「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!
ネコトレVol.18「ネコとお金」
給料が上がらないのは、会社のせい?
吾輩はイヌである。
名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。
このところの物価高に加えて、残業禁止による月給ダウン、さらに出世も足踏み状態で、お金の三重苦に悩まされているポチ川。漠然とした将来の不安を抱えながら今日も出社すると……
「ミケ野さん、おめでとう!」
朝から盛り上がっている営業チーム。なんとなく噂では聞いていたが、こんなにも早くこの日が訪れるなんて……。そう、ミケ野が副主任に昇格したのだ。しかも同期でトップのスピード出世だとか……。
ハチ村課長「お、ポチ川くん! ミケ野くんにお祝いの一言を!」
ポチ川「お、おめでとう……」
精一杯の笑顔をつくったつもりだけれど、ひきつっているのが自分でもわかった。ただの後輩だったミケ野が同じ役職になったなんて……。
さらに先日課長に昇格した、同期のタマ川ミャア子はどんどん評判を上げている。この前もネットのビジネスニュース番組に出演し、SNSで大きな注目を浴びていた。また大学の同級生であるネコ山のスタートアップ企業は、毎年ビジネス雑誌で特集されている「年収が高い企業ランキング」にランクイン。給料の上昇率が高いだけでなく、ストックオプションとかいうのもあるらしい。大手企業よりスタートアップの方が年収が高いなんて……。
会社の指示に忠実なオレよりも、自分勝手なことばかりするミケ野が評価されたり、女性だからって昇格して注目されたり、伝統のない会社のほうが給料が高いなんて、なにかがおかしくなっているのでは?! 自分ももっと給料が上がってよいはずなのに、なぜ?! モヤモヤがマックスになったオレは、またもニャンザップへ向かっていた。
どうしてお金がほしいの?
ポチ川「こんばんは。もっとお金がほしいのですが!」
ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。なにがあったのですか?」
ポチ川「ミケ野が副主任にスピード昇格したんです。僕が面倒を見てきてやったのに、僕と同じ給料になるなんておかしいと思いませんか!? 僕ももっと給料が上がってよいはずですよね!?」
ニャカ山T「なるほど。それで、どうしてお金がほしいのでしょうか?」
ポチ川「どうしてって、そりゃあった方がいいに決まっているからです! 」
ニャカ山T「なにに使うんですか? あ、推し活のグッズとかライブとかですかね?」
ポチ川「いえ、推しのグッズは毎回コンプリートしていますし、ライブはチケットさえ取れれば、すべて参戦できてます!」
ニャカ山T「では、なにに使うためですか?」
ポチ川「いや、別にとりたててお金に困っているわけではないというか。副業を始めたこともありますし。あれですよ、やっぱりお金がある方が勝ち組じゃないですか」
ニャカ山T「……ああ、そういえばネコ山さんの会社が『年収が高い企業ランキング』に入っていましたね。あと、犬山電機の女性管理職の方が出ている番組も拝見しましたよ。もしかして前に言われていた同期の方ですか?」
ポチ川「そ、そうです……。ズルくないですか、みんなどんどん給料が上がっていって! だから僕も給料を上げてほしいんです!」
ニャカ山T「ああ、なかなか凝っていますね。今回のネコトレのテーマは『お金から自由になる』にしましょうか」
給料が上がれば自由になれる?
ポチ川「お金から自由になるには、たくさんあったほうがよいですよね」
ニャカ山T「では、もしポチ川さんの給料がたった今、3倍になったとしましょうか」
ポチ川「え、そんなにもらえるんですか? うれしい」
ニャカ山T「あるとき、会社がイヤすぎて辞めたくなって、転職を考えたとします。しかし、同じような営業職を探しても給料が大幅に減るところしか見つかりません。どうしますか?」
ポチ川「ううう……。ありありと目に浮かんでしまいました……。それだと転職はむずかしいですね。現在の給料が高すぎることで不自由になるパターンもあるってことか」
ニャカ山T「だから、『ちょっと損する』のがオススメです。具体的には、実力よりちょっと少なめに給料をもらう。そうすると、会社を辞めたくなったとしても選択肢が増えます。つまり自由度が増す。そうやって既得権益にしばられない身軽さを保つためには、収入源を複数持っておくことも有効です」
ポチ川「副業をやったほうがいいということですか?」
ニャカ山T「給料以外の収入源があると、会社にしがみつかなくてよくなりますよね」
ポチ川「たしかに、副業するようになってからは、『給料を3万円上げてもらう努力より、副業で稼ぐほうが早いな』と思えるようにはなりましたけど……。でも、給料で単に損をしている状態はおもしろくないと思うのですが!」
ニャカ山T「ですよね。そこで今回のネコトレを始めましょう。『精神的報酬でモトを取る』です」
プライスレスな喜びで“心の財布”を満たそう
ポチ川「精神的報酬? 報酬って、お金のことじゃないんですか?」
ニャカ山T「報酬には5種類あります。
・お金が増える(経済的報酬)
・自由時間が増える(時間的報酬)
・手間・労力が減る、体が強くなる(肉体的報酬)
・考えなくて済む、賢くなる(頭脳的報酬)
・気を遣わなくて済む、楽しい(精神的報酬)
の5つです。このうち精神的報酬とは、喜びや感動など心が満たされたと感じられることです」
ポチ川「はぁ。それでモトを取るっていうのがよくわからないのですが?」
ニャカ山T「ポチ川さんが推し活をするときに使っているコストを、さっきの5つの視点で考えてみてください。経済的コスト、時間的コスト、肉体的コスト、頭脳的コスト、精神的コストとして、どのようなものがありますか?」
ポチ川「えーと、お金も時間も労力もいっぱい使ってますし、限られた資金で地方ライブに行くための交通手段を考えたり、推しと距離を近づけるためのアイデアは脳に汗をかくほど考え抜きますよね。精神的コストとしては、推しが失敗しないか、ちゃんと活躍できるか、今後成長していけそうかなど、常に気を配っていると言っても過言ではありませんね」
ニャカ山T「そんなに膨大なコストを使っていながら、ポチ川さんが推し活を続けるメリット、すなわち報酬ってなんですか?」
ポチ川「そんなの決まっているじゃないですか! わが推しによって心が満たされる瞬間がたくさんあるからですよ。例えば、推しの笑顔が見えた時、推しの新番組レギュラーが決まった時、推しのライブが満席だった時、それから……」
ニャカ山T「ポチ川さんは精神的報酬でモトを取ることを熟知されているので、それを仕事に置き換えてみてください。今日はこのくらいにしておきましょう。またいつでもいらしてくださいね」
今日のネコトレ
Vol.18
【精神的報酬でモトを取る】・実力よりちょっと少なめに給料をもらう
・ただし損をしている状態に甘んじない
・お金以外の報酬でモトを取ることができるようになろう・Vol.00から読む
Vol.17「ネコと越境」<< Vol.18 >> Vol.19「ネコとメンター」
仲山進也
仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。
『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。
取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO