中華料理には、あんかけやうま煮といった魔法がある。そして、東京の街中華界であんかけの名店として知られるのが中野坂上の「ミッキー飯店」だ。おいしさの秘訣は、鍋振りやとろみを付ける技にあるのは間違いない。そのうえで、同店にはさらにウマさを昇華させる秘密があった。その謎を解き明かそう。
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多彩なスパイスが香るハイクオリティな街中華
あんかけの名店である理由のひとつがバリエ―ションの豊富さだ。店名を冠した「ミッキーメン」「ミッキーライス」「ミッキーカタやきソバ」(すべて750円)を筆頭に、様々なあんかけそば、あんかけ焼きそば、あんかけ丼がラインナップされている。なかでも気になるのは、やはりミッキーシリーズだろう。これはレバーと豚肉と野菜のピリ辛あんかけのこと。ひとたび口にすれば、奥からあふれ出るような魅惑の風味に箸が止まらない。
その秘密は、10種ものスパイスにある。ベースの味付けは濃口しょうゆににんにく、しょうが、昆布、しいたけを漬けたタレだが、豆板醤は定番のものと「ピーシェン豆板醤」という熟成タイプの2種を使用。また、五香粉(ウーシャンフェン)という中華スパイスも用い、立体的な風味を演出している。これがミッキーあんかけのおいしさを支えているのだ。
卓越したスパイス使いは、ミッキーシリーズと双璧をなす人気メニュー「ニンニクチャーハン」にも発揮されている。当然、ただニンニクが入っているだけのチャーハンではなく、ルックス、具材、味付けなどすべてにおいて通常のそれとは一線を画す一皿だ。
スパイスもだが、大きな特徴は肉にある。あえてチャーシューではなくひき肉を採用。スパイスも店で挽いた新鮮な香りのものを使い、最初に肉とともに炒めることで特有の風味をひとつにする。その数は11種。花椒(ホアジャオ)や朝天唐辛子といった四川産の香辛料などを絶妙に効かせることで、ほかにないチャーハンに仕上げている。
ちなみに、同店はひき肉ひとつをとっても使い分けており、このチャーハンには細かなミンチ。餃子などは自らの包丁で粗くしたものを用いる。なぜなら、チャーハンに関しては甘じょっぱい中国のたまりじょうゆを使うため、チャーシューで作ると塩味が強く出すぎてしまうから。また、チャーハンは細かいミンチでないと全体のまとまりがよくならない。それぞれに明確な理由があるのだ。
二代目店主が初代の味を踏襲しつつさらなる高みへ
街中華にしては独創的ともいえる「ミッキー飯店」の味。その裏には、二代目である現店主のルーツが隠されている。同店は1969年5月4日に恵比寿で創業。今年で50周年を迎えた。店名はオープンの際、満州帰りの医者に舟の帆が喜ぶという意味の「盈喜(ミッキー)」という字をあててもらったという。そのうえで、当時業績のよかった企業に「キ」が付く会社が多かったことから3つの「キ」の縁起にあやかって「ミッキー飯店」となったのだ。
その創業者である初代が高橋通博さん。二代目、進さんの父親にあたる。そして進さんは「東京大飯店」や「パレスホテル東京」「ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ」といった一流ホテルの中華を経て2012年に家業を継いだ。多彩なスパイスを駆使できるのは、修業時代にハイレベルな環境下で薫陶を受けてきたからなのである。
もともと絶品だった料理を、二代目がさらなるおいしさへ。そんな理想的な継承が「ミッキー飯店」ではなされたのである。
聞けばかつてこの界隈には風呂なしアパートが多く、店の向かいには銭湯があり、仕事や学校帰りにメシ&風呂のゴールデンコースを楽しむ人が多かったとか。現在、銭湯はコインランドリーとなっているが、いまでも夢心地の料理だけは楽しむことができる。魔法がかかったような美食を味わえる夢の国「ミッキー飯店」に、ぜひ訪れてみては?
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
ミッキー飯店
住所:東京都中野区本町2-17-4
アクセス:東京メトロ丸ノ内線「中野坂上駅」徒歩7分
営業時間:11:30~14:00、17:00~21:00
定休日:日曜