ラーメン好きなミュージシャンとして知られる、サニーデイ・サービスのベーシスト、田中 貴さん。年間600杯以上を食べ歩く目・鼻・舌をもって、注目するラーメン店の味や店主に「Rock」を見出していくのが、この「RockなRamen」連載だ。
これまで登場したのは「麺家うえだ」「無鉄砲」「らぁ麺屋 飯田商店」「ラーメン 凪」と強者ばかり。これらに続く第5回は、オープンは昨年ながらも名店との呼び声が高い、東中野の「かしわぎ」だ。行ってみると店構えは正統派で、メニューに関しても特殊なラーメンがあるようには見えない。だが、その一杯を味わい話も聞くと、なんとも“Rock”なアティチュード(姿勢)が隠れていた!
【プロフィール】
田中 貴
サニーデイ・サービスのベーシスト。年間600杯以上を食べ歩くラーメン好きとしても知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドとしては今春、配信とアナログでニューアルバム『the CITY』をリリース。また6月13日にはアナログで『FUCK YOU音頭』と『DANCE TO THE POPCORN CITY』を2タイトル同時リリースするなど、精力的に活動している。また個人としては、音楽監修を務めるアニメ「ラーメン大好き小泉さん」のオリジナルサウンドトラック『ラーメン大好き田中さんと細野さん』が発売中!
あえてだれもやらない“豚清湯”というアプローチ
「かしわぎ」を一躍有名にしたのは、おいしさはもちろん“豚がメインの特徴的な清湯”であることだ。清湯はチンタンと読む。字からイメージできるように、クリアなスープであることが特徴。すっかり一大勢力となった「淡麗系ラーメン」は、清湯であるといっていいだろう。だがその多くは、地鶏のうまみを生かした鶏の清湯なのだ。
また、豚メインの清湯スープで提供するラーメン店自体は少なくない。だが、それは厳密にいうと毛湯(マオタン)というガラスープのこと。「かしわぎ」の場合、豚のゲンコツと背ガラを中心に強火でボコボコと炊き上げ、まず白濁した毛湯を作る。これに脂の少ない鶏の挽肉を入れ、その肉に雑味や油分を吸着させて取り除く、掃湯(サオタン)という伝統中華のテクニックで清湯にしているのだ。この手法を取り入れているラーメン店は希少。だから同店は“特徴的な清湯”であり、ラーメン界にその名をとどろかすきっかけにもなったのである。
「店主は今田 匠(たくみ)さん。初めてスープを口にしたとき、頭のなかに『?』が浮かびました。透明なスープなのに、白濁した豚骨スープのような強靭なうまみ。一見すると、鶏の淡麗系のようなルックスですがまったく違う味わいで、しかも激ウマ。聞けば納得なのですが、その技法をあえて貼り出したりして主張しない姿勢も好きです。このジャンルでありながら600円台とリーズナブルですし」(田中さん)
「麺や七彩」の記事はコチラ → https://getnavi.jp/cuisine/103904/
真のウマいラーメンは何が足されてもウマい
このスープの魅力を楽しむのであれば、繊細な味わいの「塩ラーメン」がオススメ。だが、塩と双璧をなす「醤油ラーメン」も、ベースは同じでありながらクオリティの高さを感じられる仕上がりだ。その特徴は、あえて足し算の法則で個性をぶつけ合わせた醤油ダレにある。
ベースとなるのはヒゲタ醤油の名作「本膳」に、厚削りのカツオ節とサバ節、煮干しを加えた蕎麦のかえしのようなタレ。そこに中国地方のたまり醤油を加え、さらにうまみの輪郭を整えるために、福井伝統の魚醤である「いしる」も調合する。これによって、厚削りの燻香、たまり醤油の甘み、「いしる」のクセがブレンドされ、インパクトのある醤油ダレになるのだ。
「あまりにも塩がウマかったんで、すぐに再訪して醤油も食べました。そしたらこれまた驚きの、真っ黒いスープ。味的にもパンチがあって、胡椒が合いそうだな~なんて思っていると『バンバンかけてください!』との声。お店によっては卓上調味料をあえて置かない(提供時の状態が最高の味だから何も加えないでほしいという考え)ところもあるなか、そういう今田さんの柔軟性あるところも好きですね」(田中さん)
田中さんのラーメン本「Ra:」についてはコチラ → https://getnavi.jp/cuisine/1210/
「根底には、お客さんが食べたい味で楽しんでほしいって思いがあるんですよ。あとは、以前お世話になった七彩で学んだんです。軸となるラーメンがしっかりしていれば、調味料が変わろうとおいしさは変わらないって」(今田店主)
高級食材は使わずに一流の味を安価で提供
「かしわぎ」はサイドメニューにも独特な一品がある。それは今田店主がいる昼(夜は視察や味の研究などに勤しんでいる)限定の、その名も「お昼のご飯」。「今日のおかず」が日によって替わり、ベーシックなものは埼玉県産のブランド卵を使うTKG(卵かけご飯)だが、運のいい日はカレーをはじめとする贅沢な丼にありつける。
この日はラッキーデーで、「インドのチキンカレー」を食べることが叶った。サイドメニューといっても、その味は専門店顔負けの本格派である。シナモン、カルダモン、クローブはホール(実のまま)で用意し、クミン、ターメリック、コリアンダーなどはパウダーで使用。多彩なスパイスで魅惑的な味わいに仕上げている。
今田さんは「最近はカレーの研究に没頭しており、とにかく楽しいんです! ラーメンのことはほどほどでいいんで、カレーのことをしっかり書いてくださいね」と冗談めいたことを言う。ただ、きっとそれは真剣勝負であり大黒柱のラーメンがしっかりできているからこそ、副業的なカレー作りを楽しめているせいなのだろう。田中さんが音楽活動のかたわら、楽しくラーメン活動をしていることに通じるものがある。
「
ちなみに「かしわぎ」という店名の由来は、人ではない。JR「東中野駅」は明治時代、甲武鉄道の「柏木駅」として開業した歴史があり、今田さんの「地元の人に長く愛されたい」という熱い想いが込められている。やはりRockだから、LOVE&PEACEがあるのだ!
【店舗情報】
かしわぎ
・住所:東京都中野区東中野1-36-7
・電話番号:非公開
・営業時間:日曜・月曜11:30~15:00、水〜土曜11:30~15:00/18:00~21:00
・定休日:火曜
・アクセス:JR総武線「東中野駅」東口徒歩4分
撮影/三木匡宏