グルメ
ラーメン
2018/9/14 19:00

クールな顔して味はワイルド! 東中野の熱き異端ラーメン「かしわぎ」——サニーデイ・サービス田中貴とRockなRamen

ラーメン好きなミュージシャンとして知られる、サニーデイ・サービスのベーシスト、田中 貴さん。年間600杯以上を食べ歩く目・鼻・舌をもって、注目するラーメン店の味や店主に「Rock」を見出していくのが、この「RockなRamen」連載だ。

 

これまで登場したのは「麺家うえだ」「無鉄砲」「らぁ麺屋 飯田商店」「ラーメン 凪」と強者ばかり。これらに続く第5回は、オープンは昨年ながらも名店との呼び声が高い、東中野の「かしわぎ」だ。行ってみると店構えは正統派で、メニューに関しても特殊なラーメンがあるようには見えない。だが、その一杯を味わい話も聞くと、なんとも“Rock”なアティチュード(姿勢)が隠れていた!

 

【プロフィール】

田中 貴

サニーデイ・サービスのベーシスト。年間600杯以上を食べ歩くラーメン好きとしても知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドとしては今春、配信とアナログでニューアルバム『the CITY』をリリース。また6月13日にはアナログで『FUCK YOU音頭』と『DANCE TO THE POPCORN CITY』を2タイトル同時リリースするなど、精力的に活動している。また個人としては、音楽監修を務めるアニメ「ラーメン大好き小泉さん」のオリジナルサウンドトラック『ラーメン大好き田中さんと細野さん』が発売中!

 

あえてだれもやらない“豚清湯”というアプローチ

「かしわぎ」を一躍有名にしたのは、おいしさはもちろん“豚がメインの特徴的な清湯”であることだ。清湯はチンタンと読む。字からイメージできるように、クリアなスープであることが特徴。すっかり一大勢力となった「淡麗系ラーメン」は、清湯であるといっていいだろう。だがその多くは、地鶏のうまみを生かした鶏の清湯なのだ。

↑「かしわぎ」のスープもクリアな清湯。しかし同店の場合、鶏はある技法で雑味を取り除くためにしか使わない

 

また、豚メインの清湯スープで提供するラーメン店自体は少なくない。だが、それは厳密にいうと毛湯(マオタン)というガラスープのこと。「かしわぎ」の場合、豚のゲンコツと背ガラを中心に強火でボコボコと炊き上げ、まず白濁した毛湯を作る。これに脂の少ない鶏の挽肉を入れ、その肉に雑味や油分を吸着させて取り除く、掃湯(サオタン)という伝統中華のテクニックで清湯にしているのだ。この手法を取り入れているラーメン店は希少。だから同店は“特徴的な清湯”であり、ラーメン界にその名をとどろかすきっかけにもなったのである。

↑「塩ラーメン」680円。研ぎ澄まされたビジュアルながら、豚骨の風味とアサリが効いた塩味強めのタレで、ソリッドなテイストが特徴だ

 

↑麺は120g。京都にある、名店御用達の老舗製麺所「麺屋棣鄂」(ていがく)に特注した細麺を使用している。このジャンルでは珍しく、「替玉」100円ができるのも魅力だ

 

「店主は今田 匠(たくみ)さん。初めてスープを口にしたとき、頭のなかに『?』が浮かびました。透明なスープなのに、白濁した豚骨スープのような強靭なうまみ。一見すると、鶏の淡麗系のようなルックスですがまったく違う味わいで、しかも激ウマ。聞けば納得なのですが、その技法をあえて貼り出したりして主張しない姿勢も好きです。このジャンルでありながら600円台とリーズナブルですし」(田中さん)

↑長崎出身の今田 匠店主。脱サラ後に上京し、超名門「麺屋こうじグループ」である神奈川「神勝軒」での修業を経て、2014年に中野区野方に同グループ出身者と「麺処 今川」を開業。諸事情により閉店したあとは「麺や七彩」や「らぁ麺 すぎ本」を手伝っており、2017年6月2日に「かしわぎ」をオープン

 

「麺や七彩」の記事はコチラ → https://getnavi.jp/cuisine/103904/

 

真のウマいラーメンは何が足されてもウマい

このスープの魅力を楽しむのであれば、繊細な味わいの「塩ラーメン」がオススメ。だが、塩と双璧をなす「醤油ラーメン」も、ベースは同じでありながらクオリティの高さを感じられる仕上がりだ。その特徴は、あえて足し算の法則で個性をぶつけ合わせた醤油ダレにある。

↑「醤油ラーメン」680円。タレ以外は基本的に塩と一緒だ。チャーシューは57℃で低温調理したバラと、肉々しさとしっとり感を同居させたロースの2種類。メンマは上質でやわらかい穂先メンマである

 

ベースとなるのはヒゲタ醤油の名作「本膳」に、厚削りのカツオ節とサバ節、煮干しを加えた蕎麦のかえしのようなタレ。そこに中国地方のたまり醤油を加え、さらにうまみの輪郭を整えるために、福井伝統の魚醤である「いしる」も調合する。これによって、厚削りの燻香、たまり醤油の甘み、「いしる」のクセがブレンドされ、インパクトのある醤油ダレになるのだ。

↑色も味も濃い。だがそれは天然のうまみ成分が強く出ているためであり、のどが渇くしつこさはない

 

「あまりにも塩がウマかったんで、すぐに再訪して醤油も食べました。そしたらこれまた驚きの、真っ黒いスープ。味的にもパンチがあって、胡椒が合いそうだな~なんて思っていると『バンバンかけてください!』との声。お店によっては卓上調味料をあえて置かない(提供時の状態が最高の味だから何も加えないでほしいという考え)ところもあるなか、そういう今田さんの柔軟性あるところも好きですね」(田中さん)

↑好みの傾向が酷似しているふたり。田中さんのラーメン本「Ra:」が心のバイブルだという今田さんとはあっという間に意気投合、たびたび一緒にのみに行く仲だという
↑好みの傾向が酷似しているふたり。田中さんのラーメン本「Ra:」が心のバイブルだという今田さんとはあっという間に意気投合、たびたび一緒にのみに行く仲だという

 

田中さんのラーメン本「Ra:」についてはコチラ → https://getnavi.jp/cuisine/1210/

 

「根底には、お客さんが食べたい味で楽しんでほしいって思いがあるんですよ。あとは、以前お世話になった七彩で学んだんです。軸となるラーメンがしっかりしていれば、調味料が変わろうとおいしさは変わらないって」(今田店主)

↑胡椒以外の調味料も。今田さんのオススメは、「醤油ラーメン」にはハバネロソース(写真左)、「塩ラーメン」にはYUZUSCOという柚子胡椒ソース(写真右)

 

  1. 1
  2. 2
全文表示