麻布十番に白金高輪。セレブなイメージを放つエリアだが、昔ながらの商店街や大衆的な飲食店も点在する。もちろん素晴らしい街中華も言わずもがなだ。今回紹介するのはその一軒、「盛運亭」。どの駅からも少々歩く、陸の孤島的な場所にあるが、味に魅せられたファンには芸能人も多い。
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ご飯のお供にも酒のアテにも最高なしょうが焼き
看板には「ラーメン」や「ら~めん」と表記されているように、料理の主力はラーメンだ。もちろん味も絶品だが、同店でひと際人気なのが「豚生姜焼き定食」。テイクアウトする人も少なくないという。
ウマさの決め手は味付けと熟練の鍋さばきだ。ベースはしょうゆ、しょうが、みりん、酒を絶妙にブレンドさせた特製のタレで、仕上げに塩や黒こしょうなどで整えていく。
肉は豚のバラを使用し、玉ねぎと合わせて鍋の中で調味。徹頭徹尾、真夏でも強火で鍋を振ることで、短時間でも味の凝縮したしょうが焼きに仕上がるのだ。肉の脇には千切りキャベツのコーンサラダとピリ辛もやしが添えられ、晩酌にはこの単品さえあれば味も量も最高のつまみ3点盛りとして活躍してくれる。
同店のラーメンをいっそう輝かせるとともに、つまみとしても高い人気を誇るのがチャーシューだ。外の看板にも「名物特製焼豚」と表記されており、自他ともに認める傑作である。
チャーシューも、しょうが焼きと同じく豚バラ肉を使用。レシピはやや独特で、ラードとごま油で揚げてから、にんにく、しょうが、しょうゆで約2時間煮込む。こうすることで、内部はしっとり、外側は香ばしく仕上がるのだ。
肉は7mmほどの厚さがあって食べごたえは十分。適度に脂がのっており、ねぎとしょうゆダレによるキレのある味の演出もたまらない。これを肴にキンキンのビールで流し込めば、至福のひとときが訪れる。
ルーツは鹿児島にあり
ラーメンはベーシックなしょうゆに、しお、みそ、タンメン、さらにはつけ麺などもあって幅広い。半チャーハンとのセットが時間を問わず用意されているのも良心的で、シメにも食事にも重宝する。
スープは豚のゲンコツが7に対して鶏ガラが3と、豚が強め。これに香味野菜を加えて炊いている。なお、かつては深夜まで営業していた関係で、仕込みを行うのはいまも夜営業時。それもあって出山店主の出勤は16時からなのだ。
名物のしょうが焼きにチャーシュー、豚骨の清湯(チンタン)スープを生かしたラーメンと、同店の料理は豚肉に支えられるといっていいだろう。その理由は、出山さんの古巣が色濃く関係している。
出山さんは鹿児島での修業を経て1983年に「盛運亭」を開業した。そのため、当時は豚骨を白濁するまで炊いたスープによる鹿児島ラーメンを提供していたという。だが、当時の東京はまだ豚骨ラーメン不毛の時代(あの「なんでんかんでん」は1987年オープン)で、あまり受け入れてもらえなかったのだとか。そこで、試行錯誤を繰り返して3年後に現在の中華そばスタイルへ変更したという。
黒豚の名産地である鹿児島で腕を磨いた経験が、出山さんを豚肉のスペシャリストにしたことは間違いないだろう。いまでこそ深夜営業はしていないが、休日を設けないうえ中休みもなく営業している心強い存在だ。豚肉好きの街中華ファンにはぜひ訪れていただきたい名店である。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
盛運亭
住所:東京都港区南麻布2-7-26
アクセス:東京メトロ南北線ほか「白金高輪駅」徒歩8分
営業時間:第1、3月曜11:00~15:00、第2、4、5月、火~土11:00~22:00、日曜12:00~21:00
定休日:なし