で培った強みは活かされていますか?」

 

ポチ川「い、いえ、まったく。じゃあ足し算ってことですね……。では、吠崎係長とかミケ野がやっているのは……掛け算?!」

 

ニャカ山T「記事で拝見する限り、本業で培った強みを活かす形でやっているので、掛け算ですね」

 

ポチ川「掛け算の複業をやるには、どうしたらよいのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「そもそも働き方のステージが”足し算”の人は、強みが確立していないので複業はできません。社外で本業と関係ない何かを副業としてやろうとするよりも、本業でいろいろな業務を経験していく量稽古のほうが効果的です。副業しても、ただいろんなことを無関係にやらされているだけで、疲弊してしまいがちなので」

 

ポチ川「僕も含めて、会社にいっぱいいる人のことなんですけど……。僕が”副業は害”だと思っている状態がまさにそれです。ちなみに掛け算の複業だと、害じゃないというか、メリットがあったりするんですか?」

 

ニャカ山T「では、それを味わえるように今日のネコトレをやってみましょうか。今回のトレーニングは『無報酬で、自分の強みを活かしたことをする』です」

 

お金より“強みを活かすこと”を目的にすべし

ポチ川「無報酬って、ボランティアのことですか?」

 

ニャカ山T「まあ、そうですね。強みを活かして喜ばれる活動です」

 

ポチ川「喜んでもらえるボランティアなら、近所のゴミ拾いとかですかね?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんがゴミ拾いのプロだったらそれでも良いでしょう。実は本業で培った何らかの強みを持っているにもかかわらず、お金をもらうとなると時間労働のイメージが浮かんでしまう人は”足し算の副業”を選びがちです。そうならないようにするために、まずは無報酬で、”自分の強みを活かして”誰かに喜んでもらえる活動を探すことがポイントです」

 

ポチ川「うーん、何をしたらよいのか全然イメージが浮かばないのですが……」

 

ニャカ山T「もしポチ川さんが推しの事務所でボランティアをするとしたら、”今のままではもったいない。営業面でこうしたほうがいいのに!”と思っていることはありませんか?」

 

ポチ川「そんなのいくらでもありますよ! 最近、少しずつファンが増えてきたとはいえ、グローバル展開にはあと一歩でもったいないんですよね! そこを僕の営業力で一気に世界で活躍できるアイドルに押し上げたいと、常々思ってはいます。それができるのであれば、お金なんてもちろん必要ありませんよ。推したちの笑顔が僕の報酬ですから! それこそ、僕に与えられた“福業”ですね。幸福な業と書く福業ですよ」

 

ニャカ山T「壮大な構想を持っているんですね。ちなみに、事務所でボランティアをするツテはあるんですか?」

 

ポチ川「まったくありません。でも声さえかかればいつでも動けるようにイメージはしていますよ! まずグローバル展開に向けて必要なのはですね、17個のポイントがありまして……」

 

ニャカ山T「あ、今夜はもう遅いので、また次回聞かせてください」

 

今日のネコトレ

Vol.16
【強みを活かせるボランティア活動をしてみる】

・時間労働だけが“ふくぎょう”じゃない
・「足し算の副業」は、作業量が増えるだけ
・「強みを掛け算した複業」をしよう

Vol.00から読む
Vol.15「ネコとコミュニティ」<< Vol.16 >> Vol.17「ネコと越境」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO