和食のルーツとなる本膳料理「一汁三菜」の一つ「汁」でありながら、現代では料理の脇役的に扱われがちな味噌汁。しかし、この味噌汁の素晴らしさを改めて見直し、同時にこれまでのセオリーに捉われないメニューを出すという前例のない「味噌汁専門店」が浅草にオープンしました。その名もMISOJYU。
書道家の武田双雲氏が主宰する、楽しい食事の場をシェアするプロジェクト・TEAM地球が手がけた店で、今回は同プロジェクトのブランドディレクターのエドワード・ヘイムスさんに、味噌汁専門店オープンに至った経緯から、「未来の味噌汁の楽しみ方」について話を聞きました。
味噌汁はもっと自由で贅沢に楽しむべき料理
ーー「味噌汁専門店」という前例がないお店をオープンさせた経緯を教えてください。
エドワード・ヘイムスさん(以下、エドワード) もしかしたら過去にも「味噌汁専門店」ってあったかもしれないですけど、たしかに聞き慣れないですよね。でも、「前例がないから心配」とかは考えずにオープンしました。最初に味噌汁の前に「発酵」というキーワードがあったんです。「発酵」は日本もそうだし世界中で再評価されているほど、人間にとって有益なもの。食べ物の美味しさや栄養価を高めるだけでなく保存性もある。腸内環境も良くなるし、抗酸化作用もあります。
特にアメリカでは料理のジャンルを超えて、多くのシェフが「発酵」の研究を重ねているんですけど、日本を見直してみると、「味噌」という絶好の発酵食品があります。もちろん僕も味噌汁が大好きなので、だったらこの浅草に専門店があっても良いんじゃないかと思い、お店を出したんです。
ーーただ、「味噌汁専門店」と聞くと、正直「味噌汁だけで食事を持たせられるのか」とも思いました。
エドワード よく言われることですね。「味噌汁をメインディッシュ」と考え、どのメニューも具沢山にしているから食事としては十分だと思います。日本人にとっての味噌汁は、控えめな食材を使うことが多いですよね? お出汁を取って、味噌を入れて、あとはお豆腐だけ。または、ほんの少しの野菜だけとか。聞くところによると、500年くらい味噌汁のメニューって変わってないらしいですよ。
それって「ちょっと勘弁してくださいよ」と思います(笑)。だって味噌汁がもったいないじゃないですか。味噌自体がもともと旨味成分なのだし、どんな食材も合うはず。これまで日本人が考えてきた具材だけでない、アレンジした味噌汁もあって良いと思うし、これが広まれば、もっと世界に広まる料理だと思い、MISOJYUでは既成概念に捉われない味噌汁を作り、それをメインディッシュとして出しているんです。
生クリームや豆乳を入れた味噌汁も考案
ーー「味噌汁」を主食として考えたということですけど、一般的な味噌汁よりもパンチが出るよう、何か工夫されていることがあれば教えてください。
エドワード まず味噌。最初から「有機味噌を使う」ということは決めていて、全国各地から様々なものを取り寄せて試しました。どれも良い味噌ばかりでしたけど、そのうち島根県の山奥のやさか味噌さんの白味噌をはじめ、料理ごとに様々なものをブレンドして使っています。この味噌に加えて、お出汁をしっかりとることは大事にしています。これは従来の和風出汁だけではなくて、季節限定メニューなどでは鶏ガラなども使う味噌汁もあります。
ーー鶏ガラですか?
エドワード はい。魚のアラを使う味噌汁もあるし、豚汁もある。鶏ガラの味噌汁があってもいいじゃないかという理由です。あとは、味噌汁を「スープ」として考えて、生クリームとか豆乳を入れて出すメニューもあります。
ーー……全く味の想像がつきませんね。
エドワード だけど、すごく美味しいですよ。味噌汁をクラムチャウダーとかポトフにアレンジすることもそれほど難しくないです。日本人に新しい味噌汁を提案していきたいと思っていますから。個人的に毎朝味噌汁を飲んでるけど、残り物だろうがなんだろうが、色々入れています。味噌は人それぞれ好みがあるから「これが一番」とは言えないんですけど、具材は本当になんでも良いと思います。飽きないと思いますしね。それに日本はお米もすごく美味しいし、あとは漬物くらいあれば十分だと僕は思います。ダメですか(笑)?
ーーいや、ダメではないんですけど、目からウロコというか、味噌汁をそのように考えたことがなかったので意外でした。
エドワード だけど、MISOJYUで出しているような味噌汁は、家で作っても十分美味しいはずですよ。是非やっていただきたいです。
朝の味噌汁の効能
ーー先ほど、「毎朝味噌汁を飲んでいる」とおっしゃいましたけど、日本人の間では古くから「朝、味噌汁を飲むと元気が出る」という言い伝えがあります。この根拠はどんなことですか?
エドワード やっぱり腸内環境が整うからじゃないですか? さっきも言った「発酵」の効果の一つが腸内環境が整うことなんですけど、味噌は特に効果があると思います。現に僕は毎朝飲んで健康だから。これに加えて、味噌汁で多くの食材を採れれば良いと思います。MISOJYUでは、朝ごはんセットというものを午前8時30分から午前10時まで出していて、これもすごく人気があります。やっぱり「朝食に味噌汁をいただく」というのは日本人はもちろんだけど、人間にとって理にかなっていると思います。
角煮、トマト、しめじ……手間をかけた斬新味噌汁を紹介
ーーそれではいくつか試食させていただきます。まず、「ごろごろ野菜と角煮のすんごいとん汁」。豚汁の豪華版のような位置づけですかね。
エドワード まぁ豚汁と言えなくもないけど、これはかなり手間暇をかけたもので、味噌汁に角煮を乗せたものです。角煮はフランスの赤ワインと、中国の角煮のフレーバーを合わせて、3時間くらいかけて煮込んでます。「味噌汁にそんなに時間をかけていいの?」っていうくらい贅沢に作った味噌汁です。
ーーそして特に気になっていた「まるごとトマトとほろほろ牛スネのみそポトフ」。
エドワード トマトってフランス料理、中国料理でよく使われるイメージがあるけど、味噌汁に使っても美味しいです。これに加え、柔らかくなるまで別鍋で煮込んだ牛のスネ肉を入れた味噌汁ポトフです。
ーーそして、特に今の季節は美味しいきのこを使ったお味噌汁。「森のいろいろきのこのおみそ汁」。
エドワード これは一見普通ですけど、様々なきのこを使いながら、大ぶりの丹波の大黒本しめじを一度焼いて乗せています。これも結構手間とコストがかかっています(笑)。
日本が誇る発酵食品「味噌」を世界に知らしめたい
ーーごちそうさまでした! どのメニューも美味しく、料理の主食としても十分すぎるほどです。エドワードさんがおっしゃる通り、「味噌汁って確かになんでもアリだな」と思いましたが、失敗したメニューはなかったのでしょうか?
エドワード 創る前に自分の中で味の想像がつくので、すごく失敗だったという味噌汁はないですけど、ただメニューに採用できなかったものはもちろんあります。それはですね、原価がものすごく高くなる料理(笑)。カニは本当に良いお出汁が出るし、本当はガンガン使いたいんですけど、コストがかかりすぎてダメです。
それと、昆布にしてもこだわればこだわるほど良いものが手に入りますけど、そうなると原価に見合わなくなります。MISOJYUの味噌汁は、すごく新しいモノばかりのように感じるかもしれないですが、僕の中であまり失敗したというものはないですね。
ーー今後、このMISOJYUをどんな風に広めていきたいですか?
エドワード 海外でお店をやりたいですね。お店を浅草に出した理由は「日本の味噌汁」を外国人観光客に食べていただいて、世界中に広めたいという思いが強かったからです。ただ、今年は新型コロナウイルスで外国人観光客が来ていないでしょ。
だったら海外で、味噌汁専門店を出すほうが良いのかなと思ったりして(笑)。今は営業時間も短くせざるを得ないし、なかなか難しいんですけどね。あとはMISOJYUの営業時間外に、別のスタッフを連れてきて味噌ラーメン屋をやってみようとかも考えています。
ーー外国人の方にも「味噌」は受け入れられますかね?
エドワード 受け入れられると思います。新型コロナウイルスの前に外国人の方に食べてもらったんですけど、反応が良かったのは台湾人、中国人、それから北欧の人。特に北欧の人の反応はすごく良かったですよ。北欧に「味噌」はないけど、発酵食品は結構あるので、それで馴染んだみたいですけどね。
最初にも言いましたが、日本が誇る発酵食品「味噌」は、もっと世界に知られるべきだし、絶対に受けると思っています。それを目指してこれからも味噌汁で色々な挑戦をしてきたいですね。
涼しくなっていくことに加え、美味しい食材が多くなる季節です。MISOJYUの斬新な味噌汁で体を温めるもヨシ、来店が難しければMISOJYUの試みを参考に様々な食材を使い自分だけの味噌汁を作って楽しむのもヨシですよ!
■MISOJYU
住所:東京都台東区浅草1-7-5
TEL:03-5830-3101
※現在の営業時間は不規則なため、来店の際はあらかじめ確認ください
撮影/我妻慶一
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