サントリーの主力商品のひとつで、ペットボトル緑茶の代表格ともいえる「伊右衛門」。誰もが飲んだことのある定番飲料ですが、3月7日に大幅なリニューアルを経て新発売したのをご存知でしょうか? うたい文句は”誕生。ひとつ上の、伊右衛門”。今回はその背景には何があり、味やデザインがどのように変わったのかをレポートしたいと思います!
よりコストをかけてまで贅沢なおいしさにしたかったワケ
筆者が向かったのは、伊右衛門の発信地といえる京都。そこには、日本屈指の老舗茶舗「福寿園」があります。長年のCMでも知られているように、伊右衛門はサントリーと福寿園が共同開発した商品です。
この共同開発というのは大きな差別化といえるポイント。味のチェックやアドバイス的な監修ではなく、福寿園の茶匠が茶葉の仕入れや目利きから、火入れ、合組(最適な茶葉のブレンド)まで一手に担っているのです。その開発拠点である「福寿園CHA研究センター」へ向かい、同園の茶匠・谷口良三さんから新しい伊右衛門について話を伺いました。
2004年に誕生した伊右衛門ですが、元来からのコンセプトは急須のお茶のおいしさ。そこで、急須で淹れる際に最も飲まれている茶葉のタイプ「抹茶入り煎茶」の味をペットボトルで表現してきました。ただ、今回目指したのは「深蒸しタイプの一番茶」の味わい。データでは抹茶入り煎茶が売れているものの、リアルな試飲調査を全国で行ったところ、深蒸しタイプの一番茶が最も高評価だったからです。
ただ、深蒸しタイプの一番茶はいわゆる高級品。デイリーで飲まれている味ではないことが、購買データで上位にならない理由だという実態もわかっているとおり、実現にはよりコストがかかってしまうという難題があります。
しかし、理想を追求するために一番茶をこれまでの約2倍、他にも浅煎り茶葉を使用することで、鮮やかなグリーンの水色(すいしょく)と爽やかな香気成分をアップ。そして、抹茶の微粒子に加え新たに煎茶の粒子もプラスして、コクと余韻の豊かな”ひとつ上の伊右衛門”の味が誕生したのです。
パッケージには”引き算の美学”が隠されていた!
味の次に気になったのはデザインです。伊右衛門は、福寿園が創業した1790年当時の日本人にとっての水筒であった、竹筒がモチーフ。その基本コンセプトは変えずに、刷新したのが新しいパッケージです。
リニューアルのテーマは「Less is more」。引き算のデザインという意味です。これまではふりがなをはじめラベルに多くの情報が表記されていましたが、今回のリニューアルでだいぶすっきりとしました。一方で「KYOTO FUKUJUEN SINCE1790」の英字が加わるなど、グローバル化の流れもあって全体的にユニバーサルなデザインにもなっています。
味の設計には贅沢な素材を使用し、パッケージは洗練されたデザインに。そのうえでの「ひとつ上の、伊右衛門」であるといえるでしょう。進化の背景には、先ほど紹介した「福寿園CHA研究センター」のバックアップがありましたが、そのほかにもこの京都には伊右衛門に関連する様々な施設や催しがありました。ここでは、その一部を紹介していきましょう。
サントリーが福寿園に社運をゆだねた3つの理由
新発売の前日には、京都駅前でサンプリングイベントが行われました。そこには、サントリーの伊右衛門ブランド責任者である沖中直人執行役員の姿も。沖中さんは、2004年のブランド立ち上げ以前から最前線で携わり、それまで大きなヒットに恵まれなかった同社のペットボトル緑茶を一気にブレイクさせた最重要人物です。
ここでは、あえてこんなことを聞いてみました。ことわざに「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」とあるように、銘茶や名茶舗は全国に数あります。そのなかで、なぜ福寿園をパートナーに選んだのでしょうか。
「確かに、高い技術力を持つ老舗のお茶屋さんは全国にたくさんあります。ただ、当時私たちが各社を調べ抜いた結果、本当に組みたいと思えたのは福寿園さんしかありませんでした。具体的には3つ。伝統の技を持つ老舗であること。弊社のウイスキーにおけるマスターブレンダーのような茶匠がいて、なおかつ全国の調達先から優れた茶葉を仕入れられる信頼関係があること。飲料の原料を加工し、大量生産できる設備を持っていること。老舗でありながら、飲料までビジネス展開している稀有な存在だと思います」(沖中さん)
京都は、サントリーの前身である寿屋の創業地や山崎蒸溜所が近く、きわめて縁深い場所。また茶聖と称される千利休が侘び茶の世界を山崎に拓いた地でもあり、サントリーがお茶の拠点として京都を選んだのは何か運命的なものがあったのかもしれません。
伊右衛門が誕生してから14年。その間、京都は世界観光地ランクで1位になるとともに、お茶をはじめ様々な日本の文化を世界に発信しています。一方、今回の伊右衛門のリニューアルから見えてくるのは、本当に飲みたいと思われている味の創造、そして「Less is more」からなるユニバーサルなデザイン。それは未来の「OCHA」のあるべき姿ともいえるのではないでしょうか。2020年に向けてますます世界から熱い視線を集める日本ですが、お茶への注目度もチェックしていきたいと思います。