袋系インスタントラーメンの一大ブランドといえば、やはり「サッポロ一番」でしょう。最初に誕生したしょうゆ味は1966年の発売。今年でブランド生誕50周年というわけですが、最先端の技術を使ったノンフライ麺を差し置いて、同ブランドの棚が空になっている場面を何度見たことでしょう。
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またあるとき、編集部員に同ブランドの好きな味を聞いたところ、誰もが「当然●●味でしょ」と、それぞれが一家言を持っているのも、他の製品には見られない特徴です。では、なぜ「サッポロ一番」はこれほど長く、熱烈に愛されているのでしょうか? この疑問を解決すべく、製造元のサンヨー食品を直撃。誕生秘話から味作りのヒミツにまで踏み込み、愛される理由を探りました!
理由その1
開発した創業者が“神”だった
インタビューに応じてくれたのは、マーケティング部の課長代理・水谷彰宏さん。まずは「御社にとってサッポロ一番とはどんな存在ですか?」と聞くと、「会社の『顔』ですね」と答えてくれました。
「例えば、『サンヨー食品です』と名乗っても『はぁ』という反応になりますが、『サッポロ一番の会社です』というと、『ハイハイ!』とすぐわかってもらえるんです」(水谷さん)
では、いよいよ同ブランドが愛される理由について迫っていきましょう。まずは、ブランドが誕生した経緯について聞いてみました。
「50年前に新商品の開発を担当していた、創業者のひとりで、のちに二代目社長となる井田 毅(いだ・たけし)専務が全国を渡り歩いて出会った味。それこそが札幌の『ラーメン横丁』にあった醤油ラーメンでした。この時にインスパイアされたおいしさが、『サッポロ一番』の源流ですね。
それから歴史をたどると、この50年でしょうゆとみそは時代に応じてごくわずかに微調整をしただけで、根本的な味わいは変えていません。塩に至っては、発売当初から味をまったく変えていないんです。今後もお客様のことを考えると、この味は変えられませんね」(水谷さん)
札幌と聞くと味噌ラーメンが有名ですが、味噌ではなく、醤油ラーメンにインスパイアされたというのが意外ですね。しょうゆ味が発売された2年後の1968年には「みそラーメン」、そして1971年には「塩らーめん」が発売。この二者は同ブランドで人気を二分する味ですが、これらも札幌で食べたラーメンにインスパイアされたのでしょうか?
「みその場合はそうですね。開発にはやはり苦労したそうで、みそはレシピだけで100以上作ったとか。試行錯誤を繰り返した結果、しょうゆ味の誕生から2年以上かかって発売されました。そして塩らーめんは、もともと発売していた『長崎タンメン』をブラッシュアップし、よりサッポロ一番らしいインパクトのある味に改良して発売したものなんです」(水谷さん)
そして、この「みそ」「塩」を先頭に立って開発したのも二代目社長の井田 毅氏とのこと。なお、サンヨー食品は、井田 毅氏の父親、文夫氏が初代社長で、その前身は造り酒屋だったとか。酒造りに必要なものといえば、やはり研ぎ澄まされた味覚です。
井田 毅氏も、父親譲りの味覚センスを受け継ぎ、環境によって鍛えられていたと考えるのが自然でしょう。50年たっても色あせない「サッポロ一番」の味の開発は、優れた味覚センスと強烈なリーダーシップを備えた「井田 毅」という“巨人”あっての偉業といえます。
ちなみに、ブランド名が「サッポロ一番」となった理由とは?
「開発当初は、当時現地にあった百貨店『札幌五番舘』をモチーフに『サッポロ五番舘ラーメン』や『サッポロ五番』を起案したそうです。でも『名前が長い』『語呂が悪い』『五番なら一番のほうがいいのでは』との考えに至り、商標化にあたっては『サッポロ一番』に決定したと聞いています」(水谷さん)
理由その2
3種の個性を追求したパンチのある味作り
次に、ブランドの味作りについてより深く聞いてみました。シリーズの味の特徴とは何でしょうか?
「どんな具材にも合うパンチのあるおいしさが第一の特徴ですね。当時のインスタントラーメンは、いま以上に『栄養が偏っている』というイメージだったそうですが、これを覆して子どもからお年寄りまで食べていただきたいというのが弊社の思いでした。そこで、栄養価を考え、野菜と一緒に煮込んだり、野菜を炒めてトッピングしたりすることを前提とした味の提案に至ったのです」(水谷さん)
それが、同社のCMでも語られた「野菜に合う味作り」。つまり、野菜の水分が染み出しても埋もれない味にと計算して作られたのが現在の味というワケなんです。
具体的にいえば、しょうゆはスパイシーに、みそはコクを強めに、そして塩はセロリを思わせる香味野菜の風味をプラス。また、しょうゆには特製スパイス(こしょう)、みそには七味スパイス、塩には切り胡麻と、それぞれに合う香辛料を入れていることもポイントです。これに加え、麺にも工夫がありました。
「実はスープとの一体感を持たせるため、それぞれの麺に味を練り込んでいます。しょうゆの麺にはしょうゆ、みその麺にはみそ、塩の麺には山芋を練りこんでいるんです。さらに、しょうゆ味は四角、みそは楕円、塩は円形と、断面の形状を最適化。これは、ゆでた時に立ちのぼる香りや、すすった時のスープとの相性を考えてのことです」(水谷さん)
この知られざる秘密は、意識して調理するとよくわかります。そして食べてみると、同じシリーズながら、それぞれがまったく違う味づくりであることに気付くでしょう。個々がまったくちがうコンセプトで開発されたという証拠は、パッケージのデザインを見ても明らかです。
「3種類のパッケージは、それぞれロゴの字体や大きさ、写真のレイアウトも味によってすべて違います。例えば、みそはひらがな+カタカナの組み合わせ(みそラーメン)ですが、塩は漢字+ひらがな(塩らーめん)と、その組み合わせはてんでバラバラなんです」(水谷さん)
3種のコンセプトがまったく違うというのは、これらが同時発売でないという点(1966年にしょうゆ味、1968年にみそ、1971年に塩を発売)を見ても明らか。シリーズの統一感を無視し、それぞれの味の個性を際立たせる大胆な手法に驚きを覚えるとともに、味作りへの強烈なこだわりを感じます。
理由その3
「みそ味」「塩味」の先駆者だったから
ここでちょっと想像してみてください。袋系インスタントラーメンで味噌味、または塩味といえば何でしょう? サッポロ一番以外のブランドは、あまり思い浮かばないのではないですか? 全国で販売されているサッポロ一番ですが、それだけみそと塩の印象が強いのです。実際、出荷の数字をみてもこのふたつが突出しているとのこと。では、その理由とは何でしょうか?
「もちろん、インパクトのある味を気に入っていただいたという自信もありますが、袋麺においては、サッポロ一番がみそ味と塩味の先駆者だったから、というのもあると存じます。発売当時、袋麺のみそと塩はほとんど例がなく、それだけに大きくシェアを伸ばすことができたんです。ほかにはない初めての味を提供できたから、という理由も大きいのではないでしょうか」(水谷さん)
つまり、慣れ親しんだ味が記憶として舌に刷り込まれ、「みそと塩はサッポロ一番」というイメージができ上がったということ。逆にいえば、醤油ラーメンは、サッポロ一番しょうゆ味が登場した時点ですでに戦国時代。ライバルが多く、消費者側で好みが分散する形になったんですね。
あたたかな家族をイメージさせるのも魅力のひとつ
最後に、筆者が注目したいのはサッポロ一番のCM。時代によって様々なパターンがあったと思いますが、そこには必ず家族の風景がありませんでしたか? 幅広い世代が登場した昭和のコマーシャルにも、現在の共働き夫婦+子どもというシーンにも、共通するのは家庭のあたたかさです。
親子で一緒にラーメンを作り、楽しみながら食べる喜びを教えてくれたのもサッポロ一番。こうした体験が各人にとってかけがえのない思い出となり、家庭の食卓の原体験にもなっている。この点も、サッポロ一番が半世紀にわたって愛されている理由ではないでしょうか。
【URL】
サンヨー食品 http://www.sanyofoods.co.jp/