ビジネス
2024/8/23 19:00

アウェーでの仕事は怖い?組織人が“越境体験”に抱く誤解を『組織のネコという働き方』著者が解く

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.17「ネコと越境」

“越境学習”ってなんだ?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

「半年以内に全員が副業を経験する」という新たな取り組みの期間が終わった犬山電機。社内では、「副業は辞める? 続ける?」という話題がそこかしこで話題になっていたが、ポチ川をはじめ渋々アルバイトを探したタイプの社員のなかにも、辞めずにそのまま副業として続けている者が少なからずいた。

 

ある日、ポチ川が社食できつねうどんをすすっていると、その姿を見つけた同期のタマ田が「ここいい?」と隣に座ってポークカレーを食べ始めた。タマ田といえば、ミャルミューダ電機とのコラボプロジェクトのリーダーとして社内外で話題になっているヤツだ。

 

ポチ川「そういえば、タマ田は副業ってどうしてるの?」

タマ田「ミャルミューダのオフィスにも席を置かせてもらってるんだけど、コラボ以外の仕事を手伝ってるうちに、業務委託として報酬をもらえるようになってるんだよね」

ポチ川「うわ、やっぱりそっち系か……」

タマ田「そっち系?」

ポチ川「自分の強みを活かしてる系の副業ってやつ。オレなんか、”WanWanEats”でデリバリーのバイトやってるだけだから、強みとか関係ない系」

タマ田「まだ続けてるの?」

ポチ川「うん。なんか副業を始めてみたらさ、今まで人事考課のたびに『どうすれば給料が上がるのか』と必死になっていたのがアホらしくなってきたんだよね。会社で無理してがんばって昇給しても月5千円とかなのに比べると、副業で月3万円とかふつうに稼げちゃうじゃん。だからちょっと気持ちが楽になったというか。まあ、強みを活かしてる系だったらもっと稼げるのかもしれないけど……」

タマ田「それならちょうどいい、ミャルミューダとの間で交換レンタル移籍をやることになったんだけど、立候補しない? まずは半年間やってみようってことになって」

ポチ川「交換レンタル移籍?! 半年間も?! い、いやぁ、どうかな。うーん、オレが抜けると部署的にキビしいんじゃないかな。だからムリだと思う。ムリムリ。たぶん、うん」

タマ田「そうなの? 最近話題の“越境学習”だからおすすめなんだけどな。あ、もう行かなきゃ。じゃまた!」

 

「もしかしたら断らないほうがよかったのかな……」。タマ田から去り際に言われた一言がひっかかったポチ川の足は、ニャンザップに向かっていた。

↑ポチ川はモヤモヤする気持ちを抱えながら、今夜もニャンザップを訪れた

 

境界線の向こうは敵だらけ?

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おやポチ川さん、こんばんは。今日は早いですね」

 

ポチ川「あの、越境ナントカってやったほうがいいんでしょうか?! えっと、レンタル移籍みたいなやつなんですけど!」

 

ニャカ山T「ああ、越境学習ですかね。ちょうど昨日、例の”組織のネコ”なタマ田さんの記事を拝見しましたよ。ミャルミューダさんと交換レンタル移籍をすることになったとかいうニュースでした」

 

ポチ川「えっ、もうニュースになってるハナシなんですか!? 実は今日、タマ田から『立候補したら?』って誘われたんですけど、ムリだと断ったんです」

 

ニャカ山T「どうしてムリだと思ったのですか?」

 

ポチ川「だって、ウチの部署から僕が抜けたらキビしいと思うんですよね。あと、タマ田には直接言いませんでしたが、以前お話ししたようにミャルミューダなんて創業たかだか10年の”ポッと出”の会社でしょう。わが犬山とは格が違いますよ。社員数だって100名もいない中小企業ですから」

 

ニャカ山T「あれ、さっきの記事だと今は300名を超えたと書いてあったような」

 

ポチ川「えっ!? この短期間でそんなに増えているのですか……?! むむむ、油断なりませんね……」

 

ニャカ山T「もしかしてポチ川さんは、ミャルミューダさんを競合だと思っているのですか?」

 

ポチ川「それはそうでしょう。ウチの部署と同じような家電製品を売っているわけですから敵ですよ、敵」

 

ニャカ山T「ほほう、敵ですか」

 

ポチ川「なんなら最近は、隣の営業1課も敵ですよ。もともとデジタル機器担当の部署なのですが、家電がネットワークにつながるようになって、家電担当のわが営業2課と同じ商品を扱うようになっていますからね。社外も社内も敵ばかりで大変ですよ」

 

ニャカ山T「なるほど、今日もかなりの凝り具合いですね。では今回のネコトレのテーマは『境界線はどこか』にしましょうか」

 

境界線はそもそも存在する?

ポチ川「境界線?」

 

ニャカ山T「ポチ川さん、もしかしてミャルミューダさんへのレンタル移籍を断った本当の理由って、自分が通用するかどうか自信がなかったから、とかではないですか?」

 

ポチ川「(ギクッ)い、いや、そういうことではなくて……そもそも会社の格が違うわけですから、僕の言っていることが相手に理解できるかどうか的なアレがコレで……(モニョモニョ)」

 

ニャカ山T「もう一つ、ポチ川さんは、レンタル移籍など左遷のようなものなので、社内の出世のレールから外れてしまう、と思ってはいませんか?」

 

ポチ川「(ドキッ!)そ、そ、そんなふうにはけっして……ちょっとだけしか思ってません! 実は今日、タマ田に『自分の強みを活かしてる系の副業いいなー』的なことを話したら、『それならちょうどいい』ってレンタル移籍のハナシが出てきたんですけど……ぶっちゃけなんか左遷っぽいなと思ってしまいました……」

 

ニャカ山T「そうでしたか。タマ田さんの昨日の記事では、

“全員副業の取り組みをやった結果、自分の強みを活かせていない副業をしている人はツラそう。だから、レンタル移籍の取り組みが【越境学習】としてアウェーの環境で強みを発揮する成功体験につながったらいいと思う”

みたいに書いてありましたよ。たしかに本業と遠すぎる副業をやるよりも、ミャルミューダさんだと同業種だからアウェー感は薄くなる分、強みを活かしやすくなりそうですもんね」

 

ポチ川「そうは言っても、やはり越境するには勇気が……」

 

ニャカ山T「越境、越境と言いますけど、そもそもそんな境界線ありますか?」

 

ポチ川「それはあるでしょう」

 

ニャカ山T「目に見える線、引いてあります?」

 

ポチ川「いや、目には見えないけど、犬山とミャルミューダの境界線はありますよね」

 

ニャカ山T「では、ミャルミューダさんのオフィスで、犬山の営業2課の仕事をするとしたら、越境ですか?」

 

ポチ川「え、それはただのリモートワークみたいなことなので、越境ではないのでは」

 

ニャカ山T「では、そこでのポチ川さんの仕事を見たミャルミューダの社員さんから、『それ、うちでもやってくれませんか』と頼まれてやったら越境ですか?」

 

ポチ川「えっと、うーんと、越境のような、越境でもないような……よくわからなくなってきました」

 

ニャカ山Tもともと線なんてなくて、勝手に思い込んでるだけかもしれませんよね。ということで、今日のネコトレは『敵と呼ばない』にしましょう」

 

敵でもライバルでもない

ポチ川「敵と呼ばない? 敵は敵ですよね。なんと呼べばよいのですか?!」

 

ニャカ山T「あるサッカー指導者から聞いたのですが、対戦相手のことを敵とは呼ばず、“相手”と呼んでいるそうです」

 

ポチ川「そりゃそうかもしれませんが……敵は敵なのでは?」

 

ニャカ山Tちょっと自分と違う意見を持っているだけで敵と判断してしまうと、チームワークや共創ができなくなってしまいます。同質性の高い環境にどっぷり浸かっているタイプの中には”敵認定が早すぎる人”がけっこういますが、もったいないです。ポチ川さんに伺いたいのですが、同じ推しのアイドルを応援している人は、敵ですか?」

 

ポチ川「は? そんなわけないでしょう! 同担(同じ推しを応援する人)は、同志ですよ。推しをメジャーにしていくために一致団結すべきチームメイトです。なんなら、将来わが推しのファンになってくれる人たちだって、大きく見たら仲間ですよね。わが推しはこれからグローバルに活躍すべき存在ですから、ファンの国境なんてものも関係ありません。それに加えて……」

 

ニャカ山T「あ、今日はもう遅いので、またの機会に聞かせてください」

 

今日のネコトレ

Vol.17
【敵と呼ばない】

・アウェイで強みを活かす経験をしてみよう
・くっきりした境界線はないと思ってみよう
・早すぎる敵認定はやめよう

Vol.00から読む
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仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO