「日本酒安すぎる問題」が2つのネガティブな事象を生む
これまで全国300以上の蔵元に取材をするなかで、生駒さんのなかに芽生えた感情が「自分もやってみたい!」という欲求。メディアでは○○酒造のお酒はおいしい、素晴らしいという紹介や応援はできるものの、自分発信のプロダクトではない――。また、日本酒の市場が抱える課題も、生駒さんをモノづくりの世界に飛び込ませる一因となりました。
「『日本酒安すぎる問題』。これがふたつのネガティブな事象を生んでいます。ひとつは利益率の悪さ。ビールやワイン、チューハイなどほかのお酒がメジャーになる数十年前までは、薄利多売でもよかったんです。コストパフォーマンスのよさは消費者的にはうれしいのですが、いまは飲み手に選択肢が増えたので昔ほど売れません。そのため赤字になりがちで、月に3社が廃業する事態に陥っています」(生駒さん)
現在、日本酒の蔵元の数は約1400。このままいくと、10年後には約1/3に減ってしまうと生駒さんは警鐘を鳴らします。では、もうひとつのネガティブな事象は?
「世界で戦えるポテンシャルがあるにもかかわらず、安すぎることで日本酒は海外進出のチャンスを逃している側面があるんです。意外に思うかもしれませんが、海外の富裕層のなかには、おいしくても安いがために『日本酒をギフトに選べない』という声もあるぐらいで。とはいえ、海外での需要自体は増えているので、チャンスともいえるんです」(生駒さん)
日本酒の価値を上げることが、日本酒の未来につながると考えた
高品質であることはもちろん、高付加価値で高単価な日本酒を開発・販売することで“日本酒の未来をつくる”を実現できるのではないか――。この想いが、ラグジュアリー日本酒ブランド「SAKE100」の礎となったのです。
「作り手さんから仕入れて売る、という選択肢もありました。そちらを選ばず、自分たちで開発したのは、世界中の酒蔵に足を運んで取材して回り、数千種類の日本酒を試飲し、日本酒を熟知した自分たちだからこそつくれる、付加価値の高い日本酒を届けられると思ったからです。もうひとつ、自らラグジュアリーブランドを展開するならば、『自分たちが作り手でなければストーリーを語る資格がない、情熱を伝えきれない』とも思いました」(生駒さん)
ラグジュアリーブランドを展開するにあたっては、商品名や情報量をわかりやすくすることも重要と生駒さんは言います。
「日本酒の複雑さのひとつが、情報の階層の深さです。たとえば、『〇〇県〇〇市』にある酒蔵が『新米』の『山田錦』で醸した、『山廃仕込み』の『無濾過』『生原酒』の『純米』ですと。コアな日本酒ファンにとってはそれが魅力になるのですが、わからない人にとっては呪文と同じ。特に高価格帯の日本酒に興味を示す海外の方々にとっては、『覚えにくい』『わかりづらい』と敬遠する要素につながるんです。その点、『SAKE100』の『百光 -byakko-』であれば2階層ですから。ブランド名を覚えて選んでいただくために、あえてシンプルな打ち出し方をしています」(生駒さん)