日本酒のオンラインテイスティングのイベント案内が来ました。イベント名は「SAKE(酒)×NOMY(学)」。サッカー元日本代表の中田英寿さんが代表取締役を務める会社「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」が、日本酒業界を盛り上げるべく開催するのだといいます。
ホストとなる蔵元は、三重県名張市にある木屋正(きやしょう)酒造の大西唯克(ただよし)さんとのこと。同蔵が醸す「而今(じこん)」は、山形の「十四代」に匹敵する人気を誇り、入手困難酒として知られています。実際、いままで飲んだものは全部うまかったなぁ……。筆者が日本酒の本を作ったときは、忙しいときに電話して迷惑をかけたなぁ~。しかし、「オンラインテイスティング」って何だろう?
送られてきた日本酒をテイスティングしながら蔵元の話を楽しむ
案内によると、事前に自宅に日本酒が送られてきて、これをテイスティングしながら、ビデオ通話によって蔵元のお話がリアルタイムで楽しめる、ということらしいです。なるほど、それは興味深い。そもそも「而今」なんて一般人はほぼ買えないですから、それが手に入るだけで尊いです。
オンラインテイスティングの当日。もしかしたら先方に自宅が見られちゃうかも……と思い(実際はそんなことはありません)、いそいそと部屋を片付け、お気に入りの「一軍」の服を着用。PCの前でスタートの時間を待ちます。すでに日本酒は到着済。届いたのは「而今 純米大吟醸 NABARI」と同じ蔵元の銘柄「高砂(たかさご) 松喰鶴(まつくいづる) 純米大吟醸」の2本(720mlで価格はともに5500円)です。その味わいはすでに前日の夜に予習済。
いよいよスター蔵元が登場!
時刻は午後の2時。送られていたURLをクリックしてWeb会議ツール「Zoom」(ズーム)を起動させると、オシャレな部屋をバックに座る司会のフリーアナウンサー・近藤淳子さんの姿が。近藤さんの一人語りによると、今回は60名の定員が満員御礼になったとのこと。そして、いよいよ而今のスター蔵元・大西さんが登場です。おお、若々しい! しかも、後ろの屏風がカッコイイ!
「みなさん、こんにちは。而今の大西です。コロナによるこういう状況で、私もずっと家にいるんですけど、意外とZoom飲み会やSNSが活発で、毎日忙しくしております」とのこと。へえ、今の蔵元は意外に先進的ですね。
すぐに大西さん、「ぜひ飲みながら話しましょう」ということで、「60名のみなさん、早くこの状況が打開できますように。乾杯!」とグラスを掲げて発声。筆者もこれに合わせて乾杯&同時に撮影……とムリな体勢をとったら、ああっ、やってしまいました! 貴重なお酒が倒れてお気に入りのパンツにバシャッと! 何という逆一石二鳥か! 以降、しばらくはデスク周りにかぐわしい香りが漂いました。「オンライン飲み」のあるあるですが、みなさん、くれぐれもご注意を。筆者が必死でお酒を拭いている間にも、画面では大西さんがお酒を解説してくれています。
「このお酒(而今 純米大吟醸 NABARI)の特徴はやや酸があって、甘さもあること。だからジュースみたい=ジューシーと言われます。しかも、できるだけ酸化しないように瓶詰して火入れをしていますので、ややガス感がある。だから“フレッシュジューシー”と言われています」
筆者も味わってみたところ、イチゴのような華やかな香り、たっぷりとした甘みが印象的。発泡感があって、プチプチとした舌触り。フレッシュかつキレが良く、「フレッシュジューシー」という表現がぴったりですね。また、近藤さんの「今季のデキはいかがですか?」という問いに対しては、「…まあ、頑張りました。毎年毎年、できることをやり切るというのが、而今の意味ですので(※)」と、酒銘の由来に絡めて答えてくれました。
※而今(じこん・にこん)は本来、禅の用語で、今という一瞬に集中して精一杯生きるという意味
年を取るにつれてプレッシャーは感じなくなってきた
合わせる料理については、「華やかな吟醸香があるので、油を使った料理に合う。あとは、フォアグラやあんきも、えびやかに、うにとかには合いますね」とのこと。これを受けて司会の近藤さんが、幅広い料理に合うんですね、と言うと大西さん「幅…広いのかな? いや、狭いと思います。和食の薄いかつおだしなどは合わないですし、そのあたりは悔しいな、とは思うんですが。すべてに合うお酒はないし、そういうお酒はつまらない。だから『いいか』と」。うーん、正直で潔い!
もう1本の日本酒「高砂 松喰鶴 純米大吟醸」について、大西さんは一口飲んで「うん、いいですね」と一言。「さきほどの而今は華やかで吟醸香があって、酒単体としての完成度を狙っている。一方で、こちらはより食中酒にお料理とともに完成する、料理人も『使いたいな』という酒質設計にしています。そのため、やや香りや甘みを抑えて造りました」
なるほど、さすがは人気銘柄の蔵元。1本1本に明確な狙いがあって、これをしっかりと説明できるあたり、クレバーな方だなぁと感じます。このほか造りについて、心境の変化についても語ってくれました。
「5年くらい前は、毎年、前よりいい酒を造らないと、とプレッシャーでした。でも、年を取るにつれて(現在は44歳)、自分が納得するものを作ろう、それでやることをやったんならそれでいいや、と考えるようになって、プレッシャーは感じなくなってきました。一番うれしい言葉は、『あなたのお酒が役に立った』とか『大西君のお酒で幸せな時間が作れた』といった言葉ですね。そんなふうに『酒造りで役に立ちたい』と思い始めてからは、単にひとつの香りに固執するといったことは違うのかな、と感じ始めました」(大西さん)
ほかの蔵元とZoom飲み会で評価しあうことも
このほか、大西さんは酒造の道に入る前は大手乳業会社に勤めており、基本的な仕事への心構えはそこで学んだこと、微生物の世界はアートとして見てもとても美しいこと、いまいる建物は登録有形文化財に指定されていることなど、さまざまなことを語ってくれました。また、司会の近藤さんの強めの追及により、戸惑いながらもプライベートについて言及。
「趣味はキャンプやアウトドア、写真を撮るとか、ロードバイクとか。ロードバイクをやるのは、毎日Zoomで飲み会をし過ぎて太ってくるから。オンライン飲みでは、ほかの蔵元と飲むことが多いです。夜2時、3時まで飲みますね。真面目な話が多いです。利き酒で評論をしあったりとか。アフターコロナで何が変わるのか、変わっちゃいけないことは何なのか、とかね」(大西さん)
うわぁ、アツイです! プライベートでも酒談義とは、本当に日本酒がお好きなんですね。一方、「英語を勉強している」という大西さんの言葉を受け、司会の近藤さんが「英語で而今を説明してくださいよ~」と要望したのに対し、大西さんが固く断っていたのも印象的でした。
お酒は情報や背景を知ることで、さらにおいしくなる
こうして、スタートからおよそ1時間。シメの時間になりました。オンラインのイベントについて、大西さんが最後にひとこと。
「これらかもどんどんやりたいし、もっと言えたこともたくさんあるんじゃないかと。ウチだけじゃなく、全国の蔵がやって思いを伝えるべきだと思います。お酒っていうのは、情報とか背景と一緒に飲むとよりおいしくなりますので」
確かに、今回のイベントで而今のイメージがいままでよりずっと近くなりました。実際に対面しているわけではないですが、蔵元の人柄をはじめ、いろいろと感じることが多かったです。ここで仕入れたネタは、間違いなく居酒屋でドヤ顔で語れることでしょう。
ひとつ思うことがあるとすれば、今回は先方の配信を一方的に見るだけでしたが、せっかくのリアルタイムなのだから、チャットなどで質問を送れたらよかったな……と。とはいえ、予想以上に情報量は多く、イベント自体には大満足。大西さんもおっしゃっていた通り、ぜひ全国の蔵元も、こうしたオンラインの活動に積極的に取り組んでほしいですね。
ちなみにこの「SAKE(酒)×NOMY(学)」は5月30日(土)16:00~ 、「仙禽」(せんきん)で知られる蔵元を招いて開催されるとのこと。蔵元は大西さんの飲み仲間で、ここも独特の酸味を持った面白いお酒を醸すんですよね。興味のある方は、以下をチェックしてみてください。
「SAKE(酒)×NOMY(学)」Vol.4開催概要
日時:2020年 5月 30日 (土) 16:00~17:30
蔵元:薄井 一樹氏(株式会社 せんきん)
MC:緑川静香氏
定員:先着60名
参加費:1万5000円 ※講座参加チケット+日本酒(720ml)3本込み(送料別、着払い)
販売期間:2020年 5月 28日(木)10:00まで
注意事項:日本酒は開催日前日までに送付