東北地方といえば、米と水、冷涼な気候に恵まれ、日本酒が旨いというイメージがあります。実際、有名な蔵元が集中している地域であり、全国新酒鑑評会では福島県が金賞受賞数で4年連続1位となるなど、酒質のレベルは国内屈指。日本酒を学ぶなら、まずは東北地方からチェックしていくのが近道です。
そこで今回は、数ある東北地方の日本酒のなかでも、絶対に覚えておくべき銘柄ベスト10を紹介。チェックしておけば、今後の居酒屋人生がより楽しくなるはずです!
その1
岩手県
フルーティさと味の膨らみが楽しめる!
赤武酒造[盛岡市]
AKABU(あかぶ)
2600円(1.8ℓ)
以前は太平洋岸大槌町にあった蔵で、東日本大震災で壊滅的な打撃を受けました。しかし、蔵を盛岡に移して見事復活。本品ではフルーティな香りに加え、口に含んだ際の味の膨らみとキレの良さが存分に楽しめます。SAKE COMPETITION 2016では、「赤武 純米吟醸」が純米吟醸部門で4位になるなど、今後が楽しみな銘柄です。
その2
秋田県
若きスターが世に問うsuperior(=上質)な1本
新政酒造[秋田市]
新政(あらまさ)
No.6 S-type(なんばーしっくす えすたいぷ)
1700円(720㎖)
近代醸造の礎となった協会6号酵母発祥の蔵元が醸す酒。現社長の佐藤祐輔氏は、東大文学部を卒業後、ジャーナリストを経て家業を継いだ人物で、添加物を廃し、全量を伝統的な生酛造りに切り替えるなどの改革を断行。個性的な製品を次々と発表し、若きスターとして注目を集めています。本作は徹底した吟醸造り、氷温管理、氷温流通による通年完全生酒。S-typeのSは superior のSで、蔵元がシャープなキレと味わいの豊穣さをイメージして醸しました。フレッシュで上品な香りを持ち、米の旨みも十分。爽やかなのどごしと確かな余韻も魅力です。
【蔵元コメント】
新政酒造 佐藤祐輔さん
「原料米のすべてが秋田県産。その8割が契約栽培で、良質な米を得るため、徹底的な栽培指導を行っています。酵母は、自蔵で発見された協会6号酵母のみの使用です。今後も伝統の本質とは何か、真の革新性とは何か、常に思考し、実践し続けて“美しい純米酒”を極めていきます」(佐藤さん)
その3
宮城県
キレが抜群でスイスイ飲める「究極の食中酒」
新澤醸造店[大崎市]
伯楽星(はくらくせい)
純米吟醸
2991円(1.8ℓ)
5代目蔵元、新澤巌夫氏が従来の普通酒主体の体制から、純米酒主体の生産に切り替えるなどの改革を実行。2002年に「伯楽星」を立ち上げ、JAL国際線ファーストクラスに採用されるまでに評価を高めました。2011年、蔵は震災で大打撃を受け、蔵を移転して生産再開に至っています。本品は銘柄を代表する1本で、ほのかな果実香と穏やかな旨みが特徴。キレは抜群で、飽きずにスイスイ飲めます。また、SAKE COMPETITION 2016の純米酒部門では、同蔵の別ブランド「あたごのまつ 特別純米」が1位を獲ったのをはじめ、4位に「あたごのまつ 特別純米 ひより」、7位に「伯楽星 特別純米」が入賞し、改めて注目を集めています。
【蔵元コメント】
新澤醸造店 新澤巌夫さん
「当ブランドは『料理を純粋に楽しみたい』『料理人の気持ちを感じ取りたい』『酒が主張するより、お料理を引き立たせたい』—— そんな思いから、「究極の食中酒」をテーマとして立ち上げました。なかでも純米吟醸はおすすめで、当蔵そのものを表現した商品です。また、大震災で大崎市三本木の蔵は全壊判定を受けました。しかし、地元との繋がりを考えて、本社機能は三本木に残し、蔵は山形に近い川崎町に移転しました。今後は、その際に皆さまに応援していただいた恩返しをとことんしていきます」(新澤さん)
その4
宮城県
鮮烈で後味が上品なうすにごりの生酒
阿部勘酒造店[塩釜市]
阿部勘(あべかん)
純米吟醸かすみ
3497円(1.8ℓ)
享保元年(1716年)、塩竈神社への御神酒御用酒屋として創業。県産米を中心に使い、小仕込みで丁寧に醸しています。本品は季節限定のうすにごりの生酒。飲み口は鮮烈ですが後味は極めて上品で、蔵の技術の高さが見てとれます。
その5
山形県
「芳醇旨口」で日本酒の流れを変えたカリスマ
高木酒造[村山市]
十四代(じゅうよんだい)
本丸(ほんまる)
2160円(1.8ℓ)
蔵元は創業約400年の老舗。現在の十四代は1994年、当時20代半ばだった15代蔵元、高木顕統(たかぎ・あきつな)氏が立ち上げた銘柄です。十四代の香り高く厚みのある味わいは、“芳醇旨口”と呼ばれ、爆発的な人気を獲得。淡麗辛口が主流だった日本酒の流れを大きく変えました。なお、本丸は、十四代でもっとも低価格で流通量も多いですが、蔵元が本丸=銘柄の中心と位置づけるお酒。「底辺が旨ければ上はもっと旨いと想像してもらえる」との思いから高級酒同様の造りを行っています。その味は洋ナシを思わせる上品な風味で、キレも抜群です。
【蔵元コメント】
高木酒造 高木顕統(あきつな)さん
「十四代は、米の味がしない酒に違和感を覚えて発想。また、味わい深い昔ながらの酒に触れ、感動したという背景もありました。最初の十四代は、子どもの頃から家にいた蔵人さんの助けがあり、神様の助けがあってできた奇跡のような酒でした。造りでは、『微生物に見られている』ことを意識し、すべての作業で妥協することがないよう心がけています。今後は毎年『今年の酒がいままでで一番旨い』といえるよう、精一杯の努力をするだけです」(高木さん)
その6
山形県
軽い口当たりと果実のような酸味でスイスイ飲める
楯の川酒造[酒田市]
楯野川(たてのかわ)
純米大吟醸 清流(じゅんまいだいぎんじょう せいりゅう)
2808円(1800㎖)
全国でも貴重な純米大吟醸酒だけを造る蔵。本品はアルコール度を14%台に抑え、透明感と軽やかさを目指して造られています。軽快な口当たり、若々しい果実のような香りと酸味、さらりとしたやさしい後味が楽しめます。
その7
福島県
“土産土法”によるやさしく軽やかな味わい
髙橋庄作酒造店[会津若松市]
会津娘(あいづむすめ)
芳醇純米酒 一火(ほうじゅんじゅんまいしゅ いちび)
3024円(1.8ℓ)
地元の人間が、地元のものと手法で仕込む“土産土法”をテーマとする蔵元。化学肥料を使わず、有機栽培での米作りに取り組んでいます。本品は、蔵の9割を占める純米酒から原酒での香味バランスが良いものを選び、1回のみ火入れを行ったもの。グラスに口をつけた瞬間、果実のような香りが感じられ、口に残る味わいはやさしく軽やか。ぬる燗にしても抜群で、料理を上手に引き立ててくれます。
【蔵元コメント】
髙橋庄作酒造店 髙橋 亘(たかはし・わたる)さん
「日本酒が世界で存在を確立し、新たな魅力を得るには地域性=土産土法が不可欠。幸い当蔵は兼業農家として成り立ち、先代・先々代の尽力で自社田を蔵の周囲に残すことができました。使用する酒米の9割が会津産で、製品の7割は県内で販売。また、会津は刺激しあえる蔵元や熱心な農家、酒販店、愛飲家のみなさまが多く、日々そのつながりに感謝しております。今後もこの環境を生かし、会津の景色が目に浮かぶようなお酒を造っていきます」(高橋さん)
その8
福島県
鮮烈な飲み口で無濾過生原酒の潮流を確立
廣木酒造本店[河沼郡会津坂下町]
飛露喜(ひろき)
特別純米(とくべつじゅんまい)
2808円(1.8ℓ)
飛露喜は杜氏の引退、実父の急逝を受けて蔵を継いだ廣木健司氏が、1999年、試行錯誤の末に完成させた銘柄です。鮮烈な飲み口、透明感のあるボディを備えた味わいは瞬く間に日本酒ファンの支持を獲得。無濾過生原酒の潮流を確立し、会津の酒を全国区にしました。本品は、蔵元が「飛露喜を語るための1本」と位置づける通年商品。口に含むと舌の上に上品な旨みが広がり、余韻が長く続きます。
蔵元コメント
廣木酒造本店 廣木健司さん
「造りで意識している点は、洗米から吸水、蒸しまでの原料処理。工程の川上をしっかり行うことがブレのない酒につながります。特別純米で使う掛米は、蔵の半径20㎞以内で収穫されたもの。今後は、飲むだけで会津の風土、蔵の情景までイメージできるような酒を造りたいですね」(廣木さん)
その9
福島県
評価が急上昇中で近年は入手困難に
宮泉銘醸[会津若松市]
寫樂(しゃらく)
純米酒
2520円(1.8ℓ)
近年評価がうなぎ上りで、入手困難になりつつあるブランド。同じく会津の有名銘柄「飛露喜」の蔵元、廣木健司氏から大きな影響を受けたといいます。「夢の香」や「五百万石」など、地元で契約栽培した米を使用するほか、県外の名産地の米を使用。本品は穏やかな果実香とふくよかな米の甘み、絶妙な酸味が楽しめ、肉料理との相性も抜群です。
その10
福島県
米の旨みがたっぷりで食中酒としても旨い!
松崎酒造店[岩瀬郡天栄村]
廣戸川(ひろとがわ)
特別純米
2700円(1.8ℓ)
「廣戸川」とは、地元を流れる釈迦堂川の以前の呼び名に由来。30代の若手のホープとして知られる松崎祐行(ひろゆき)さんが醸す注目銘柄です。本品の香りは非常にやさしく、飲むほどに米の旨みや甘みが堪能できます。