ビジネス
2023/7/10 19:00

“楽しい仕事”をやりたい!?『組織のネコという働き方』著者が説く「やりたいこと」を見つける方法

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.11「ネコとやりたい仕事」

 

“楽しい仕事” をやりたい?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

犬山電機がいま話題の新進家電メーカー、ミャルミューダ電機とコラボしたキャンプ用品ブランドのPRイベントが、大盛況のうちに終わったという。活気づく社内をよそに、あふれ出す悔恨の念……。イベントスタッフの社内公募をよく見なかったオレは、ゲスト参加した “わが推し” に会うチャンスを逃したのだった……。

 

ランチで社食に行く気がしなかったので外へ出ようとエレベーターを降りたところで、吠崎係長と遭遇した。例の社内公募でイベントに参加したという、庶務課の万年係長だ。いつもつまらなそうな顔で仕事していたはずなのに、なんと向こうから微笑みながら声をかけてきた。

 

吠崎係長「おや、ポチ川さん。これからお昼ですかな?」

ポチ川「そ、そうですけど……。あれっ、その缶バッチは!!!」

吠崎係長「ホッホッホッ。この前のPRイベントでもらいましてね。実は、私の推しなんですよ」

ポチ川「なんと “同担” (※)でしたか!」※同じ推しを担当すること。

吠崎係長「おや、そうでしたか。よかったら一緒にお昼でもどうですか?」

ポチ川「ぜひとも」

 

吠崎係長と話すのなんて初めてのことだったが、推しの話で盛り上がり、すっかり打ち解けたのだった。

 

推しの話がひと段落すると、仕事の話になった。 聞けば、吠崎係長はPRイベントで運営マニュアルづくりをはじめ、当日の運営でも事務局として大活躍。それが評価されたことで、なんと今回のイベントだけではなく、プロジェクトメンバーとして兼務発令が出ることになったという。

 

ポチ川「そんな楽しい仕事に就けるなんて、うらやましすぎます。僕なんかつまらない仕事ばっかりなのに……」

吠崎係長「楽しい仕事といえば、実はあのイベントのあと、庶務課の仕事のほうも面白く感じられるようになったんですよ」

ポチ川「えっ?! どういうことですか?」

吠崎係長「今回、かつてのイベント運営経験がみなさんから喜ばれたことで、仕事の面白さを思い出すことができたんです。入社した40年ほど前の、夢中で働けば働くほど会社が伸びていったときのことを思い出しましてね。……おや、もういい時間ですね。戻りましょうか」

 

席に戻ったあとも吠崎係長の言ったことが気になって、午後はずっとモヤモヤが続いた。あんなにつまらなそうに働いていた人が、庶務課の仕事も楽しくなったって、一体どういうことなんだろうか? そして気づけば、今日も僕は、ニャンザップにたどり着いていた。

↑気づけば、ポチ川は今日も、ニャンザップにたどり着いていた。

 

「楽しい仕事をやりたい!」の落とし穴

ポチ川「こんばんは……」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「ポチ川さん、今日はなにやら考え込んでいるようですね」

 

ポチ川「僕も楽しい仕事をやりたいんですが、どうすればよいでしょうか?」

 

ニャカ山T「楽しい仕事?」

 

ポチ川「みんな、楽しい仕事をやっていてズルいと思うんです。僕なんかつまらない仕事ばっかりなのに!」

 

ニャカ山T「ほう。ポチ川さんにとって、“楽しい仕事” とはどういうものですか?」

 

ポチ川「そうですね、パーッと華やかでまわりからチヤホヤされて、会社からも評価されて地位も名誉もお金も手に入る仕事ですかね。たとえば、イベントプロデューサーみたいな? あと、IT企業の社長とかもよさそうですよね〜」

 

ニャカ山T「……。それは本当にポチ川さんのやりたい仕事なのですか?」

 

ポチ川「やりたいですよ。最高に楽しそうじゃないですか!」

 

ニャカ山T「その “やりたい理由” とは、すべて他人の基準なのでは?」

 

ポチ川「え?」

 

ニャカ山T「”社長になりたい”とか”プロ選手になりたい”という人には2種類あります。一つは “なりたい人”。もう一つは “やりたい人” です」

 

ポチ川「なりたい人と、やりたい人? どう違うんですか?」

 

ニャカ山T“なりたい人” は、そのポジションに就けたら満足です。ゴール到達。そのポジションに就いてもやりたいことは特にないので、“仕事してる風” を演出するようになります。待遇が下がるようなことには猛烈に抵抗するなど、既得権益を守ろうとするタイプです。

一方の “やりたい人” は、やりたいことの実現に必要だからこそ、そのポジションに就きます。ですから、ポジションに就いたら猛烈に仕事をする。ポジションは手段に過ぎないので、やりたいことができていれば待遇を下げられても飄々としていられるタイプです」

 

ポチ川「なるほど……自分がどっちかは、実際なってみないとわからないですが」

 

ニャカ山T「“やりたいこと” を尋ねられたときに、“やったことのないこと” を答える人は “なりたい人” の傾向があります。一方、“言われなくてもやってしまっていること” を答える人は、ほぼ確実に “やりたい人” です。“やりたい” の基準が自分にあって、たとえ誰からも評価されなくてもやりたいからやってしまう

 

ポチ川「むむむ……。しかし、社長になりたいとか部長になりたいというのは、組織人として自然なことなのでは? それがダメなんでしょうか?!」

 

ニャカ山T「それがダメなのではありません。問題は、“楽しい仕事をやりたい” という考え方のほうです」

 

ポチ川「どういう意味ですか? あ、わかりましたよ。よく本なんかを読むと書いてある、『楽しい仕事というのがあるわけではない。目の前の仕事を本気でやれば、楽しくなる』みたいなハナシですか!?」

 

ニャカ山T「いえ。その考え方はそのとおりだと思いますが、鵜呑みにするとただの根性論になりかねません」

 

ポチ川「えっ?! 根性論が大事って言われるものだと思っていました。どういうこと?!」

 

ニャカ山T「今日も凝っているようですね。では、今回もネコトレをはじめましょう。テーマは『やりたいことを考える』です」

 

あらゆる仕事は “作業”である

ポチ川「あの〜、実はきょう気になったことがあって、あれだけつまらなそうに仕事をしていた吠崎係長が、仕事の面白さを思い出したと言っていて……(きょうの吠崎係長とのエピソードを説明)」

 

ニャカ山T「なるほど。その理由がわからないから、考え込んだ表情だったわけですね。いきなり夢も希望もない話をするようですが、私は 、あらゆる仕事は“作業” だと考えています」

 

ポチ川「えっ? どういうことですか?!」

 

ニャカ山T「重いものを持ち上げる仕事は “筋肉細胞を動かす作業” ですし、企画を考えるのは “脳細胞を動かす作業”。そういう見方です。あとは、その作業にどんな “意味” を見出しているのか。その “作業” と “意味” のふたつが仕事の要素です。それを、

 

仕事 = 作業 × 意味

 

と表現しています。ポチ川さん、以前やった『好みでない作業を洗い出す』というネコトレは覚えていますか?」

 

ポチ川「あれですよね! えーと……、何でしたっけ?」

 

ニャカ山T「苦手な仕事をできるようにはなったけれど、『やっぱりこの作業はテンション上がらないな』『できればやりたくないな』と思う作業のことです」

 

ポチ川「あぁ、思い出しました。僕クラスであれば、100個くらい挙げられるやつですよね」

 

ニャカ山T「100個ですか。挙げてみましたか?」

 

ポチ川「え、いや、忙しかったので……。えっと、『仕事=作業×意味』でしたよね。もっと詳しく聞きたいです!」

 

ニャカ山T「自分にとって “好みの作業” をしていると、人は楽しいと感じます。サッカーが好きな人は、ボールを蹴る作業を楽しいと感じます。妄想が好きな人は、じっと座ってボーっと考え事をしている作業を楽しいと感じます。反対に、“好みでない作業” をすると、楽しくありません。ボールを蹴ると足が痛くてツラいという人、じっと座ってボーっとするなんて苦痛すぎるという人がいます。

ひとつの仕事は、いろいろな作業が合わさってできています。仕事を楽しくするためには、まず目の前の仕事をするにあたって “好みでない作業を減らすこと” と “好みの作業を増やすこと” がキモ。自分にとって楽しいから、自然とやりたくなるわけです

 

ポチ川「そう考えると、たしかに根性論とは違う感じがしますね。でも、なぜ “やってみたい仕事” だとダメなのかがよくわからないのですが?」

 

ニャカ山T「たとえば、『アイデアを形にするのが好きなので、企画部で仕事をやりたいんです』という人を、よく見かけます」

 

ポチ川「あ、それ、ハチ村課長が言ってました! 『俺は営業部より企画部のほうが向いている気がする』って」

 

ニャカ山T「その課長は、ふだんからアイデア豊富な方なんですか?」

 

ポチ川「いいえ、全然。だいたいが、上から言われたことを下に伝えるだけですね」

 

ニャカ山T「そうでしたか。『アイデアを考えて形にする作業』は、企画部でなくても、どの部署のどんな仕事でもできることです。しかも、企画部の仕事のなかには思った以上に “好みでない作業” がたくさん混じっていたりします。

“世の中的に楽しい仕事と思われていること” と、実際の “自分にとって楽しい仕事” は大きく違うのです。ですから、“やってみたい職種や部署” に憧れているヒマがあったら、今いる部署で “好みの作業” を増やすためのチューニングをしていくことが大事です

 

ポチ川「うーん、なんとなくわかる気はしますが、吠崎係長が庶務課の仕事まで楽しいと思えるようになった理由は、そういうことなんですか?」

 

ニャカ山T「もうひとつの視点が “意味” です。働く理由についての研究はだいぶ進んできて、6種類に集約されると言われています。

 

働く理由(ポジティブ)

1.楽しいから
2.社会的意義があるから
3.成長可能性があるから

 

働く理由(ネガティブ)

4.感情的プレッシャーがあるから(やらないと怒られる・嫌われる・バカにされるから)
5.経済的プレッシャーがあるから(やらないとお金がもらえないから)

6.惰性(昨日もやっていたから)

 

1〜3はポジティブな理由、4〜6はネガティブな意味合いのもので、ポジティブな理由で仕事をしているとパフォーマンスが上がり、後者の3つを動機にしているとパフォーマンスが下がります」

 

ポチ川「(ギクッ)それはなぜでしょうか?」

 

ニャカ山T“楽しさ” “社会的意義” “成長可能性”というポジティブな動機は仕事内容とリンクしているのに対して、“感情的プレッシャー” “経済的プレッシャー” “惰性”というネガティブな動機は、仕事内容とリンクしていないからです。3つのポジティブ動機は、3つ全部にあてはまる人のほうが長期的なパフォーマンスは高まります。なので、どうしたら前者3つすべてを仕事の原動力にできるかを考えて、仕事に “意味づけ” をしていく。それが、楽しく仕事をする大きなコツです

 

ポチ川「モヤモヤしながらしぶしぶ現状に甘んじて働き続けている人たちを、この6つの動機にあてはめるとどうなりますか?」

 

ニャカ山T「そうですね、“楽しさ” は感じられずに退屈または不安にしているでしょうし、お客さんに喜ばれるような仕事ができておらず “社会的意義” が希薄でしょうし、“成長できそう” という実感もないでしょうね。

おそらく、マイナス評価されたら困るという“感情的プレッシャー”、給料が下がったら困るという “経済的プレッシャー” を原動力になんとかがんばりつつ、『こんなにがんばっているのに給料がそれほど上がらない』という不安も抱えていて、それでも自分で現状を切り開いていくのは大変なので、目の前にレールがあるうちはそれに乗っかっておこうという “惰性” 的でいる。そんな感じでしょうか」

 

ポチ川「なんだか過去イチ、グサグサくるのですが……(涙)」

 

ニャカ山T「もしかすると、吠崎係長はポジティブ動機として “仕事の意味” を思い出したのかもしれませんね」

 

ポチ川「なるほど……」

 

ニャカ山T「では、今日のネコトレをやってみましょうか。今回のトレーニングは『もし、仕事内容が自由で人事考課もないなら、いま勤めている会社で何をやりたいか?』です」

 

「もし、仕事内容が自由で人事考課もないなら、いま勤めている会社で何をやりたいか?」

ポチ川「仕事内容自由かつ人事考課なし?! フリーダム過ぎませんか?」

 

ニャカ山T「もし仮に、万が一そうだとしたら?」

 

ポチ川「それはもちろん、“わが推し” をゲストに招いたイベントをもう一度やりたいです! そのためであれば、マーケティング調査のデータ収集と分析、イベント告知動画の作成、握手会の運営、グッズの企画・制作・販売くらいであれば、ふだんの推し活の延長でできるでしょうから、たとえ残業代が出なくてもやりたいです! これは、楽しくて、社会的意義があって、自分も成長できる仕事になることはまちがいないですよね!?」

 

ニャカ山T「……それが実現するとよいですね。今日はここまでにしましょう」

 

今日のネコトレ

Vol.11
【仕事を「作業」と「意味」に分解してみる】

・他人から評価されるために仕事するイヌ、自分が楽しむために仕事するネコ
・仕事がつまらないと感じたら「仕事=作業×意味」の公式で考える
・ポジティブ動機3点セットがそろうにはどうすればよいかを考える

Vol.00から読む
Vol.10「ネコと研修」<< Vol.11 >> Vol.12「ネコとワークライフバランス」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO